リセマラ、ザラメちゃん☆ファイアワークス!
気が済むまでデウスに擦られた後、俺はようやく拘束を解かれた。
早くも、日が沈み始めている。
解放された腕を高く上げて伸びをしていると、ザラメから声がかかった。
「郡さん、作戦会議ですっ」
元に戻るための方法を話し合うんだと。
俺とザラメ、デウスでちゃぶ台を囲む。
「ぶつかって入れ替わったんです。また頭をごっちんするのはどうでしょう?」
「最初にやっただろ」
言って湯呑に口を付け、一気に飲み干す。
俺が焼かれて項垂れていたタイミングで、既にデウスにど突かれまくっているんだよな。
全く効果が無く、神の頑丈さに驚いたまである。
「うーん、何かヒントは……」
「当時のことを思い出してみよう、青年」
「って言ってもなぁ。曲がり角でお前とぶつかった以外は、特段何も無かっただろ。……強いて言えば、目の裏で火花が散るほどの衝撃だったぐらいか」
「火花ですか?」
「そんぐらいの勢いで衝突したってことだ」
そこからは平行線。
腕を組み、唸る3人。
机に置いた菓子を摘んで糖分を補給するも、良い案は出てこない。
そんな中、サンタのコスプレに似合う大きな袋を担いで、コスズがやってきた。
俺の横にちょこんとしゃがみ込むと、袋を漁り始めた。
「じゃーん……」
取り出したのは、トナカイのツノが付いたカチューシャだ。
「サンタさんと言えば、トナカイ……」
そう言って、俺の頭にカチューシャを取り付けるコスズ。遊ぶな俺で。
「デウスにしろよ」
トナカイの苦言に対し、小さなサンタはふるふると首を横に動かす。
「デウス様を……畜生には、できない……」
「俺は良いのか俺は?!」
なんつー暴論。
俺を何だと思っているんだこのガキは。
そんな不満を意に介さず、カチューシャの角度を調節するサンタコスズ。
「似合う……可愛い……」
頭の周りに花を浮かべ、ほくほく顔だ。
その様子を見ていたザラメが、死んでいる目を煌めかせた。
立ち上がって、素早く後ろに回り込む。
「トナカイなら、良い物があります!!」
は?
カチャッ。
振り返るよりも速く、首に違和感を覚えた。
纏わりつく冷たい感触に反して、首元ではチリンチリンと軽やかな音が響いた。
デウスが鬼の形相で、ガタッと身を乗り出す。
恐る恐る顎を引く俺に、ザラメは答える。
まるで、クイズに対して自信満々に答えるガキみたいな朗らかさで。
「トナカイと言えば、首輪です♪」
「おお〜……」
「はぁ?! 今すぐ外せこのクソザラ……」
「代われ青年!!」
「あだぁ?!」
ザラメにキレるよりも速く、動いたのは私怨に目を濁らせた男。
俺の両腕を掴んで向かい合ったデウスが、大きく上半身を反らしたと思えば。
バカみたいな勢いで頭を振り下ろし、ど突いてきやがった!
「てめっ、ど突いても意味ねぇだろーが!!」
「ふんっ!!」
「ごふっ!?」
さっきよりも高火力の頭突きが飛んでくる。
「もう我慢の限界だ!! ザラメちゃん☆ファイアに飽き足らず、ザラメの首輪など嘆かわしい!!」
ガン、ゴンッ!
「ザラメとペットなプレイをするのは私!! 青年に取られてなるものかぁ!!!!」
「はあああああああ?!」
そうまで言われちゃ、俺も黙っていられない。
「俺だってこんな変態の身体まっぴら御免だ!! とっとと返せ俺の身体!!!!」
「変態の身体とは何だ! プラトニックラブなイケイケ神ボディだぞ!!」
「それを変態ボディっつーんだクソ神!!」
「何だとぉ?!」
ガン、ゴンッ!
男2人の突き合いに、たまらずザラメが割って入るも、
「ちょっと2人とも! もう止め……」
「うるせぇザラメは引っ込んでろ!!」
デウスに一発お見舞いしながら、ザラメの言葉を弾き返す。
「私のフィアンセになんたる口の聞き方!! 夫として許せん!! こうなればもう1度縛ってでも、徹底的に“教育”を施してやろう!!」
「はあああやれるもんならやってみやが……」
「いい加減にしてください! ザラメちゃん☆ファイアワークス!!」
「「アギャアアアアアアアアアアア?!?!」」
部屋一体を巻き込むザラメの打ち上げ花火。
緑色の炎が、あちらこちらで爆ぜる。
破裂の爆音が、身体を激しく揺さぶって。
――眼球の裏に火花が散った。
一転して部屋が静寂に包まれる。
俺とデウス、そしてザラメとコスズも、身体から煙を昇らせてぶっ倒れていた。
うつ伏せになっていた俺は、煙の匂いに咳き込みながら顔を上げた。
「ゲホッ、ってぇ、このクソザラ……ん?」
喉元に手を当てる。
喉仏が震えると同時、爽やかさとは縁遠い声がする。首筋から離した手は、普段スコップを握り慣れている俺のもの。パーカーも、手首から胴体へと続くのは、いつも着ているパーカーの銀色だった。
これは、ひょっとして……!?
馴染みある身体に、思いがけないハッピーエンドに。込み上げる高揚感が擽ったい。
口の端が持ち上がっているのが分かる。飛び上がりたくなっちまう。
「よっしゃあ! 元に戻って……」
「うわああデウスさんの身体になってますうう!」
「ザラメ……ぽよぽよ」
「なるほど。全員がザラメちゃん☆ファイアワークスを浴びたために入れ替わったと……流石は我がフィアンセ、実に興味深い」
嫌な予感がする。
さっきまでの興奮が、一瞬で引っ込んだ。
恐る恐る振り向いた俺は、予感が的中したのだと悟った。
不相応に敬語のデウス。
無表情で自分の胸を揉みしだくザラメ。
そして、堅苦しい言葉遣いでザラメをフィアンセ扱いするコスズ。
……俺は戻ったんだ。あとは3人で何とかしろ!
目立たぬよう起き上がり、音を立てずに後ずさる。
あとは回れ右からの、玄関目がけて猛ダッシュ――
「青年も、一緒だぞ☆」
「ぷぇ」
俺の切実な願いは、俺の腕を掴むコスズの手――デウスによって砕かれた。
コスズにあるまじき爽やかな笑みが、俺を絶望の淵へと叩き落とす。
無慈悲にも事は進む。ザラメ――今はコスズが、早速手のひらに花火を宿した。
そして逃げられないようにするためか。デウスの身体に入ったザラメが、俺の目の前に立ち塞がる。
「全員が元に戻るまで、リセマラです!」
「嫌だ!! 勘弁ちて!!」
「ザラメちゃん☆ファイアワークス……」
抵抗も虚しく、大技は放たれる。
あと何回、リセマラするんだろうか。
弾けて乱舞する緑の閃光の中で。眼球の裏に火花を散らしながら、俺は心から叫ぶのだった。
「もう入れ替わりなんてコリゴリだぁああああ!!!!」
――――
日が沈んだ冬の空。
遠くの家で、季節外れの緑の花火が咲いた。
1人のツカイマ、ニケルを競馬場に残して……
「デウス様、まだかなぁ」




