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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(4)深夜:講義(説諭)、質疑応答
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【day2】(4)-[4]-(1)



「何らかの情報を、文字なり音声なりで()()()()()時、想像力を働かせて具体的な映像(イメージ)を持つ、そのこと自体は悪かない。その方が、『情報』を『記憶して(おぼえて)おく』ためには分かりやすいからな。だが、そのイメージそのものを『情報』として認識するのは、それは誤りだ」

 少し解りにくくなってきたらしく、リオンは首を傾げアサギは戸惑いの表情を浮かべた。タオにもそれは()()()()()()が、師として、「何が解らないのかが判らない」という段階でもあろうと判断もついたので、質問はあるかと問いはせず先を続けた。

「――リオン、君も先に『自分の印象が混じってても良いか』と前置きしたくらいだから、百パー『客観的な情報』を伝えられる自信は無かった、その自覚はあったんだろう。だが、その範囲で、()()()()()()()()()()()、だろう?」

「それは、勿論さ!」

 焦った顔をしてリオンが云うと、タオはにっこり笑って、

「だからこそ、()()()のさ」

と云った。

「当然、ニック君とやらも君に偽りを伝えたつもりは無いだろう。だがな、リオン。アサギが抱いた『移動』のイメージを、さっき彼が口にしなかったら、君は今でも『同時に一つのものを見て、それが三者三様に見えた』という自分の()()を、疑ってなかった筈だ」

「うっ……」

 それはそうかも…とリオンがたじろぐ。

「しかし、ニック君は『移動』のイメージの方を君に伝えたつもりであり、実際、『事実』がそうだったとしたら? 君はそれを知ったとき、ニック君が『誤りを伝えて来た』という()()()()()()、そっちの自信は、あるか? あくまで、自分自身の勘違いだったと、()()()()()()()()()()()?」

「……う…」

 はっきりと答えることが出来ないらしく、リオンはバツが悪そうに、今度は口元を擦る。

「君が自信を持ってそれを云えないなら、〝説教タイム〟の始まりだ」

 ふふっ、とタオが笑った。

「無論、ニック君の方も君と同じイメージを持って話していたからこそ、君がそのイメージを持った、ということも考えられるんだが、それで実は『移動』の方が正解だったとなると、その場合はニック君が『誤っていた』と云える。だがしかし、ニック君自身に、()()()()()つもりは、やはり無いだろう」

「――」

「……ただ、ニック君が――サウザー(うち)で云えばイムファルやグロウのように、情報管理の部署に居て、直接フィズ君からの『報告』を受けた立場にあったのなら、少し話は違ってくる。この場合は、君が抱いた『三者三様の見え方をした』イメージの方がより可能性として高くなる。もし『移動』の方が事実――()()()()()()()()()()()()()()()()()、ニック君は恐らく、喋りながら、君が抱いているらしいイメージと実際との間に違和感を抱いて、君に()()()()()いただろうからな。どうだ?」

 リオンが今度はむっつりと口を尖らせつつ云った。

「『どうだ』って、随分ザッパな質問投げてくるな。ツッコミがあったかってんなら、そりゃ無かったから俺はそのまま此処で喋ったんじゃん。『ニックが何の役してるか』って訊いてんの?」

 ふて腐れたリオンに、タオが一度「ふっ」と鼻を鳴らしてから、「そうだ」と頷く。リオンは再びバツが悪そうな顔をして――タオが「表情が豊かだな、つくづく」と笑みを浮かべる――、ゆるゆると首を振った。

「いや……ニックはそういう役にはついてない。アイツは、戦争関係無く、職業(しごと)が〝境界(ボーダー)警備(パトロール)だから」

「〝国境(ボーダー)〟警備?」

 アサギが「えっ?」というふうに目をぱちくりとさせ、リオンに首を傾げてみせた。彼が何に引っかかったのか直ぐに察したようで、リオンが「ああ…」と息を吐きながら手を振る。

「いや、サヴァナに、はっきりした『国境』ってのは無いよ。ただ、その都度の拠点から行動()()っていうか、そういうのはあるから、それの、大体の〝境〟(ボーダー)巡回(パトロール)する仕事だよ。――今は戦争中だからイー・ルのスパイやら奇襲やらに備えてるのがメインだけど、元々、()()()()とか、それこそ竜巻とかの天候の変化、その辺りに警戒しなきゃいけないからさ」

「ああ……そういう…」

 グロスの丘から戻ってくる車中で、サヴァナは国境、国土を持たない遊牧民のようなものだと云っていた。なのに「ボーダー」という言葉を使ったので、不思議に思ったのだろう――リオンの説明にアサギも直ぐ納得出来たらしく、リオンに頷きを見せた後で「割り込んですみませんでした、どうぞ」と云うふうに、軽く頭を下げつつリオンからタオに向けて手を差し出す。

 リオンがタオに顔を向け、

「だから、ニックがフィズさんから直接にそういう報告を聞いたってことは……考えられないな」

 そう云って、話を戻した。

 タオはリオンの回答に、何処か訝しい部分があったのか、ぴくりと目を細めた。



 リオンから「何、どうした」と聞かれ、タオは小首を傾げる。

「……。君達に説教している最中だが、俺自身も自分が勝手に抱いていた『認識(イメージ)』を訂正せにゃならんのかな。おい、リオン――、ってことは最初に云った、君への通信が『サヴァナから()()()()』というのも、本当は少々ズレてたのか? 『ニック君から()()()』だったのか」

 その質問の意味は良く分からなかったらしく「はっ?」とリオンは首を傾げた。

「例えば、サウザー(うち)の情報部だと、イムファルやグロウは情報を()()()って纏めるのが主な職務だ。昨日のような喫緊の事態や、今日――もう日付は変わったか?――の朝のような機密とみなすべき情報については、彼らが独断で直接俺に報告したりもするが、そういうのじゃなく各部署に伝達すべきことや広報すべきことについては、文書に纏めて他部署に伝える『伝令』……、イムファル達が『受信』と『蓄積』だとすれば『送信』の役目に就いてる者が居る。――俺は、ニック君が、前者の立場ではないのでフィズ君らの報告を直に受けてはいないが、後者ではある……、()()()()()()()()()()()から、君に報告してきたのかと思ったんだ」

「……はあ」

「しかし、ニック君は〝警備隊〟(そうじゃない)と云う。だから、『サヴァナが』じゃなくて『ニック君が』、友人である君へ『調子はどうだ』みたいな近況伺いがてらで、私的に、それを云ったのかと」

「あ~……、そういう意味」

 タオが何を云っているのかは解った。が、「細かいなあ」とさっきも思ったようなことを思い、その相づちは少々溜息が混じった。

 リオンが、タオをからかうような笑みを見せる。

「それは、あんたがサウザーの()()()だからこそ抱く『認識』と『疑問』だよな。いちいち確認しなくてもいいのに、しなきゃって思うのも」

「はん?」

 今度はタオの方が「どういう意味だ」と云うふうに首を傾げた。アサギは軽く俯いて口元に手をやり、その奥で苦笑を浮かべる。

 まずリオンは、

「まあ、半々じゃない? 訂正するんなら」

 そう云って、肩を竦めた。

「ニックが何の役してんのかってのは、実際、情報本営には居ないから、訂正して覚えといて――いや、覚えといてもらう必要は別に無いのかなあ――。でも、『サヴァナから非公式に』ってのは、そのままで良いと思うよ」

「何故だ? ニック君がそう云ったのか」

 真面目にタオが問うと、リオンは再び肩を竦めた。

「云ってねえけど。――んじゃ、先に云っとくか、ニックの本職が警備隊なのは事実だけど、『伝令』みたいなことを()()()()()()訳じゃあねえよ?」

「……」

「アサギ、あんたも今、ちょっと笑ってたろ。俺の云ってること解るよな」

 気付かれていたらしい。アサギは「ええ、まあ…」と、リオンに苦笑を見せた。

「……フリュスだと、()()()()()情報をどう()()()を決める最高責任者は司祭様(にいさま)ってことになりますけど、それを他の人、村全体に伝える必要が出た時、『伝令』や『広報』を()()()()()()()人は全く居ません」

「要するにさ、タオ。情報の重要度を鑑みて、それの扱いの責任を持つ『偉い人』ってのは俺らンとこにも居るけど、サウザー領みたいに、それを『伝える』のを自分の『仕事』にする人が必要になるほど、サヴァナやフリュスは()()()()()()、そこまで業務(しごと)が細分化されてないってこったよ。あんたがニックをそう思ったのは、サウザー領主だからこそ。だろ?」

 アサギとリオンの二人から云われて、「ああ、成る程…」とタオは何か飲み込むように頷く。

 が、それでも真面目に質問を続けた。リオンから揶揄われた気がしたから「云い返」したくなった、という口調では、全く無い。

「しかし、それは『ニック君が私的に』なのか『サヴァナが』なのか、その根拠にはなってないじゃないか」

「……。それ、そんなにちゃんと確認しとかなきゃいけないこと?」

 リオンが呆れたような顔をして云うと、タオは相変わらず真剣な顔で「そうだ」と頷いた。

「アサギ、俺が何故それを気にしてるのか、君になら、それも判るよな」

 今度はアサギに顔を向けてタオが云う。アサギはそれにも、「はあ、恐らく……」と、躊躇いがちにではあったが頷いた。

 タオが苦笑し、

「恐らくって。フリュスの幹部として、そこは胸張って『はい』と云えなきゃだめだよ、アサギ」

 そう云いながら、アサギの側からリオンに向けて手を差し出した。

「アサギ、俺が何を気にしてるのか、君がリオンに説明してくれるか? 軽い試験だ、君が村の幹部として持つべき意識を持っているかどうか。――君の説明に間違いや不足があるなら、俺が割り込む」

 朝、ルナールから促されたのと同じだ。

 アサギは「はあ…」と応じて、リオンに顔を向けた。

「……フリュスと同様、『伝令』『広報』を本職にしている人は居なくて、ニックさんがその仕事を()()()()()()()のは理解出来るんですけど、僕、ニックさんの本職が『警備隊』っていうところに、少し違和感を覚えて……」

「違和感? ……そんなに『警備隊』なのが変?」

 リオンが訝しんで目を細めると、アサギは「それ自体は変じゃないんです」と手を振った。それからふと、今思いついたという顔をして、

「あ、そうだ。……リオン君、ニックさんは、サヴァナの境界警備隊の()()という訳ではないんですか?」

 説明を続ける前に質問をリオンへ投げると、タオが――二人には見えていないが――微笑を浮かべた。

 リオンは大げさに手と首を振る。

「いやー、とんでもないよ。そういや云ってなかったけど、大体伝わってない? ニックって俺と一個違い。ンな若造が隊長なんて、まさか」

「……」

 アサギはそれを聞いて、今度は困ったように首を傾げ、何となく恐縮そうな表情を浮かべた。

「あの、リオン君……。それならやっぱり、違和感は少し残っちゃいます、タオ先生もまだ、納得出来ないかと」

「え、そう?」

 アサギがちらりとタオに目を向けると、タオは「うん」と大きく頷いた。

「ニックさんが伝えて来た、『これ』――」

 そう云って、アサギが黒板の「棒人間」を指さした。

「これって、フィズさん達、間諜(スパイ)の任務に就いている隊から入って来たんでしょう? ……とても扱いがデリケートな情報だと思うんです。『黒い筋』が出てきてからリオン君に情報が入るまでって長めに考えても、それでもまだ時間がそんなに経ってないし、非戦闘員……サヴァナの一般の方々は勿論のこと――こう云ったら何ですが――末端側の実働隊員にもまだ報せるようなことじゃないというか……、今の段階では『上層部』だけで止めておくべきことって気がするんです。フリュス村(ぼくんち)だったら多分、フリュス家(いえ)から外には出さないと思います」

「……。あ~、それで、ニックは隊長なのかって訊いたのか……。幹部なのか、って意味で」


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