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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day3】会議の日
149/171

【day3】-[3]-(1)



 タオは直ぐにアサギとリオンに顔を向ける。

「まず、アサギ、リオン。ルナールからどの程度の所まで聞いた? 今のこの会議の名称とか、メンバーの大まかなところは聞いたか?」

 問われて、アサギが答える。

「昨日の会議場で『特殊対策本部』と仮称されてました組織が、SPOUP(スプープ)、またはSU(スー)という名称になったことを聞きました。それで、僕とリオン君が、総本部に直接所属することになったことと、フリュスの本部長にはスオウ司祭様、サヴァナの本部長には筆頭殿、それで、流優様と、サヴァナから〝ギーチ〟さんと仰る方がサウザーの総本部に来られると」

「おぉ、其処まで聞いてるか、なら話が早い」

 タオがチラッと振り返り、ルナールに笑みを見せた。

「君らは総本部で動いて貰うってのは、もう決定事項なんだが、正直、こう、『いかにも幹部』ばっかり揃ってる所に呼び出されるのは、ちょっと意味分かんないよな」

 タオが苦笑を見せると、アサギとリオンは一度顔を見合わせた後で「うん」と頷いた。

「いくら俺らが、〝筋〟にグロスの丘で直に接してるつっても、『上役』やれる器じゃないのは自覚してるよ。勘弁して欲しい」

 リオンが大げさに口を尖らせた。アサギも困惑した表情でもう一度頷く。タオは軽く手を振り、

「それは分かってる。君らが『隊長』のような、『指示』を()()立場にはならない、君らに『部下』が付いたりはしないよ。今まで通り、誰かから指示を()()()動く、実働隊員と思っててくれ」

 若者二人はホッと息を吐いた。

「まだ具体的に『何をする』ってのが決まってないから、魔術士隊の支隊長も此処には居ないんだしな。――今の段階で君達を呼び出すことになったのはな、流優とギーチさんがサウザー(こっち)に来る件に関連して、だ」

 何だろう、と二人は顔を見合わせた。

「流優とギーチさんがこっちに『来る』と云っても、サヴァナとフリュスもまだ『戦争中』で物騒な情勢ではある、で、二人はそれぞれの『幹部』『重要人物』だ。護衛等に割く人員を考えると――ちょっとタイムロスにはなるが、サウザー(こっち)から()()()()()方が良いだろうって話になってな」

「はあ……」

「で、アサギ。君は一度フリュスに戻って会議に参加しなきゃならない。スオウ君によると、フリュス()の会議というより、フリュス()、『家族会議』ということだから、君も、遠隔で参加という訳にはいかないそうなんだ」

「はっ、はい」

 ――「村」でなく「家」ということだと……、村の長老、地区長なども入れた会議と違い、()()()()の「幹部会議」ということになる。「内閣」という制度がある国に照らし合わせたら、「閣議」ということになるだろうか。フリュス村は「フリュス家の家族会議」が()()()()()()()()()のだ。

「となれば、君は流優を()()()()()人員として、もう決定だ。往復してもらうことになる訳だな。まだ日程は決まっていないんだが……、そういう心積もりをしといてくれ、良いね」

「分かりました」

 アサギがコクッと頷く。――「一旦自分(アサギ)が村に帰る」というだけの話じゃなくなっているとルナールが云っていたのは、これか。

 しかし、決定事項というなら、やはり、今のスプープ(この)会議に呼び出される必要は特になかったのでは――。

 その疑問を感じとっているのかどうかは知らないが、タオは先を続ける。

「で、だ。それを踏まえて、一先ず、二人を『迎えに行く』主要人員(メンバー)を、今、決めときたいんだよ。色々と事情があって、諸々の日程(スケジュール)の方がなかなか決定出来ないもんだからね、人員の割り振りだけはある程度の項目で決めておいて、日程の方をそっちに合わせるようにしようかな、と」

 アサギとリオンがざっと視線を巡らすと、そこまでは既に話を進めているらしく、誰も疑問に思ったり異論を持っていたりするふうではない。シダーは、二人とほぼ一緒のタイミングで会議室に入ったから初耳の筈だが、彼が異議を申し立てるような事柄では全く無いので、ただそれを飲み込んだ、という風情で「ああそうですか」と軽く頷いた。

「フリュスには、アサギと一緒にバーナードさんも行って貰うことになった」

「えっ、――バーナードさんは領主代理を務められているのに……良いんですか?」

 アサギが困惑してパチパチと瞬きをする。

「領主代理だからこそ、という意味もあってね。〝この世〟の政務に関わる確認やら会談やら視察やらも、()()()()()()さ。バーナードさんはまだ一度も、現司祭のスオウ君と面識が無いから、会っておきたいしって、本人がね」

「そうですか……」

 アサギが顔を傾けて、オリヴィアの隣りに居るバーナードに目をやると、彼はにかっと笑って会釈してきた。

「そこで、だ。リオン、君はどうする?」

「はっ?」

 ――フリュスの側の話をしているので、実は少々上の空になっていたリオンだったのだが、突然タオからそんなことを問われて、彼は声を裏返した。タオがもう少し詳しく続ける。

「君も、ギーチさんの迎えがてら、サヴァナに一度戻るか? それとも、サウザー(ここ)に待機しとくか?」

「ん~……、()()()()()()になった以上、何か云われるまで、ただ『待機』っていうのは、ちょっとむずむずしそうだなぁ……」

 リオンが首を捻る。

「待機つっても、城でじーっと待ってるってんでもないよ。多分、グロスや城の前の〝筋〟を観察に行ったりデータ集めたりってことは、やって貰うことになるかもしれない。それに、サヴァナに戻るなら戻るで、グロスの筋を直に見た君が、サヴァナの方の筋も観察してくれたら、それも有益なデータになる」

「ふーん……――サヴァナに〝ジーさん〟迎えに行って、その()()考えたら、何か、それはそれで居心地悪い気がする……」

 独りごちて、リオンがチラリと隣のアサギに目を向ける。

「俺も、フリュス村に行っちゃ駄目かなあ……いや、駄目デスか」

 ――常と同様にタオと会話しているつもりになってしまったが、場が違う。慌てて「一応」の敬語で云い直すリオンだった。タオに限らず、リオンを既によく知っている者――フーコーやルナール達も、苦笑を浮かべた。

「俺がサヴァナの方も筋を見てくるのが良い……ってことは、フリュスの方はアサギが見てくることになるから、〝ダブリ〟になっちゃって、あんまり役に立たないンスかね」

 首を傾げながらリオンが云うと、タオが手と首を振った。

「いや、役に立たないってことはない。君がサヴァナに戻るなら、〝手分け〟になって良いと云えるが、フリュスに行くなら、それはそれで〝念入り〟と云える。どちらであっても無意味ではないな」

 そこで、タオが意見を求めるように、マッカンとシダーへ視線を向けた。本来の領主からの一瞥を貰い、マッカンとシダーも互いに確認するような視線を交わして、小さく頷き合った。研究者の立場からしても、タオの言葉に異論はないらしい。最終的にマッカンが「仰る通りです」と小声でタオに云った。

「だったら俺、フリュスに行ってみたいッス。アサギの生まれ故郷見てみたいって気持ちもあるし」

 そこでふと、ギンがリオンの顔をチラリと見てから俯き、軽く口角を上げた。アサギの生まれ故郷を見てみたい――というより「家族に会ってみたい」という好奇心なのではないかと、ギンは思いついたのだった。そんなギンと対照的に、何故かチョウが、誰からも見とがめられない程度に微かなものであったが、苦々しそうに目を細めていた。

 タオは「ふむ…そうか」とリオンに相槌を打って、数秒、顎髭を扱きつつ何か考える。

「君に、その意志があるんなら、じゃあ、リオンもフリュスに行って貰うことにしようか。となると、もう一人は、チョウ君が良いよな」

 ――再び、今度は隣りに居たギンが気付く程度に、チョウが眉も寄せた。

 誰も異を唱えないので、タオはそのまま先を続ける。

「そんじゃあ、サヴァナの方は、〈火〉はサンハルで……、ギーチさんを迎えに行くわけだから、復路に〈風〉のマスターが居ると思ったら、同行するのはケン君ってことになるな。となると、自動的にギン君は、サウザーに待機だ」

 サヴァナとフリュスには、「戦」をしに行く訳ではないが、〈魔術士〉がある目的を持って集団で行動する場合に〈精霊〉のバランスを取ろうとするのは、サウザーで「常識」あるいは「原則」らしい。

 アサギとリオンが会議室に入るまでの間に、サヴァナとフリュスへ向かわせる人員へ〈通信〉に長けた〝三つ子〟を配置するのは決定していたらしく、タオは随分とあっさりした口調で云って、三つ子へ「頼むよ」という視線を向けてから

「さて、サヴァナに向かうメンバーの、〈土〉はどうしますかね……、まだスプープの人員として隊の割り振りは決まってませんが、〈地隊〉から誰か出して貰いますかね?」

 誰にともなく視線を巡らせた。ルナールがタオの背後で、ホワイトボードにまずフリュスの地名と四名の名を書き、それを四角く線で囲った。とても丁寧で綺麗な文字だ。走り書きではなかったから、彼女は「決定事項」のつもりで書いたのかもしれない。

 ――そこで、意を決したというふうにチョウが一度唾を飲み、

「あの、宜しいでしょうか」

 と軽く手を挙げた。――苦々しい表情を彼が浮かべたのに気付いていたギンが、思わず俯いてしまう。

 ん?とタオが首を傾げながらチョウに顔を向ける。

「どうした?」

「……私がフリュスに向かうのは、既に決定事項でしょうか。その……サンハル隊長に代わり、私がサヴァナに向かうのでは……不適でしょうか」

 タオは不思議そうに目を細めた後、少々困ったような顔をして、サンハルやディナム、マッカン、シダーにも視線を巡らせた。

「うーん……。不適とまでは云わないが……。君は、フリュスに向かうのに何か、問題があるのか?」

「いえっ、そういう訳ではありませんがっ……」

 今まで聞いたことも無い、裏返した声を出したチョウに、ギンは俯いたまま、笑いを堪えるように口元に手を当てる。そんな末弟をケンが横目に見て、チョウの背中越しに軽くギンの脇腹を抓った。

「リオンがフリュスに行きたいと云ってる以上、〈火〉である君はフリュスに向かってくれるのが一番良いんだがなあ。グロスの〝筋〟を経験している三人が、二対一でばらけるよりは、一緒にフリュスの筋も〝見て〟くれたら、それも良い気がするし」

「――」

 一瞬絶句したチョウと何故か視線が合ってしまい、リオンはドキリとした。

「俺がフリュスに行きたいって云ったの、ヤバかったのかな…」

 と、アサギに耳打ちをする。アサギは

「別に、悪いってことは無いと思いますけど…」

 と困惑したように小首を傾げながら返した。

 そこでタオの代わりにサンハルが、チョウに云う。

「実は、チョウ、サヴァナに向かう途中か帰りに、シンキに寄ることになってな、『東』に行くことになる訳だから」

「――」

「先ほどの休憩時間中に話して決まったことだから、君にまだ云わないままだったのは済まんが……。サヴァナにギーチさんを迎えに行く〈火〉の要員として、君が()()()ということは絶対に無い。……が、祖父さん(ディナム)の名代で王宮に寄ることになるのでな…、俺が行けば手間が省けるだろうって、そういう話になったのだよ」

「はっ……」

 直接の師匠でもあり隊長でもあるサンハルが、冷静ながら微かに申し訳なさそうな響きを含めて云う。ディナムも自分の方を見て、物問いたげな顔をしているのが伝わったので、チョウは「こちらこそ恐縮です」というふうに、唇を引き締め、それほど深くはないが思わず頭を垂れた。

 そういうことになった、なら――チョウが「不適」なのじゃなく、サンハルが「最適」なのだ。

 ディナム先王の名代としてシンキ王宮を訪問するとなったら、チョウだと「親書」「勅書」の類いを発行して貰って持参しなくてはならない。もしかして現国王への面会もしなくてはならないのなら、取次・手続きも何段階か踏むことになる。明らかに、シンキの王子でもあるサンハル隊長が向かうのが、言葉通り手間も時間も省けて、正解だ。


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