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ぐっど喪ぉにんぐ!! 〜土葬少女のセカンドライフ〜  作者: わた氏
14章 お祝い、サンタなコスズとクリスマス!
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厳しい? トナカイ・レッスン!

 郡 遠弥。

 あと1週間で、めでたく1つ年を取る俺は――。


 銀貨を交換条件に、リビングの真ん中でトナカイになっていた。

 コスズにいつかのトナカイカチューシャを装着させられ、リビングのカーペットに手を付けて四つん這いの体勢になっている。


 両手には、トナカイをイメージしたぬいぐるみ素材のグローブ。

 足にも同じものを嵌めている。

 勿論尻尾も忘れていない。ジャリっという音から、マジックテープでズボンに付けたんだろう。


 なんつーか、子供騙しなコスプレだ。

 何なら、両手足と頭以外は普段通りの格好だし。

 この状態でトナカイがまかり通ったなら、サンタは節穴も良いところだ。


 まぁ、当の節穴サンタはここにいるが。


 コスズは何やら、しゃがみ込んで袋の中をゴソゴソと漁っている様子。

 そして取り出したのは、動物図鑑。

 正座の体勢で、膝の上に冊子を置くコスズ。

 小さな手でせっせとページを捲っていた。

 俺の横から、ペラペラと忙しない音が聞こえる。


「あった……トナカイの、ページ……」


 ページを捲る手が止まる。

 見ると、トナカイの写真がページの半分を占領していた。

 角やら足の蹄やら。部分的な写真も載せられていて、お得なコラムまで完備していた。


「オスの角……大きい……」


 そう呟いたかと思えば、カチューシャの角を審査するかのように見つめ。


「もっと……大きくする」


 ガムテープと茶色いスポンジの棒を袋から出して、俺のカチューシャにくっつけていった。

 スポンジを角の先端に添え、ガムテープでぐるぐる巻きにする。それを繰り返し、立派なオスの角にしたいらしい。


 ひとしきり角を伸ばすと、続いてコスズは呟く。


「トナカイの好きなもの……苔、葉っぱ……」


 字を指でなぞりながら、コスズは淡々と。


「きのこも……好き」


 俺きのこ嫌いなんだが。


「あとは……真っ赤なお鼻……」


 本から目線を上げたのは、それが図鑑にない情報……いわば、童謡(フィクション)だからだ。


「…………無い、赤いお鼻……」


 袋を漁るコスズの声は、不安げだ。

 “サンタとトナカイごっこ”と言うには、切迫しているようにも思えた。

 だがコイツは子ども。小さなことに完璧でありたい年頃なんだろう。


「トナカイには……赤いお鼻……」

「別に良いんじゃねーの? トナカイっつっても、所詮遊びなんだし」



 ――そう、軽い口調で言った途端。

 空気が変わった。


 言葉通り、空気が――暖房の温かな風が、寒気に上書きされる。

 部屋にいるのに、まるで外に出たみたいだ。

 そして、“外”と言っても玄関を開けた先の風景じゃない……例えるなら、寒空異変のあった山。

 肌を突き刺すような冷たい息吹が、いつかの異常気象を思い出させた。


 発生源の人形から、凍てつく空気と同じぐらい、冷たい声がする。


 それはさながら、魔女の囁き。

 エメラルドグリーンの目は、刃物のように重く鋭い。剥き出しの怒りが、瞳に怪しく灯る。


「…………遊びじゃない」


 俺の真上に、鈍色の雲が架かる。


「ワタシは…………本気」


 真っ白な雪が、頻りにピチピチと肌を打つ。


 逃げねぇと。

 本能がせがむのに、脳が危機を訴えるのに、身体が思うように動かない。

 ぶるぶると小刻みに震え、皮膚が粟立つだけだ。

 それが寒さのせいか、恐怖のせいかは分からない。


「……トナカイ……茶色……」

「うぶっ?!」


 そう言って被せて……いや、頭に嵌めたのは、茶色いタイツだった。

 コスズのタイツなのか、サイズが小さくキツい。

 顔面を蹂躙する布地。ぴっちりと張り付いて、圧迫感と閉塞感に支配される。

 たまらず頭を振ると、


「じっとして……」

「ぐえっ!」


 タイツのつま先部分を引っ張られ、濁った声が喉を這う。

 鼻がひしゃげて、穴2つが前面に突き出した。

 顔のパーツが歪んでいるのが、鏡を見ずとも分かる。

 引っ張りすぎたのか、今度は顎に向かってタイツをずらし。何回も引っ張っては戻して、タイツの位置を調整する。

 布越しの声は、もれなく潰れていた。


「……」


 仕上げに、タイツを固定するように例のカチューシャを付けるコスズ。

 “真剣”と言えば聞こえこそ良いが、実際の雰囲気は殺気に近い。


 なお、出来上がった頭部は無様そのもの。

 こんな変顔でトナカイが務まるかよ。


「……もっと茶色にする」

「ちょ?!」


 あれよあれよと袖を捲られ、腕や膝にもタイツを嵌められる。

 胴体は段ボールで覆われ、ガムテープが茶色の生地を蹂躙していた。 

 トナカイとして、徹底的に茶色くしたいらしい。段ボールを被せられない箇所やタイツと袖の間に、テープを容赦なく貼り付けてくる。


 さらに取り付けたのは、銀色の首輪。

 この間ザラメに付けられたヤツだ。氷そのものみたいに冷え切った金属は……そこから伸びる鎖は、俺の命運を物理的に握っていた。

 チリンと軽やかに鳴る鈴は、現状とあまりに不釣り合いで。吹雪の中で響く音色は、甘く迎える死神の呼び鈴だ。


 手先足先が雪に埋もれ、純白が制圧する。

 おまけに頭や背中にも、積もる雪の重みが。

 段ボールやタイツの隙間から侵入する凍気が、肌を突き刺す雪の結晶が痛い。


「うぶ……さぶ……」


 唇の感覚が無い。

 タイツの隙間から漏れる息は、真っ白に染まる。


「ワタシが……」


 言いながら跨(またが)るコスズは、サンタと書いて悪魔だ。


「ワタシが、デウス様を……お祝い……」


 上から、ぽつりと静かで、淡白な……だけど今までで一番、執念を閉じこめた声。


 分かった! 分かったから!!

 俺が悪かった!!

 だから、許してコスズ! サンタ様ぁ!!


 逆らえないと悟った俺は、家畜に身を落とし――。


 


「明日は楽しいクリスマ……何事ぉおお?!?!」


 ――買い物から帰ってきたザラメが見たものは、リビング中央にできた円状の雪原。


「ぶるぶる……」


 猛吹雪が支配する部屋で。

 コスズを乗せ、トナカイ擬きの茶色いゲテモノが凍える姿だった。



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