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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(4)深夜:講義(説諭)、質疑応答
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【day2】(4)-[10]-(2)

 アサギに向かって「君に分からん例を出して済まんね」という顔をしてから、タオがリオンに問う。問われたリオンは、ぷるぷると首を横に振った。

「いや、あの()()()()は……、多分、あんた曰くの『軸』が()()()()マイペースなんだ。『確固たる信念』ってほど()()とは全く思えない、けど……――そうだ、()()()()()『軸』なんだろうな、〝風〟に吹かれてどっちにでも向いて()()()くせに、生えてる場所は変わらない竹みたい」

「おう、まさに」

 リオンが、自分には出せなかった適確な喩えを出したので、タオがにっこりと笑った。

「柔軟にして(したた)か、()()()は変わらない。〝ギーチ〟さんのは、正にそれだ。〈精霊〉の流動性に〝流される〟ことも〝逆らう〟ことも()()()、って云える。そのためには彼くらいの、そういう柔軟な強さの『軸』が必要なんだ。びくともしない()()な『軸』を持った〈マスター〉も居るが、それは恐らく、各精霊との相性も出てくる話なんだろう。〝ギーチ〟さんは正しく〈風〉と()()()のだろうし――君達、会議を傍聴してたなら、もう見たんだろう?――シンキ王国の先王陛下、ディナム師匠はな、恐らく、『頑強』なほうだ。そして相当()()『軸』だな。柔軟性・流動性で云うと疑問符が付く感があるのに〈火〉の〈マスター〉でもあるのは、太いが故の〝懐〟(キャパ)の大きさか……逆に『軸』の〝外側〟に()()()()()()くらい固くて太い、ってところなのかもしれん」

 自分の云ったことに自分で今納得した、というふうに、タオはうんうんと頷きながら髭を扱いた。リオンとアサギも「そうか…」と息を吐く。

 二人に向かって、「まあ、そういう訳で」と曖昧に間をつなぐ言葉をタオが出す。

「リオンが指摘した、『敵味方』の偏り(ブレ)がない強さは〈マスター〉に必須なのか、というのは――あくまで俺個人の印象でしかないが、『恐らくそうだ』って答えになるね」

「……」

「さっきアサギに訊ねたみたいに――、自分の〈敵国〉に居る〈魔術士〉は明らかに『敵』なんだが、その魔術士が友、あるいは(しもべ)としている〈精霊〉は、『敵』でも『味方』でもない。そういう状況下で、〈魔術士〉は()()なければならない。……ぐらついた()()で出来ることじゃないだろう?」

 リオンとアサギが二人とも、ごくっと唾を飲んだ。

「〝自分の(せかい)〟だけで『敵・味方』という概念に()()()()()()()()ような精神力、『軸』だと、到底、〈精霊〉を御することは出来ない。そんな『軸』で〈マスター〉を()()()のは、身の程知らず、あるいは『廃人』を目指すのと同じ――とまで云っちまって良いかもしれん。()()()()()()『敵』に()()か『味方』に()()かを、()()()()()()()()()()()()のならば、それは強い『軸』と云えそうなんだがな」

 リオンがふーっと溜息をついてから、「やっぱりか――」と胸の内で呟き、キュッと唇を引き締めた。――ということは、だ……。偶々自分がまだ出会っていないだけで、()()()()()〈マスター〉も、居ることは居るのだろう。

 「敵味方」の概念に()()()()()()〈マスター〉は見たことが無い、とタオは云ったが、その()()()()()()()()()()()()()とは云っていない――となると――

 リオンは、()()()()想像してしまったのだ。ギンが云っていた「そんな崇高な理念は持っていなさそうな〈マスター〉」を。

 例えば、そういう〈マスター〉には、()()()()()()()が、通用しないんじゃないだろうか。〝敵〟が、自分の〝味方〟を人質に取ったとしても、何の躊躇いも無く〝味方〟もろとも〝敵〟を倒すことが出来るのじゃなかろうか。

 あるいは――自分が〝敵〟だと決めた相手、たった一人を倒す――殺すために、他の大多数の味方、味方でなくても赤の他人を()()()にすることにも、躊躇いが無いのじゃなかろうか。

 ――昨日から今日に掛けて特に多く、()()()()()()()、慈悲深く同時に厳格な――タオ本人は〝残酷〟と云ったが――、タオの一面を垣間見てきた。己が領土の「領民」を、頭から「味方」とは思っていない、()()()、それを守るために〈核の矢〉の「処理」に一人で向かった……。

 そんなタオと()()()()の「敵味方に左右されない、強い軸」を持つが故に――()()、そんな〈マスター〉も、()()()()()()()のだ……。

 リオンは、引き締めた唇の向こうで、ごくん、と喉を鳴らしていた。



 タオが

「さて、リオンの質問にも答えられたようだし……」

 そう云いながら、キャスターの付いた黒板を、二人の前から退かすように、窓際に向かって突いた。キャスターの滑りが随分いいらしく、大した力は入れてなかったようなのに、からからっと音を立てて部屋の中央まで走る。

 お開き、とでも云いたそうな仕草だったが、

「君達もそろそろ休んだ方が良いよ」

「あ、あのっ」

 リオンとタオの問答を悩ましげな顔をして聞いていたアサギが、タオの言葉に被さるように、小さく挙手しながら焦った声を出した。

 「君もまだ何かあったか」と、タオが苦笑して小首を傾げた。

「すみません……、僕らの方が、ルナールさんから、休むように勧めてくれと云われてたのに――どうしても、訊きたいことが、僕にも出来てしまって」

 恐縮そうにアサギが云うと、タオは軽く手を振り、

「俺のことは気にせんで良いよ。特に、アサギ(きみ)が積極的に質問をしてくるのは、本当のところ好ましい――さっきのは、余りにも『甘え』から来てたから頂けないがね――」

 そう云うと、アサギが一度、恥ずかしげに顔を伏せた。タオが苦笑を見せ、「で、何だね」と促した。

「……。ずっと、今の、タオ先生のお話を聞いていて……、もともとの、僕の性格もあるんでしょうけど、自分の『常識(ことわり)』から離れたり、『敵味方』の偏りを捨てたりっていう、そういう『強さ』を手に入れることが、物凄く、難しいことに思われて……」

「そりゃあ難しいよ」

 今度は、微かに呆れたような口調で云い、タオは肩を竦めた。

()()()()で出来るようなことなら、世の中には〈魔術士〉だらけ、〈マスター〉だらけだ」

「……いえ、あの…。〈魔術士〉や、〈精霊〉との関係に限ったことではなくて――、もし僕が()()()()()()()()()()()()、必要なことを、云われた気がしたんです。そりゃ、フリュス家の者は〈魔術士〉であることも求められているので自然と目指すことになったでしょうけど、そうじゃなくて……、フリュス家、『教会』の『法師』として、村民に説くべき(ことわり)とでも云いますか……」

「ふむ?」

「例えば、自分自身の『常識』から外れた立ち位置・目を持つというのは、他者の心や立場を慮るために必要なことでもありますし、先生の仰る通り、()()()()()()それを説く立場にあります……。でも、他者の立場にばかり気を揉んでいるようでは、それも〝ブレ〟に繋がりますよね、〝己〟という『軸』を持つ、強くすることには、繋がらない……。自分自身の――『良心』と呼ばれるような『軸』はちゃんと持った上で『敵味方』を、せめて()()は出来るようにならないと、それこそ()()()()()()()()の『味方』や『仲間』に引きずられてしまいかねないし」

「まあ、そうだろうな。成る程、そういう云い方をすれば、〈魔術士〉に限らん、幼い子供にも基本的な人間性として説いた方が良いような話だ」

 相槌を打って、タオが頬を擦る。

「――大人になると、そこに『利害』も絡んで複雑になるしな」

「はい……。それで、僕自身――それを、説くことが出来るだけの『強さ』を持つことが、出来てないと……、どんどん、そんなふうに思われて……」

 消え入りそうな声でアサギが云ったので、タオが肩を竦め、「余計なことを云ったなあ」と苦笑した。

「君の自信を喪失させるために云ったんじゃないんだが」

「いえ! それは、僕にも解ってます、ただ、僕が……何と云うか、それで『奮起する』よりは、『先に凹んでしまう』性格っていうだけです、その自覚もあるので、何とか、気持ちの持って行きようで、浮上――()()()から」

 慌ててアサギは首と手を振る。別に自分に気を遣っただけでもなく、そう努めようとする意志が伝わってきたので、タオは再び微苦笑を浮かべ、「それで?」と先を促した。

「それで……。――その『強さ』を得るためには、タオ先生が仰ったように、『卑屈』や『傲慢』に繋がりかねない『恐怖』を克服することが必要なのだろうと、そういう恐怖は『邪魔』だと、それも――その通りだと、僕自身、思ったんです。が……」

「うん?」

「――。最終的には、『自分自身の努力』に尽きるのだとは、思うんですが……、恥ずかしながら、参考までに、タオ先生にお訊きしたいんです。タオ先生御自身は、その恐怖を、どうやって、克服なさったんですか?」

「……」

 真摯な目をして、アサギが(タオ)に問いかける。タオは口を噤んで、軽く目を細めた後、ふっ――と笑みを浮かべた。

 ――アサギも自分で云った――「自分の努力に尽きる」というのが最終的結論なのはその通りなのだが、「参考までに」というのも、空言でなく本心らしい。アサギの声と目は、決して師に「マニュアル」を求めてはいなかった。先達に、「経験」を聞かせて欲しがっている。

「多分、タオ先生も――、子供の頃、いえ、生まれた時から、『次の領主』と期待されてらしたのでしょうから、幼い頃よりそういう『強さ』を持つための努力が、それを『自分のやるべきこと』と思うような環境が、あったのだろうとは思いますが……」

「サウザー領主は、別に世襲じゃないよ。そう云わなかったかな?」

 タオが軽口を叩くと、アサギは「聞きましたが」と答えてから先を続けた――タオが「軽口を叩いた」のが伝わっていたのか、まるで「スルー」と云って良い程あっさりとしていた――。

「そうは云っても、領民の皆さんや幹部の一部の方は、タオ先生が()()()()()()()()程度に、『世襲』のような意識があるのでしょう? だったら、『期待』や『重圧』(プレッシャー)は、タオ先生の幼少時にも、あったのでないでしょうか」

「ああ……まあ、結果的には、な。――そうだねぇ、そういう()()()()()期待を、プレッシャーと()()()()ための『軸』は、実際、鍛えてたかもね」


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