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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(4)深夜:講義(説諭)、質疑応答
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【day2】(4)-[10]-(1)



 タオは、自分でも「そんな話をしていたつもりはない」と思ったからか、目を細めた後「ん~…?」と悩ましげに首を捻った。

 だが、ふと何か思いついた顔をして「ああ…」と自己完結した息を漏らすと、口元に笑みを浮かべた。

「君の指摘を正解と云うことは、俺には出来ないけども、云われてみれば、そうかもしれんな」

「……そうなのか?」

「少なくとも、〈土〉の〈マスター〉である俺は、〈地精〉を『味方』と思ったことも『敵』と思ったこともない」

 自分の質問とタオの答えが少しずれている気がしたので、リオンが「え?」と首を傾げる。

 リオンが「ずれ」を感じていることに、タオは気付いているのかいないのか――肩を竦めた。

「……〈精霊〉に対して、『味方』とか『敵』とかって概念を持ってる〈魔術士〉が、〈マスター〉になれることは、まず無いんじゃないかと――少なくとも俺は、思う。これは、君の問いに対して答えにならないか?」

「――」

「君にとって明確に敵であるイー・ルが〈魔術士〉と〈魔術〉、〈精霊〉も完全否定してるから、……リオンにはピンと来ないかもしれんな――アサギ」

「は、はい?」

 タオが彼に顔を向けて声を掛ける。軽く声を上擦らせて、アサギが応じた。

「エグメリークに所属している〈魔術士〉を、君は把握しているか?」

「は、はあ……。取りあえず、風火水土、それぞれの〈マスター〉が一人ずつは確実に居るとの情報はあります。それぞれを伍長として、一応隊が四つ揃っているらしいのですが――その内訳、〈マスター〉、〈友〉の人数はハッキリ把握出来ていません。ただ、()()()は居ないようです」

「へえ。じゃあ、CFCよりは、しっかり()()()の隊を編成してるんだな。CFCは、はぐれやもぐりも加えて、人数だけ集めてるって感じだから」

 タオが感心したふうに目を見開き、リオンも「へえ~…」と声を漏らした。

「ふむ、()()()()()()()()()()()()……、ふん、となると――へぇ……」

 そしてブツブツと独り言を呟いたかと思うと、タオは不意にニヤッと笑った。

 そんなタオに若者二人は首を傾げて、リオンが「不気味」と呟くと、

「ああ、済まん、ただの独り言だ、気にするな」

 そう云ってタオは手を振った。

 それならそれで、……エグメリークが「しっかりした魔術士の隊を編成している」ことが、今の「本題」と何の関わりがあるのか? それがどうしたのか、と云うように、アサギが戸惑った顔をしてやはり首を傾げる。タオが改めて訊いた。

「じゃあ……アサギ。仮にその――エグメリークの隊の……〈水〉の伍長と対峙したとき、君は相手の〈水精〉を『敵』だと思うのだろうか? あるいは、『裏切られた』気になるか?」

「……」

 戸惑いの表情が狼狽に変わり、アサギは「い、いいえ」と首を振った。

「〈魔術士(ひと)〉は兎も角、〈精霊〉をそう思いはしないと……思います…」

 タオが「だろ?」と軽く返す。

 それから、リオンにも顔を向けて、

「だけど、〈精霊〉()()は、とても〝素直〟であるから、()()()にもなる。――()()()()()より余程、気紛れでもあり、感情表現が豊かでもあり、自分勝手でもある。故に、〈精霊(かれら)〉は、敵味方の判断(ブレ)が直感的で激しい――そんなもんだから、()()()()()()()()は、イー・ルが()()()で、()()()()()だろ、リオン」

 タオがクスリと笑いながら云う。リオンも戸惑ったふうに首を捻った。

「それって……、〈風精〉自身が、イー・ルを嫌いって意味? それとも、俺の、イー・ルへの敵意が、〈風精〉に影響してるってことなのか?」

「どちらでもあり、どちらでもない」

 〝禅問答〟のような答えを、タオが苦笑混じりに返す。

「〈精霊〉は俺達の〝層〟で云うような『個体』、数を数えられるような存在ではない……が、風火水土それぞれの〈精霊〉は『オンリーワン』で存在してる訳でもない」

「……」

「――〈マスター〉ってのは、風火水土の『精霊王のあるじ』と云い替える場合もあるんだが、これも……『概念』として説明用に作られた便()()()()()()って程度のものだ。そういう便宜的な『説明』は、伝わりやすさの点で合理的ではあるんだが、誤解も生じて結局『本質』が()()()()()()()っていう弊害が出るんだよな。()()()精霊王が一人ずつ、それぞれ唯一のものとして存在していて、その()()()()()()()()()居る……なんて『王制組織』がある訳じゃないんだが、そう聞こえてしまう」

 そう云って、タオは軽く肩を竦めてから続けた。

「――リオン、君の〈友〉は君と一緒にイー・ルを敵だと思っているだろうが、〈風精〉とてイー・ルを存在せしめている根源(エレメント)である以上、()()()イー・ルを嫌ってるって表現は正しくない。かと云って、()()()()()イー・ルを敵として戦っている〈風精〉と、そうじゃない〈風精〉……()()()()()()()()()()()〈風精〉が()()に居る訳でもない――それは、ごく基本として解ってるだろう?」

「うぅん……、まぁ……うん…」

「――そこんとこも、〈魔術士〉ならでは、の部分なのだよなあ。〈精霊〉の存在を認識していて〈術〉の形で力を貸して貰える〈魔術士〉は、それが認識できてない者と〈精霊〉の関係……『間柄』とでも云うべきか、それがピンとこない」

「……」

 タオが苦笑し、リオンは――アサギも釣られて――悩ましげに首を捻る。

「あくまで俺達の次元、〝層〟で理解しやすくするための『例え』だから、二人とも、それを重々心した上で聞いて欲しいんだがな――イー・ルは、〈精霊〉の存在を、認識してないどころか完全に無視――というか()()してる。だから、イー・ルの唱えてる『神』みたいな〝慈悲〟やら〝理知〟やらを絶対的なものとして持ってない、癇癪持ちの子供のような面が確実にある〈精霊〉は、自分を否定してるイー・ルに()()()()()()()()()()だ。これは分かるか?」

「あぁ、うん……」

「――はい」

「故に、『敵視』を、して可笑しくはない。実際、特にイー・ルは、〈精霊〉を既に()()()()()()()と云っても良い。それはイー・ルが〈風〉の〈友〉や〈マスター〉を多く擁するサヴァナを敵視し、ひいては〈魔術士(おれたち)〉を敵視したが故に、〈風精〉をも敵視した……サヴァナに()()()()()()()から、()()()そうなった。――俺はずっと云ってたよな、相手を敵にするのは自分自身、相手が自分を敵視しても自分が敵視しなけりゃ、相手は敵じゃない、って。()()()()()()()()()()()()()、別にイー・ルを『敵』とは思ってなかった」

「……あ」

 リオンが目をぱちくりとさせ、アサギに顔を向ける。アサギも、「そう云えば、リオンも自分で云っていた」と思い出して彼と目を合わせた。

「俺達の次元に於いて、明確に〝俺は敵だよ〟とイー・ルが名乗ったから、イー・ルの敵はサヴァナ、サヴァナの敵はイー・ルってことになった。ならば、サヴァナの――、リオン、()()()から見ても、イー・ルは『敵』ってことになる。が、しかし」

「……」

「〈精霊〉を敵に回したと云えるイー・ルも、()()()()()()()だろう? 根源である〈精霊〉を()()()()たら、もう存在自体がし難くなる、滅ぼされて可笑しくなさそうなもんなのに。でもこれは、サヴァナ(きみ)の〈友〉である〈風精〉と、イー・ルを存在せしめる〈風精〉が()()だからという訳じゃないし、イー・ルを存在せしめることは()()()()って訳でもない。ここら辺が、俺達の〝層〟ではなかなか真理が理解し難い、〈精霊〉の混沌なんだよな。だから――何と云うか――、〈精霊〉には敵意も好意も慈悲も残忍さもあるけども、それが、全て同時に混沌(いっしょくた)で存在して全く矛盾しない、それこそが真理――とでも云うべきか、その流動性が故に、〝この層〟に居る俺達には決して理解し尽くすことが出来ないとでも云うか……」

 〝流動性〟という言葉を示すように、タオは胸の前で両手の平を使い、まずは径十センチほどの球形を示した。それからパンの生地を丸めたり捏ねたりするような仕草をし、次には伸縮性のある布をぐにゃんと伸ばすように拳を上下に引き離す仕草をした。

 ――彼を知っている〈魔術士〉ならば、ほぼ口を揃えて「偉大」と称するタオが、大層悩ましげに首を捻りつつそう云った。そんな彼……〈精霊〉の主(マスター)たるタオにも理解と説明が出来ないというなら、一体自分達のような若造にどれほど〈精霊〉の理解が出来ているのだろうか。

 アサギとリオンは顔を見合わせ、困ったような顔をした。――が、それも実は「当然と云えば当然」なのかもしれない。「偉大な魔術士」であるタオが全てを理解し尽くし、()()し尽くせる「世界」が〈精霊〉の「世界」だとすれば、イムファル等の「研究者」は居なくても良いのだ。

「だから……何と云うか……、〈精霊〉には敵意も好意も、全て同時に流動性を伴って()()以上、〈マスター〉である(こちら)()()()()()()()()()()()――特に『敵・味方』という〝偏り(ブレ)〟を持たない確たる『軸』を持ってなきゃいけない、ということかな」

 パン生地や布を捏ねる仕草をしていたタオが、それを止め、ピタッと体の真正面で指を立てた。

「そうじゃないと、自分自身の感情……例えば『怒り』と〈精霊〉の()()が重なった時、〈精霊〉からその感情を増幅(ヒートアップ)させられて自分を全く制御出来なくなる恐れがある。〈マスター〉どころか、〈精霊〉の()()になってしまいかねない。そうなってしまうと、最後には『人間(ひと)』としての存在すら危うくなるからなあ……」

 アサギとリオンが、ふむ……と真剣な顔をして頷く。特にリオンは、「やっぱり」と胸の内で呟いていた。

「少なくとも俺自身は今まで、その『軸』が()()()()()〈マスター〉には、会ったことがないよ。アエラの負けん気や口の悪さ、『集中する余り脱線する』クセも、『軸』の強さゆえであるし、――ああ、アサギはまだ会ったことが無いだろうが、リオンから振られたんでどうしても〈風〉の人が例えに浮かんでくるな――リオン、サヴァナの親方達はどうだ。〝ギーチ〟さんの、『気紛れ』『散漫』と大差ないマイペースな性格は、〝ぶれてるから〟〝軸が弱いから〟だと思うか?」


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