番外編 昼食
キーン コーン カーン コーン
「ねえ、春乃ちゃん。いっしょにお弁当食べない?」
「うん、千晶ちゃん。食べよ食べよ♪ どこ行く?」
「そうだね……。今日は、寫眞部の部室でいいかな」
「うん!」
コンコン ガチャッ キィ……
「失礼します――――。よかった、だれもいない」
「どしたの?」
「ううん、たまーに、先輩たちがたむろしたりしてるからさ。とくに天玉部長なんか、部室でしょっちゅう煙草吸ったりしてるし……。ほら! また空き缶に吸い殻入れてる、もう」
「ねえ、千晶ちゃん。私前から思ってたんだけど、学校の中でたばこなんて吸ってもいいの?」
「本人は、三留して二十歳過ぎてるから大丈夫なんだって言い張ってる。校則にも『生徒の喫煙不可』とは書かれてはおらぬだろう、ってさ」
「あははっ。たしかに、わざわざ校則手帳には禁煙って書いてないかも」
「私、はじめこの部に入ったときびっくりしたもん。高校って、こんな人もいるんだって」
「そうなんだ。でもおにーちゃんは、あの天玉さんに勧誘されて寫眞部に入ったって言ってたよ」
「たしか、右野先輩も祖父江先輩もそうみたい。自分から入ったのって、私くらいかな。廃墟とか工場跡地の写真撮って、自分でフィルムの現像とか焼き増しとかしたかったからさ。ここなら機材も薬品も揃ってるし」
「ふうん。……ねえ、おにーちゃんとかほかの人たちって、まじめに部活動やってるの?」
「うーん。みんな、あんまり熱心じゃないかもね。とくに、天玉部長! あの人、寫眞部の部長なのにぜんぜん写真に興味ないみたいだし。ひょっとすると、自前のカメラも持ってないんじゃないかな」
「えーっ! なんで?」
「噂では、学校内に自由に使える部室と暗室がほしくて、わざわざ自力で部員集めて寫眞部を作ったっていうけど……。ホントのとこはよくわかんない」
「ふーん」
「毎日、よくわかんないコトやって遊んでばっかり。ホント、困った人だよね」
「でも、自分のこと『我輩』とか言って、ちょっと古風で変わってて。おもしろい先輩だよね、天玉さんって」
「そうかな……。あ、ごめんごめん、ずっと立たせちゃってて。部屋ん中ちょっとケムいけど、入って。こっちのイスどうぞ」
「ありがと、千晶ちゃん」
「いただきまーす!」 はくっ もぐもぐ
「ね、春乃ちゃんってさ、毎朝お弁当自分で用意してるんだよね?」
「おむすびだけね。おかずはママが作ってくれるから」
「そう。いつも大っきくておいしそうだね」
「うん! おにーちゃんも私のおむすび、大好きなんだよ!」
「おにーちゃん、か……。ねえ、駿河先輩、今ごろなにしてるのかな?」
「んー。今日、右野さんがお金持って、新幹線で大阪まで行ってくれるんだって。祖父江さんが、おにーちゃんは難波のマックスバーガーに来るって言ってたけど。無事に会えるといいな」
「そっか。心配だね、駿河先輩……」
「うん……。ねえ千晶ちゃん、このカニコロッケ食べてみる? おいしいよ」
「あ、ありがと、春乃ちゃん。代わりにウインナーあげるね」
「ねえ今さ、駿河先輩って、幼なじみの『霧崎蓮十郎』って人のこと、探してるんでしょ?」
「そうだよ。れんちゃんは昔、おにーちゃんの家で一緒に暮らしてたの。私んちとお隣だから、三人でよく遊んだなあ」
「どんな人だったの? その、れんちゃんって」
「無口で物静かで、おとなしい人だったな。いつも、道場で修行してるおにーちゃんのこと、陰からずっと見てたの覚えてる。でも小学生くらいのころに、いつの間にかいなくなっちゃったんだ」
「どこ行っちゃったんだろうね?」
「わかんない。でも、今でもどこかで楽しく暮らしてるといいなあ。とっっっても笑顔がステキな男の子だったの」
「そう……。ねえ春乃ちゃん、ひょっとしてそのれんちゃんのこと、好――――」
「えっ! ぜんぜんぜんぜん! 私には、おにーちゃんという立派な婚約者がいるんだもん!」
「婚約者ねえ……。あのさ、前から聞きたかったんだけど」
「なあに」
「ぶっちゃけ、駿河先輩のどこがそんなに好きなの?」
「どこが、って?」
「いや、べつに悪口言うわけじゃないよ? まあまあいい人だとは思うけど。でもさ、わりと普通じゃない、外見も中身も」
「そんなことないよ! おにーちゃんは見た目も性格も、カッコいいし優しいし。それに、いつも春乃のこと一番に考えてくれて、守ってくれるもん」
「春乃ちゃんが、一番……」
「私ね、おにーちゃんがそばにいてくれると楽しいし、すっごく安心できるんだ。だからね、これから私たちが、おじいちゃんとおばあちゃんになっても、ずーっと一緒にいたいの!」
「そう。ホントに大好きなんだね、駿河先輩のこと」
「うんっ! 大好き!」
「駿河先輩が、殺人犯として警察やヤクザに追われてるとしても――――?」
「ぜーんぜん平気! だって私、おにーちゃんのことずーっと信じてるから」
ガチャ
「あー、お二人さん? お食事中のところ悪いんだが。我輩、ちょっと一服してもいいかね?」
「えっ? き、キャアーーーーッ!」
「て、天玉部長! いたんですか?」
「昨日の夜、いろいろ立て込んでいて遅かったのでな。寝袋使って、となりの暗室で仮眠しておったのだよ」
「あ、大丈夫ですよ天玉さん。私たち、もう食べ終わりましたから。じゃ、行こっ千晶ちゃん」
「うん。……それじゃ、失礼します、天玉部長」
キィ…… バタン
「私、ずーっと信じているから……か。うむうむ、素晴らしき青春であるなあ!」
本編に続く




