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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(4)深夜:講義(説諭)、質疑応答
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【day2】(4)-[9]-(2)

「そうして、より直轄地(ここ)に近いサウバー山系西の領内小国も、正式なサウザーへの宣戦布告前後……、CFCの前線が近づくにつれ、一般民衆を可能な限り(こちら)へ避難させた上で、同じように『領』から()()()()()した。――味方だと思っていた対象(あいて)から裏切られるより、味方したい相手から『味方しないでくれ』と頼まれる方が……結構辛いよ。それは、俺に味方してくれているのに俺は味方出来ない、ってことなんだからさ」

 二つ目の溜息をつき、数秒だけ物思いに耽るように、タオが目を閉じた――リオンとアサギは口を挟めない。

 ゆっくりと目を開けて、タオは二人に、穏やかにして真摯な声で云った。

「『味方』ってのは、()()()()()()()()。味方した相手から味方して貰うことを期待するのは、人情として仕方ない――だが、それを()()ようとはするな。相手が味方してくれることを期待して味方になるな。それは、『打算』と云うんだ。そこに、真の意味の『互助』と『友愛』は無い」

「――」

「己の信念や感情に()()()()味方したいと思った相手に味方()()こと、その時だけ、『味方』という言葉を使って良いんだ。どんなに自分に不利益があろうが、相手が自分の味方はしてくれないとしても、だ」

 タオの声は、まるで自分にも云い聞かせるようなものだった。――神妙に、若人二人が頷き、リオンは、ふと――無理に作ったものだろうか――苦笑を浮かべ、

「……あんた、アサギより余程、人が好いじゃないか」

 と云った。うん?とタオが首を傾げる。

「自分に何の見返りも無くても、不利益があっても、自分が味方すると決めた相手には味方するって……。あんた、『人情』って何度か云ったけど、『自分に不利益があるときには()()()()()()何もしない』って方が、()()だし()()だろうよ」

「……ふん…。だから俺は、そういうのを〝味方って云わない〟って云ってんだよ」

 鼻を鳴らしてタオは苦笑する。次には、ニッと意地悪い笑みに変えた。

「それを君は人が好いって云うんだな。俺は、自分を『冷酷(シビア)』だと思うけどな」

「はん?」

「味方してくれる・してくれたことに『感謝』は必要だ。だが――俺は、俺に味方した対象(あいて)に、()()()()味方はしないぞ? どんなに相手が、後で味方してくれることを期待しててもな。それを無条件でしなきゃならないのが渡世の()()ってんなら、そういうのは『味方』とか『友情』とか云わない、ただの()()()()だ、こっちは借りる気も無いのに」

 タオは軽く肩を竦めた。

「俺自身はな。()()()()()()()()()()()()()()、または、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、自分の感情や価値観、理念と信念に逆らうような事象・人物(あいて)に味方はしない」

 きっぱりとタオが云い、リオンは少々混乱したふうに首を傾げた。

 タオは

「俺は別に難しいことを云ってるつもりはないし、煙に巻いてもいないよ?」

 苦笑混じりにそう云って、アサギとリオンのそれぞれを指さした。

「例えば、アサギ。仮にリオンが〝銀行強盗〟でもして、君のところに、『盗んだ金を半分やるから』『匿ってくれ、逃がしてくれ』とやってきたら()()()()?」

「……」

「逃げるために、追っ手を殺すのを手伝ってくれ、と云われたら?」

 困惑した表情で首を傾げ、アサギは隣のリオンを見る。「俺はそんなことしねーけどな」と、タオの〝例えば〟が不満だと云いたげに、大げさに口を尖らせた。

 フフッと笑った後タオは、特に返答を必要としていたのでもないらしく直ぐに、

「俺は、そんなリオンに()()()()()。ただ、そう云っている」

 あっさり云った。

 ふと、アサギもリオンも思い出す――「友達だろ、と云いながら〝金〟の無心をする者や悪い誘いを掛けてくる者とは、距離を置くか関係を見直した方が良い」、さっき、そんな話をギンとした。

 タオは、それと同じことを、云っているのか。

()()()()()で、サウザーは――。もし、サヴァナが、この『竜巻』『鳥女』の騒ぎを〝好機〟と見て、イー・ルの都を()()()()するようなことがあれば、その時点で、もう『協力』や『味方』は出来ない。フリュスが、その和平協議でエグメリークの憲法改定、ひいては国家体制の変更を要求することがあれば、やはり『協力』は出来ない、それを〈敵〉の側から行うことは、エグメリークという()()()()()のを『目的』とすることに繋がるからだ。――もっと分かりやすく――当然、フリュス村がエグメリーク王国の『統治』『政治』(まつりごと)の権限を要求するなら、それにも協力や味方は()()()。それは、()()()()()()()()()()()()

「――」

「しかし、()()()()()()()のは『見て見ぬ振り』だ。俺達三者に〝文書〟等による正式な〈同盟〉関係は無いことを、イー・ルやエグメリークが()()()()()()()()()()()、やはり今までの既成事実としての関係性がある以上、見て見ぬ振りは出来ない。故に『止めようとする』。……その時、サウザーが止めようとすることこそ、サヴァナとフリュスの意志や理念に反するなら、もうそれまでの『関係性』が失われるだけだ、サウザーは、()()()()。その通達、()()をする」

 神妙な顔付きの二人へ、タオは軽い口調で

「俺は、()()()()()を云ってるか?」

 と訊いた。アサギとリオンは――首を横に振った。

「当然、君達(そちら)の側からも、将来サウザーの有り様がサヴァナとフリュスの理念と相容れなくなったら、いつでも関係を断ってくれて構わんのだ。――もしかして、エグメリークからフリュスへやってきた『和平協議』が、エグメリーク国王の独断だとすれば、向こうは、()()()()()()()()()()()〈同盟〉となっているCFCやイー・ルから面倒臭い文句を食らうかもしれんが、()()()()()()()()()()()。『もうあんた達には付き合ってられない』と、タックさんなりスオウ君なりが、口で絶縁宣言さえしちまえば良いんだよ。そこまで行かなくても、()()()()で、付かず離れず、味方出来るときにはする、それだけで一向に()()()のさ」

 タオが肩を竦める。

「……実は、この点でも、サウザー()の成り立ちも同じようなものだ。流石に対外的なものがあるから、文書こそあるけどな。会議を傍聴してたなら、マッカンさんが云ってたのを聞いただろ? (サウザー)の理念に反する国や自治体が出てきた場合、問答無用で即脱退させる(おいだす)のは、あんまり横暴だから、諫めたり宥めたり何だりって手順を、本部側(こっち)からは踏むけどもさ、領内国家(むこう)側から離脱を云いたけりゃ、サウザー(うち)では、さほど面倒な手順は要らんのだよ。『理念』『方向性』だけで集まってるんだから、それが変質するなら、『同調』する必要も無いのさ。実際それで、サウザー領の()()だけなら、一番大きな時と比べるとかなり減った」

 ふ、とタオが苦笑とも冷笑ともつかない表情を見せる。

「君らは未だ知らないだろうが――というより、もう知る必要も無いんだが、本部より西には、今の戦に絡んで敢えて離脱した自治体以外にも、〝元サウザー領〟はある。先々代と先代――俺の祖父さまから親父の代は、現在の戦程じゃないが、たまにゴタがあってな。領が物理的に広くなればなるほど『理念』の共有が難しくなるとでも云うか……。――領主(じぶん)が云うのも面映ゆいが、サウザー領ってのはどうも傍から見て『豊か』で『恵まれてる』、『強い』『大きい』国らしい」

「……まあ、それは、云えるだろうな……。治安が良くて、貧民が居ない――俺はまだ本部(ここ)しか知らないけど――」

「領土も実際に広く、必然的に資源や人材にも恵まれている気がしますし…」

 戸惑いつつも若者が頷く。タオは肩を竦めた。

()()()()()で見る者は、『理念(たましい)』を見ない。もうちょっと具体的に云うと――、サウザーをそういう目で見て、『妬む』者や『羨む』者が、同時に『憎む』と、CFCみたく〝侵攻〟を始める」

「……」

「『憎む』ところまで行かない者が、――これも面映ゆいな――『見習う』んじゃなかったら、――これも言葉は悪いが――『甘える』『媚びる』んだな。敵に回るよりも〝味方につける〟とか〝仲間になる〟方が()()、ってな考えだ。サウザー領が()()()()()()は、()()()()()も結構入ってた。……()()()()()は、結局『理念(たましい)』が相容れない。俺達(サウザー)は、『豊かで恵まれていて強くて大きい』国を()()()()()()()()()、まず『理念』『精神』があって〝それ〟が結果として付いてきただけだ。だから――それが『目的』である者、その目的自体が『理念』である者が、サウザー領に()()()()()()()()()()()となったら、結局、『領主』『本部』に不満を持つんだよ。理解出来ないままの理念に共感した()()だけで領に入った者は、必然的に本部の方針も理解出来ないからな、そのうち『ついて行けない』って云い出す。まあ、最初は『共有』出来てたけど、時間が経つにつれ変質した、ってトコもあったのかもな。――で、俺の親父の頃に()()()()()あって、西側で領土だった国や自治体が、幾つか纏まって離脱した。そのうちのいくつかは、俺が領主になる前後――CFCが東進を始める前後でもあるな――に、()()()()()()()()()

「――えっ…」

「ああ、多分……、『火の巨人』と連中曰くの『地獄の怪物』が襲ったっていうCFCの()()()()ってのは、〝そのうちの一国〟に新設された常設の拠点基地(ベース)なんだろうな、武器庫とか云ってたから。……戦中に進軍した先々の前線基地(キャンプ)ってんなら〝武器庫〟とか〝設備〟が壊滅、って表現は何か違和感あるしなあ」

 何か思い出したような声、()()()()()()独り言の口調で、タオが云う。ニッ、と口角を上げて、タオがさらりと続けた。

「かと云って、俺は『ザマァ』とも思わん。同時に、()()()()()()()――それが宣戦布告してきた()()()()基地であるなら、火の巨人がそれをやらなくても、いずれサウザー(おれ)がやっていたのかもしれん訳だし。単に、一度はサウザー領だったところが、出て、UCFCに入った。その後の今がある、と思ってるだけだ」

「……」

「――解ったろ? 『理念』だけで『領』が形成されるサウザーは、それが相容れない『領土』には()()()()()し、特別な()()()()()()()。――俺は自分を、人が好いとは思わんね」

 アサギとリオンは戸惑いの表情を見合わせた。

 ――要するにタオは、「去る者を追わない」と云っているらしい。去ろうとしている者が、どんなに自分に利益をもたらす者であっても、過去にどんな恩義や親交があったとしても、それが、自身の〝魂〟と相容れない者ならば、「もう相手はしない」し、攻撃することも吝かではない、と……。

 冷酷とまでは云いがたいが、「薄情」とは云えそうな気が、アサギにもリオンにもした。

 だが――「味方はするものであって、して貰うものじゃない」とキッパリ云う(タオ)から()()()()()()()()()()()()が、離れても裏切っても敵に回っても、それすら「向こうの理念と反するのなら」構わない、怒りも恨みもしない――感慨は無い(なんともない)と云うのなら、「薄情」どころか、リオンが云ったとおり、「人が好い」にも()()()()、とも云えるのじゃないか……。

「さっき、リオンに云ったけどな……フィズ君達の身元がイー・ルにバレて逃亡する羽目になったとき――()()にサヴァナとの絆さえあれば、()としてサヴァナから脱けてほとぼりを冷ますことが可能なように、サウザーとフリュスとサヴァナにあるのも、互いの国・組織としての『理念』や『信念』だけだ。それが相容れるものであり、長らくそれが同じ方向を向いていたから、世界規模でも〈同盟〉と見られるほどの『関係性(きずな)』が生まれていたんだ。――裏返せば、()()()()()()()。俺達は()()()()()味方し合ってた訳じゃないんだよ、味方し合ってたから〈同盟〉と呼ばれたんだ」

 タオが自分の胸を、親指で指しながらそう云った。

 ――再び椅子の背もたれに身を預け、タオは腹の前で手を組み、しみじみとした声で、若人に語りかける。

人間(ひと)が、たった一人では生きていけないのは、もう分かりきったことだ。だから、誰かに助けられていることを常に意識し、『感謝』することを忘れちゃあいかん。――こんなことは、君らも子供の頃から、耳にたこが出来るほど聞いてるだろう。アサギは、聞くどころか、もう子供達に〝説教〟してもいるだろうな」

 クスッとタオが笑い、アサギは一度、恥ずかしげに俯いた――〝法師〟でもある自分は、確かにそれを「子供達」に教え諭す立場にある。だが……、それを胸張って云えるだけの「人格」はまだ自分に備わっていないと思うので、少し、申し訳なくて恥ずかしくなった。


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