表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(4)深夜:講義(説諭)、質疑応答
105/171

【day2】(4)-[2]-(1)



「――イー・ルの『都』に入ってた〝間諜〟からの情報らしいんだけど。こっちの、〝ムチ〟さんや〝ボウガン〟さんみたいな」

「ふむ」

「……えっとさ、客観的な情報って云うより、俺がその話と昨日聞いた話も併せて思った、印象も混じってていいかな」

 リオンがタオにそう訊ねると、タオが「ふん?」と首を傾げる。

「君の印象や感想を交えなくては、伝えられないような内容なのか?」

「俺にその情報入れてきた奴も、一方的に情報だけ伝えてきたってんじゃないんだ。二人で、自分が思ったことも口にしながら『会話』した内容って感じだから、どうしてもそうなるんだよな」

 リオンが軽く頭を掻きながらそう云うと、タオは頷いて、

「じゃあ、まあ構わないよ。恐らく、整理された客観的な情報は、いずれ正式にサウザーに入るだろうから」

 そう云うと、「続けて」と云うふうにリオンに手を差し出した。

「うん……。その〝間諜〟が、イー・ルで実際に経験した……『見た』ことらしいんだけど」

「ほう? CCFCのボウガンは直接『地獄の怪物』に遭遇してはいないようだが、サヴァナの間諜は『見た』というのか」

 リオンは「そうらしい」と()()肯んじた。そこでタオは「そういや、東方辺りに居たというムチはどうだったのか聞いてないな、確認しなきゃ」などと独りごちつつ紙にさらさらとペンを走らせたが、リオンは「しかし釈然としない」と云いたげに、首を傾げていた。

 そんなリオンへ、「何か気がかりでも?」とタオが問うた。

「気がかりっていうか……。〝間諜〟は――こっちも名前云うよ、〝フィズ〟〝ガフ〟〝シェイク〟って三人なんだけどさ。()()()()のは、実際そうらしいんだけど」

「うん?」

「そいつらが『見た』のは、()()()()()()()()

「あ?」

 タオは大げさに目を見開き、口をぽかんと開けた。アサギも「え?」と瞬きをしながら隣のリオンに顔を向ける。

 リオンも、自分の云ったこと自体が釈然としないと、相変わらず首を捻る。

「辛うじて、フィズさんが……『竜巻っぽい』感じで、『風』が吹くのを()()()らしいんだけど……」

「ううむ、話が良く見えんな。――取り留めなくても良いから、もう少し続けなさい」

 タオは一度腕組みをし、リオンと同じように首を捻ってから、ペンを持ち直してそう云った。

 リオンが「うん…」と頷き、こめかみに指を当てつつ、思い出した順にそのまま口に出すという風情でポツポツと語る。


「――ええと……、昨日、俺が〈装置(ボード)〉越しに見た〝画像〟は、完全に『竜巻』でしかなかった。それは間違いない。今、良く思い出してみても、やっぱりそうだ。俺に今日連絡寄越した奴も、『竜巻』を見たんだって」

「ふむ」

「避難していた非戦闘員や、戦闘員でも剣士や戦士……まだ魔術士じゃない人らが見たのも、殆ど、()()()()()らしい。――ただ、非戦闘員でも〈魔力(ちから)〉が強い人――俺が見る限りで素質ありそうだなって思ってた子供(ガキんちょ)にも、鳥の影を見た子が居るっぽい。一瞬見たって人とか、竜巻が去ってしまうまでずっと見えてたって人、これまたその辺がバラバラらしいけど」

「ほう。今日になって、そうした細かい違いも分かってきたんだな」

 鼻の穴を軽く膨らませて、タオはさらさらとペンを動かした。

「――その時は、親方達の方が、『(はね)を持った何か』の影を良く見てるんだ。竜巻の塵が崩れて本当に『何か』が飛んでった様に見えたのは、〝ギイチ〟親方や、〝タケヨシ〟親方……、サウザーで云ったら、それこそディナムさんとかバーナードさん、それとかタオ(あんた)みたいな、『凄い魔術士』に入る人ら」

 ……別にお世辞を云ったわけでもないらしい。リオンは「事実だし」というふうにあっさりと云い、タオは軽く肩を竦めた。それから、「ふぅむ…」と鼻を鳴らす。

「つまりそれは――昨日の段階では、具象……『生き物のような形をした何か』の影や実体を見ているのは、より〈力〉の強い者、と思って良い訳か」

「……俺はそれを断言したくないけどね」

 今度はリオンが肩を竦めた。

「だって、素質は認めるけどまだ魔術士になってない子供とかも見てるのに、俺には『竜巻』しか見えてないんだもん」

 拗ねたように軽く口を尖らせたリオンに、傍で聞いていたアサギは真面目に首を傾げた。

「えっ、それは仕方無いんじゃないですか? リオン君、昨日、『自分の目で見たものをそのまま記録する〝ワザ〟』って仰ってたでしょう? じゃあ、それを()()()()()の〈力〉の方に左右されるんじゃ――そういう〝技術(わざ)〟じゃないんですか?」

 別に励ます意図を持った口調では無い、素朴にアサギが云うと、リオンは目をぱちくりとさせた――自分ではその理屈に辿り付けていなかったらしい。

 タオも苦笑を浮かべつつ頷く。

「それは云える。リオン、君が見た画像(もの)は多分()()()()とか、今後の成り行きによっては()()とすべきことになるだろう。昨日は君自身も、『その場に居た者が〝感じた〟ものは自分には感じられなかった』…と云ったじゃないか。――君は、その『映像』に対してサヴァナがどういう見解で一致させることにしたのか、まだ聞いていないんだろう? もしかすると〝ギーチ〟さんや〝タック〟さん達は、自分が見たものとその映像が余りにも違うから、そっちに驚いているかもしれんぞ」

「あ、ああ……そっか…」

「まあ、『それはそれとして』って置いときなさい」

 リオンが「判った…」と頷いた。

「……じゃあ、あんたから見ても、昨日はそういう()()がある感じってことで良いのかな」

「良いと思うが? ――『でも』と続くのか?」

 タオがそう云うと、リオンはこれにも「断言は出来ないが」と曖昧な風情ながら、「かもしれない」と頷いた。

「その……フィズ君か、()()()()は、君より年長か、〈力〉が明らかに上なのか?」

「あ、うん、そうだけど……何で判った?」

 リオンが大げさに驚いて目を見開くので、タオは苦笑して「そんな凄いことじゃないぞ」と云った。

「三人の名前を紹介するつもりで云う時は呼び捨てだったが、名指して一人を云う時は『さん』を付けたからな」

「あ、そうか……」

「――心を読んだりしたなら、男女も判ってたさ。で、フィズ君はどっちなんだ」

「あんたの云う通り年上、〝姐さん〟だよ。チョウさん兄弟(たち)とそんなに変わらないんじゃなかったかな。……サヴァナじゃ珍しいんだけど、〈水〉の〈マスター〉」

「ほう。女性は〈水〉と相性が良いことを差し引いたとしても、チョウ達と余り年齢(とし)が変わらなくて〈マスター〉とは、凄いな。随分若い頃から『意志の疎通』が出来てたのかな?」

 感心する息を吐いた後、タオは思案げな顔をして、ペンの尻で軽くこめかみを叩いた。それから、

「……リオン、君が通信で会話したことを俺に伝えるのは、ちょっと待て。今までの話で、俺が推理したことを云う、頭の体操と整理がてら。そこに、君が知っている範囲の事実や情報と著しい齟齬があるなら、()()()()()くれ」

 メモを記した紙に顔を向けて、リオンを横目にそう云った。リオンが「あ、うん」と頷く。

()()()で云っとくとな。俺が『フィズ()』と云ったのは、俺よりは年下かなと思ったからだ」

「……あ、そういえば」

「三人纏めてだと呼び捨てってだけじゃなく『そいつら』と云ったから、他のガフ君とシェイク君は、君と同年代で結構仲が良い、かつ、同じくらいの〈力〉なんじゃないか?」

「うん…、その通りだけど……。仲が良いとか〈力〉が同じくらいとか、そんなことはどうして判るんだよ」

「君が基本的に素直だからさ」

 リオンが少し拗ねたように口を尖らせて訊くと、タオはフフッと笑ってそう云った。

「云っておくが、ガフ君とシェイク君が、〈魔術士〉なのかどうかは、俺も判ってなかったよ?」

「は?」

「〈魔術士〉が多く居る組織では、彼らが間諜・諜報と云った任務を負うことは多い。実際ムチとボウガンもそうだ。それがあるから、〈力〉が同じくらいか、と俺は先回って訊ねたんだが、君はそれに対して『どうして判る』と云った――だから俺は、()()()()()()()()()()()()()、とね、確信――というか()()出来た。戦士や剣士、技師職オンリーなら、二人、あるいはどっちかは魔術士じゃないと、そう云うだろう?」

 リオンは無言で軽く頭を掻いた。

「で――〈力〉や〝号〟が同じくらいでも年がある程度上なら、『さん』付けになりそうなものだが――俺にはタメ口だ(そうじゃない)から、その時点で年齢の確信は無い。年下あるいは同い年で、相手の〈力〉が結構上なら、君だったら少しばかり悔しそうな素振りが見えそうなんだが、それは無かった。『そいつら』っていうのが、やはり決定打になったかな? 俺のことは呼び捨てでも、そこにサンハルやルナール、フーコーなどが加わったら、()()()()()は出てこないだろうし、同年代でも余り親しくないなら、やはり『そいつら』は出てこないだろう。逆に()()()()()()『そいつら』ってこともあり得るんだが、そういう()()()()感じは、やはり無かった。だから、同年代の()()なのかなと思った」

「……」

「三人のうち二人が親しく君と同じくらいの〈力〉――〈友〉には至っているのかな?――、もしかしたらフィズ君ともある程度親しくはあるのかもしれない、それが故に纏めてだと『そいつら』で抵抗が無く、しかしフィズ君一人を指すなら『さん』付け。すると、三人が間諜としてイー・ル本国に入っていたのなら、個々がそれぞれ任務に就いていたのではなく『隊』としてであり、フィズ君が隊長なんではないか――そう考えたんだが、合ってるか?」

「……。合ってるよ」

 自分ではそんな情報(こと)をタオに伝えたつもりがない。ただ自分が云ったことからタオ本人が整理と推測で導き出した――タオ本人にとっては「頭の体操がてら」でもあるらしいが――、リオンは驚いたような呆れたような、そんな顔をした後で頷いた。アサギも隣で感心したふうに溜息をついている。

「ふん、となると……俺はやはり『そいつら』という気安い代名詞のために、最初は三人とも男性かと思っていたんだが、隊長が女性だと云うんだから、これも一応確認しておくか。ガフ君とシェイク君はどっちだ?」

 リオンが苦笑を見せてから「どっちも男」と云った。

「ちなみに、シェイクは恋人(カノジョ)が居てガフは所帯持ちだ。()()()で上司の熟女にムラッと来るほど多情じゃない」

「そういう意味で聞いた訳じゃないが」

 とタオも苦笑を見せた。

「代名詞を間違わないために確認しただけさ。フィズ君は『彼女』、ガフ君とシェイク君は『彼』だな」

「ああ、そういう意味……」

「――となると、ムチやボウガンの隊もそうだが、諜報隊は隊長と隊員の間の年齢差が極端だと少々都合が悪い、いざというときの機動性(フットワーク)が乱れるからな。隊長が女性というなら元々の体力差があるから尚のことだ――ちょいと言葉は悪いが、ともすると『隊長』が()()()()()になりかねない――……それで俺よりは年下なんじゃないかと思った訳だが、まあ、それは少々本題には添わない部分だな。重要なのは年齢そのものでなく、フィズ君が〈マスター〉であるということだ」

「……」

「昨日、竜巻が出現してイー・ル前線基地の方角へと向かっていった、その段階では〝ギーチ〟さん達のように〈力〉の強い者が、『翼を持った何か』の影や姿を見たと云う。『でも』、イー・ル本国で竜巻を()()()のはフィズ君だけで、〈マスター〉であるフィズ君と比べれば〈力〉の弱いガフ君、シェイク君の方が竜巻を見ていない――いや、違う、()()()()()()()()()()、リオン、君はそう云ったな」

「――ああ」

「それはつまり――ガフ君やシェイク君の方が、『何かの影か実体を見た』、そういうことなのか? ――もしかすると……、『シロウト』であるところの()()()()()()()()()()()()、違うか」

 タオがそう云うと、リオンは「はあ…」と大きな溜息をついた後で、

「そうだよ」

 と頷いた。アサギが驚いて目を見開く。タオは「そうか」と()()()()頷き返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ