表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(4)深夜:講義(説諭)、質疑応答
125/173

【day2】(4)-[7]-(1)



「さて。――リオン、()()。ニック君からの情報は、まだあるのか?」

 ――今までの「説教」に不平不満は無いから、「脇道」「脱線」という意識も今まで無かったが、改めてそう云われてしまうと……、リオンは、心の底から「何処まで話したっけ」と焦ったことで、相当長い間()()()()()のだと、そこで気付いた。

 幸い、思い出す取っかかりは黒板にある。〝T〟〝L〟等の文字は「説教」で使われた部分だし、直線や点線、楕円形等は自分達の「イメージ」を模式図にした部分だ――

「えーと……。俺、〝(はね)生やした女〟の見た目、三人分と、フィズさん達の地点……まで云ったんだよな」

「そうだな」

「……。あんたが聞きたいメインの情報、って意味だったら、そこまで、かな…」

「俺が聞きたいメイン? 何でそんな判断が付く」

 少々からかうような口の歪め方をしてリオンが云ったので、タオが目を細める。

「あんたが今知りたくて仕方ないのは、〝鳥女〟に関する詳細(こと)だろ――それに関しちゃ、直接には今んとこ打ち止めかな、と」

「ふっ……」

 タオが「お見通しだな」と呟くと、リオンは呆れたように「ダダ漏れだよ」と返した。

「じゃあ、それ以外なら何かあるのか? 『直接』ってことは、間接的になら何か〝鳥女〟に関することも?」

「まあな。――フィズさん達の()()()()()……の部分で」

 そう云うと、リオンは苦笑を浮かべた。何となく思い出し笑いのようにも見える。――そう云えば、同じような笑い方を、話し始めて最初の頃にもしていたような。

タオ(あんた)もそうだし、多分サヴァナの親方達もそう、フィズさん達本人もきっと()()だろう……本当なら、〝その女〟の正体を探るのに集中したいところだけど、生憎、フィズさん達は()()()()()()()イー・ルの情勢を探るのが本来の任務(しごと)

「ふん、それはその通りだな」

「あんたと話してて思ったけど――多分、フィズさん達、イー・ルの民衆(パンピー)にも詳しく『聞き込み』でもしたかっただろうなあ、そっちの人相がきも作りたかったかも。でも、そういう訳にはいかないよな、怪しまれちゃ困るもん。で、……俺は、パンピーが見た『方向』とかは全くニックに確認してないので、それはポカだったと認めます、ハイ」

 独り言のようにリオンは云って、自己完結した後、おどけてタオに頭を下げた。

 タオも拳を口元に当てて苦笑し、それで?とリオンに首を傾げた。

「人相がきが作れる程の聞き込みは出来てない……ということは、ぼんやりと耳に入ってきたくらいの〝情報〟はあるんだな。パニックになったってことは、『鳥だ!飛行機だ!』みたいな喧騒も当然起きただろうし」

「その通り。ただ、()()にとっては、何の〝情報(たし)〟にもならないような〝悲鳴(こえ)〟だけさ。――ガフの『黒い魔女』は、まだ()()()だよ、『黒』って情報だけならあるからな」

「……ふん、どういう()()()な悲鳴が聞こえたと?」

「大方三種類に分かれる。――〝悪魔〟〝天使〟〝化け物〟」

 肩を竦めながらリオンがあっさり云うと、タオはククッと喉を鳴らした。

「成る程……。そりゃまあ、仕方ないことだが、何の〝足し〟にもならんな。『で、具体的にどういう姿をしているものを見たんだ?』――と、聞くに聞けないフィズ君達のもどかしさも手に取るように分かる」

 リオンが再び、思い出し笑いのような苦笑を見せ、――一度、何故かアサギにちらりと目を向けた。

「――リオン、さっきから、何が可笑しい?」

 首を傾げてタオが訊ねる。するとリオンは「あんただってずっと、事ある毎にニヤニヤしてんじゃんよ」とまず返した。

「いやさ……。そこで間諜の『本来の任務』。その混乱(パニック)……イー・ル上層部の『火消し』の仕方、アナウンスがさ、俺には、支離滅裂(アホみたい)で、笑えるほどなんだよ」

「ふん?」

「まず――神聖なるイー・ルの都に〝悪魔〟など入り込める道理は無い。万一、その姿を見たとしても、〝悪魔〟に慌て、恐れ、怯み、屈する民が居る筈も無い、居るならイー・ルの民にあらず……だってさ」

 再びリオンが軽く肩を竦める。タオは苦笑し、アサギは戸惑いの表情を浮かべていた。

「で、〝天使〟な。――〝神〟と〝天使〟は()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()。それを見たと云うなら〝悪魔〟に唆され、信仰を惑い(あやま)った者である。いずれ訪れる罰を恐れよ……だって」

 ――それを聞いて、戸惑いの表情を浮かべていたアサギが、今度は眉を寄せた。

「最後、〝化け物〟。これはあっさりしてんよ。〝化け物〟などこの世には()()()、とよ」

「くっくっく……」

 タオも、抑えきれず笑い声を漏らす。

「つまり、『()()()()()()()()()()()()、騒ぐな、黙れ』ってか。取りあえず、そういう『火消し』か」

「そういうことだな。ついでにサヴァナ(おれたち)に矛先回して『士気の低下を抑える』ってつもりも、あるのかもな。連中曰くの〝悪魔〟って、今は俺達(サヴァナ)を指してんだもん」

 リオンはこともなげに、軽く肩を竦めてそんなことを云った――眉を寄せていたアサギが、呟く口調で云う。

「黙らなければ、罰せられるか、追放されるか、ですか……」

「――っていうか、追い出される・罰せられるのが嫌なら黙れ、って順番(いみ)だと思うけどな」

 リオンがさらりと云い、アサギは小さく俯く。その表情は、まだ眉を寄せたままだ。

 ――フリュス村のフリュス家は「教会のおうち」だが、彼らが司っているものはイー・ルの云う「神」や「信仰」と全く性質が違う。フリュスの法師であるアサギは「神」というものが「居る」と思ってはいない。しかし、CFCのように、「信仰」そのものをナンセンスだと考えている訳でもない。

 が――ギンもリオンへ諭すように云っていたが――、イー・ルの体制が強いているそれは、明らかに「違う」、アサギにもそう感じられて、一度唇を噛み、ふぅっと音が聞こえるほど、鼻から一つ大きな息を吐いた。

 悪魔・天使・化け物――そのいずれにせよ、人民が「今まで見たことの無いものを見た」という状況で、衝撃・不安・恐怖・もしかすると()()()()()に襲われている時、そこから「救う」ことを考えず、黙らせる、突き放す、まして罰する――そんな法師、導師、僧侶が居て良いものか? 否――。

 アサギが珍しく――というより、初めてかもしれない――()()()()()()様子を見せたので、タオとリオンの二人ともが少しく驚いた。リオンは目をぱちくりとさせ、タオは「ふむ」と感心したふうに鼻を鳴らした。

 アサギに特に声掛けはせず、タオが黒板を振り返って、「ふぅん…興味深いな」と呟く。

「リオン、これはニック君からハッキリと聞いてるのかな? そのアナウンスをしたイー・ルの体制側、幹部本人達は、〝鳥女〟――〝悪魔〟〝天使〟を()()()()()()()

「えっ?」

 リオンがきょとんとして首を傾げた。タオが苦笑する。

「……リオン、もしや、それもちょっと、『火消し』って言葉に引きずられて、君自身の()()()()が先行して云ってたんじゃないか? イー・ルの幹部本人達は()()()()()()()()()()()から、()()()『妙な風聞を撒くな・冷静になれ』って意味でそういうアナウンスをした、とも考えられるだろう――勿論、その内容が為政者として褒められたもんじゃないのは確かだが」

「あ、あぁ、そうか……」

 タオの言葉を聞いて、アサギも顔を上げ、今度は戸惑いの表情を浮かべていた。リオンが「合点した」と頷いた後で、手を振る。

「いや、そういう訳じゃあないと思う。そりゃ俺も、幹部が『見た』上で『そう云った』っていうことをハッキリ聞いた訳じゃないけどさ……云ったろ、慎重な物言いする()()()()()()、『火消しに躍起』って感じの表現を、もう使ってたっぽいんだよ、ニックの話しぶりだと。そりゃ、フィズさんはもっと理性的っつか、()()()()を使ったかも知れないけどさ?」

「ふむ?」

「そりゃまあ……()()()()()()は、ずーっと屋内に居るだろうから、外に現れた(でた)〝鳥女〟を見てないままってこともあるだろうけど…、()()()とパンピーの間で上層部(エラいやつ)ってことになる『導師(ぼーさん)』達の連携もかなり混乱してたらしいし――都の『礼拝堂(てら)』って結構あるから、そこの『ぼーさん』とか職員が一人も見てないってことも率としてあり得ないしさ――。本気で〝鳥女〟見てない二~三人の幹部(やつら)が『教え諭す』つもりで出した通達(アナウンス)でもなけりゃ、それで収束出来るような限られた地区(エリア)、規模のパニックでも無かったっぽいよ」

「成る程……」

 タオが頷いた後、不意に口角を上げた――「冷笑」に見える。だがそれは、アサギとリオンに向けたものではない。二人に対しては()()()微笑を見せた。

 リオンが肩を竦めながらおどけた口調で云う。

「まあ、単純に……〝エラい奴〟が本当に見たとしても、見たとは云わないだろうけどね。悪魔にしろ天使にしろ」

「それもその通りだ。〝悪魔〟が入り込んでしまった責任を負うのも嫌だし、人の目に見えないはずの〝天使〟を見たなどとは、より上層部の信徒ほど絶対に云わないだろう。――引き続き、良い教材になる話だったな。君達二人も、もう、()()()()()()()だろうが」

「え?」

 独りごちたタオの言葉が、直ぐには伝わらなくて二人は首を傾げた。

「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは、愚の骨頂だ。自分の価値観、信念、推理、希望、そうしたものにそぐわない、『情報』はおろか、()()()()()()()にすら目を瞑るようでは、()()()だ――な、良い〝教材〟だろ、()()()()()()()()()の」

「……」

「イー・ルの幹部、導師がやらねばならなかったのは、『では市民が何を見たのか』を()()することだった。()()()()()()()それをやってれば良かったのに、()鹿()()()()悪魔と天使と化け物を()()()()()()だから、結局、民衆は『で?』てなるんだ、彼らの方が余程に、自分の経験を無かったことにはしてないよ」

 やれやれ…とタオが大げさに溜息をつく。リオンとアサギは顔を見合わせ「ああ…」と納得するように息を吐いた後、タオに向かってコックリと大きく頷いてみせた。

 良いだろう、と云うふうに、タオも頷きを見せてから、

「じゃ、そのくらいか、ニック君から伝わってきたのは?」

 とリオンに訊ねる。彼はまず小首を傾げて「ん~…」と唸った。

「多分……、云おうと思ってたことは、そんなもんだったと思う。でも、それこそあんた曰くの〝脱線〟で良く分かんなくなってるよ」

「そりゃ済まん。また何か思い出したら教えてくれ」

 わざと口を尖らせてリオンが云うと、タオが笑いながら返す。

「あんたは俺達よりもっと〝イメージ〟してることがあるって云ったじゃん。それで、訊いてみたいことが沢山あるって。それ聞かせてくれよ、もしかして俺がニックから聞いてることあったら、云うよ」

 そうか?とタオが返した後、再び机に戻り、メモへ目を通してから、黒板の前に戻ってくる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ