【day2】(4)-[8]-(3)
「しかし、それだけでは『土塊』がそれをしたのかどうか、分からんだろう。フリュスとエグメリークの戦とは全く関係無い勢力が茶々入れてきたのかもしれない」
「いえ、それは姉様も――多分グロスの丘でタオ先生が行ったのと同じようなこと……、〝別の層〟の存在達に聞き込みなどもやったりして軌跡を辿ったらしく――、あ、そうだ」
改めてタオがアサギに問うと、彼は小さく首を振った後で、何か思い出す声を出した。
「済みません、伝え忘れるところでした。それと絡んでいたので二つって云いましたけど、早めに云っておかなきゃいけないことでしたから、〝三つ目〟って云っても良いのかもしれません」
「ん? 何だい」
やけに恐縮そうに、頭を下げながら慌てた声でアサギが云うので、――何を謝られることがあるのか、それをまだ聞いてない以上――タオは少々呆れた顔をして首を傾げた。
「――僕からも『火の玉』について、伝えておいたんです。当然と云えるでしょうが、司祭様や流優姉様も『土塊』との関連性を重要視されて……。それで……、姉様は『土塊』を追跡した際、もしかしたら、今後に於いてあれを『感知』する手がかりになりそうな『理』、その片鱗を見いだしたかもしれないと――」
「何だとっ」
タオが目を輝かせ、机に腕を突っ張りながらアサギに向かって身を乗り出した。反射的にアサギは身を引く。
「あ、あの、〈通信〉で簡単に伝えられることではないそうですから、僕はそれを聞いてないんです、先生」
「あ、ああ……、そうか、済まん。――テンションが上がりすぎだな」
腰まで浮きかけていた、タオは苦笑しつつ椅子に深く座り直す。
「兄様達は、〝竜巻〟については、全く口になさいませんでしたので、もしかしたら未だサヴァナのことはご存知じゃないのかもしれませんが……。『火の玉』の検証にも役立つかもしれませんから、まず大まかな部分を纏めて、イムファルさんに〝文書〟を送ると仰ってました。それと、サヴァナの方に〈装置〉開発のご協力を申し出るかもしれないと……」
「ほう! ――ふむ、ということは、〈魔術士〉ではないイムファルにも理解が可能な『理』を秘めている可能性があるのだな……となると、マッカン君も居るんだから、随分進展がありそうな……」
ブツブツ呟きながら、タオが紙に文字を書き殴る。それが終わるのを待とうと思ったが、随分と楽しそうな師匠を落胆させるのも恐縮なので、アサギは「あのぅ…」と恐る恐る声を掛けた。
「あの…タオ先生、一応申し上げておきますけど、スオウ兄様も、『あくまで〝土塊〟で見いだしたものであるから、〝火の玉〟については全く参考にならないかもしれないが』と……」
「ああ~、そんなことは気にせんで良い! 『土塊』だけでも、全く解らんより少しくらい解る方が、相当な進展だ。それに、『何も無い空間に突如現れた何か』『引き連れた百鬼夜行』という共通項があって、まっったく違う理に基づくと思う方が、可能性として低いだろうよ。勿論、過度の期待は目を眩ますから俺だって『それはそれとして』って心には留めてるよ。――君がそんな恐縮そうな顔をせんで良い」
タオは呆れたような声でアサギの言葉に被さりながら手をぶんぶんと振る、最後にはニッと笑った。はあ…とアサギが首を縮める。
「ふぅむ、俺個人としては、今のが一番〝収穫〟に思える情報だったな。もう本気で、和平協議はフリュス独自でちゃっちゃと進めてこっちに集中して貰いたいところだ――いや、そのためにエグメリークの要求飲みまくることになっちゃマズいから、無責任なことは云うちゃいかんが――」
「……」
「ああ、済まん。それで――『土塊』が基地を襲撃して、その後のことも、あるのか」
独り言を吐きすぎたことに気付き、タオがアサギに顔を向ける。アサギは一つ「ほっ」と息を吐いた。
「――時系列として『その後』というのはもうありませんが…。――リオン君が実際に映像で見たのとは違いますので〝事実そのもの〟でもないのですけど、流優姉様が〝見た〟ところによれば、『土塊』のほうも、基地の設備――主に武器庫・弾薬庫を壊滅状態……というか空にしたようです。ですが、死者の数は把握出来ないくらい……だったと」
「――ふむ」
再びタオがペンを動かす。
「いよいよ『共通項』だな。なあ、リオン、君が見た〝竜巻〟と似てるじゃないか」
タオはリオンに顔を向けて首を傾げてみせる。リオンが腕組みをして「う~ん……そんな気がしなくもない」と呟いた。
「君達には、まだ云ってなかったんだっけかな。――実は『火の玉』……『巨人』も〝それっぽい〟んだ」
「トラックの中で話してたのは、まだ『想像』の範囲だったよな。その後の情報、来てたの?」
「そう、昨晩、諜報から簡単な情報が入ってた。CFCの東部基地が襲撃されたのは間違いないらしい。で、設備がかなり痛手を負ったらしいんだが、その時点で『人的被害は未だ報告されていない』という内容だった――表現のニュアンスが少々違うが、『共通』してる感じはするだろ」
アサギとリオンが戸惑いがちではあったが、頷く。――「戦」のための「基地」が壊滅的被害を受けて、「人的被害が報告されていない」というのは……。「報告できる人員が居ないくらいの〝全滅〟」か、「暢気な報告になっても構わないくらいに被害が皆無あるいは僅少」か、どちらかと考えられる。〝竜巻〟や〝土塊〟と併せて考えてみたら、後者の方が可能性として高い気が――。
「ふん……和平協議の打診…か、成る程――」
「……」
「俺も『たまに慎重すぎ』なんて云われることはあるが、スオウ君は、輪を掛けて、だな。それとこれを関連付けて話さなかった、だって?」
タオがアサギに顔を向けて肩を竦めると、アサギも苦笑を漏らした。
「俺としては、『関係無い筈が無い』と思うよ。君と同じだ。――フリュスとエグメリークに限らず、サウザーとCFC、サヴァナとイー・ルもそうだが……お互い様で疲弊してる。そこんとこ持って来て、基地が壊滅状態なんてな。少なくとも、もうとっくに民衆はうんざりしてるんだ、戦に。何かキッカケさえあれば、権力者とてうんざりして可笑しくない状態の筈だ」
「はい……」
「――スオウ君は、『ソレとコレには関係ある』と思っていても、『自分のやるべきこととは関係が無い』から、わざわざ関連づけて語りはしなかったのかもな」
タオが独り言の口調で呟くと、アサギが「というと?」と首を傾げた。
「俺の想像だけどな。スオウ君の中では、既に役割分担が出来ているのかもしれん。恐らく、『土塊』に関しての分析等は、自然とリューが主導を担うことになったのだろうし、ならばスオウ君は〝フリュス村の最高権力者〟として、エグメリークとの外交に集中するって決断をしたんじゃないかな。――〝最高権力者〟としての決断が、領主職を代理に預けた俺とは逆になった、というか…」
「あ、ああ……それはそうかもしれません」
実際、フリュス村での「役割」を良く知っているアサギは、「云われてみれば」と頷いた。
スオウは〈魔術士〉でもあるが、その「実践者」として働くことは――それを民から求められることは余り無い。「まつりごと」の長として働くことが主である。対して、流優は、まさに実践者たる〈魔術士〉として動く。此度の戦でも、フリュスの魔術士、サウザーとサヴァナから派遣された魔術士で結成された隊を率いる――サウザーの魔術士隊長サンハルと同様の――立場にある。
「となると、『土塊』――と云うより基地の被害と和平協議に、エグメリーク側では因果関係があっても、フリュス側には関係無いしな。和平は和平、土塊は土塊だ。それに、エグメリークとフリュスとでは、『土塊』の認識にズレが確実にあるだろうから、因果関係をハッキリさせようとすると、却って面倒になるかもしれないし――特に協議の場でな――」
「え?」
「エグメリークは『土塊』を、フリュスからの攻撃だと認識してるかもしれないだろ。こっちでも、火の玉や百鬼夜行を、俺達がやったって難癖つけられたしな。――協議の場で、戦の開始から終了まで纏める場面になったとき、最終的な〝事件〟で、『おまえがやった』『やってない』って、また面倒になりそうじゃないか。今からそれを予想するとあんまりややこしい、外交は外交で慎重に、裏では『土塊』の――エグメリークにも説明出来るほどの分析を出来るだけ早く。そんな感じかな」
「ああ、そうか…」
「まあ、何にせよ、エグメリークにとって、拠点となる基地が壊滅的被害を受けたなら、それは痛手だ。少なくとも〝一番エラい人〟は兎も角、国王が、民衆同様つくづくうんざりしても、不思議じゃない」
億劫そうに溜息をつき、タオが云う。アサギも眉を顰めて「ええ…」と呟いた。黙って聞いていたリオンも、こくっと頷き、唇を引き結ぶ。
「――アエラ曰くCFCの〝腰巾着〟は、最初に触れて以降、次には〝腰〟が無くなったことだけ、何の足しにも進展にもならない罵りだけを寄越したけども……エグメリークは、もう諦めたか、腹を括ったかしたのかもしれんな。『土塊』で引導を渡された気になったのか……、ただ、それが『左大臣から』ってのが、真意を量りかねて悩ましいんだがな――。『白旗』挙げるつもりになった、とまで、考えても良いんだろうか……。そういや、さっきリオンがチラッと云ったな、エグメリークの方が『どうだ、降伏しろ』って云われた気分になったのかもしれんな……。向こうからしたら『あがき』のつもりで、『白旗』じゃなく『和平』を打診してきたってところか……? う~ん……」
紙の上に、ペン先をトントンと当てながらタオが呟き、最終的には紙を眺めたまま口を噤んだ。
――アサギは、一通り司祭から告げられたことをタオに伝え終えたと思うので、彼からの質問なり「もう帰って良い」との声掛けなりを待っていたのだが……
「やっぱり、〝あれ〟は味方なんでしょうか……?」
少々不安になるような沈黙の間だったからか、そんな疑問の声が出てしまった。
――それを聞きつけたタオがぴくりと目を細め、アサギに目を向ける。アサギは、ビクッと肩を竦ませてしまった。
一瞬のことだったが、タオの目つきは先ほどリオンにも垣間見せたような、とても冷たい、「憤り」を滲ませたようなものだった。




