赴け、神の身体で戦場へ!
今日の俺はデウスだ。
如何にも紳士な革靴が軽快なリズムを刻み、アスファルトに足音を響かせる。
耳に入ってくる鼻歌は、俺のものじゃない美麗な音色で。
冬の空気が撫でる金髪は、俺のものじゃない上品な色味で。
鞄に掛けた手は、俺のものじゃない白く艷やかな造り。
だがこの胸の高鳴りは、紛れもない俺のものだ。
――遡ること小一時間。
ごっちんとぶつかり身体が入れ替わった俺とデウス。
どうしたものかと自身の顔を見つめるデウスに対し、俺は閃いた。
「なぁ……このまま1日過ごしてみねぇか?」
「なぬ?」
俺の提案に、デウスは一瞬目を大きく開いた。
「悪くねぇ話だと思うぞ。なんせ俺の身体なら、ザラメがついてくるんだからな」
「はっ……?!」
再度目が見開かれ、瞳に星の煌めきが宿った。
「知っての通り、ザラメは俺にズカズカくるんだ。遠慮無しに『郡さぁん♪』ってな」
「遠慮無し!? ととと、ということは、愛しのザラメとあぁん♡なことやこぉん♡なことも……」
「できるかもな」
「なんと!!」
俺の顔で興奮するデウス。
鼻血まで出し、表情は早くも天にも昇るって感じだ。気が早いと思うが。
「素晴らしい提案だな青年!! 是非とも身体を貸してくれたまえ! 1日とは言わず、1週間でも1年でも!!」
力強く、デウスが俺の手を握る。
興奮のあまり、理性が吹っ飛んでいる。
だが、その方が好都合。
「だったらその間、俺はお前の身体、そしてお前の所有物を借り受けることになるな」
「好きに使いたまえ!」
朗らかに応じる男は、ザラメとの空想に鼻の下を伸ばしきっている。
「そうなりゃ……何があるか分かんねぇからさ。念のためにお前の情報、色々教えてくれね?」
――――
「まさか快諾されるとは」
パズルのピースが嵌まるかの如き、利害の一致。
お互いの身体で過ごすことになった俺たちは、それぞれ別の道を歩き出した。それぞれの目的、各々の戦場へと向かうのだ。
俺はと言うと、バスに揺られること数分。
今、丁寧に手入れのされた靴の先は戦地の入り口を指している。
傍には、10周年記念で設立された馬のオブジェ。
看板には、年末に開催される“有馬記念”の告知がされていた。
そう。戦地とは、俺と馬のだ。
“ようこそ”と看板の据えられた入場ゲートには、実家のような安心感を覚える。
耳慣れた喧騒が、活気を物語っていた。
2列分しかない入場ゲートは、日の光が差して明るいのにも関わらず、宝の潜んだ洞窟みたいに秘匿的で。
その先にある広大なフィールドに……そして繰り広げられるレースを思い浮かべては、口の端が持ち上がる。早くも拳に力が籠っちまう。
刺激とは、こうも簡単に駆り立てられる。
身体が違えど魂に刻まれ、本能的に求めてしまうのだ。
「埋蔵金は別日に探すとして……今日はこいつで」
ズボンのポッケから取り出したのは、デウスの財布だ。中には、10枚もの諭吉さんと、夢の詰まったカードたち。今日の活動資金ってヤツだ。
ATMの番号も、ちゃんと頭に入れてある。
デウスに色々聞いといたのは勿論このため。折角入れ替わったんだ、有効活用しないとな!
「やってやるか」
不敵にほくそ笑む俺。
顔はデウスだが、それこそが狙いだ。
「神の身体なんだ、今日はいける気がするぜ!」
確かな自信が背を押した。
人の流れに加わり、入場ゲートへと一歩踏み入れようとした俺に――
「デウス様じゃん。こんな所で何してんだ?」
「げっ」
心臓が跳ね上がり、喉を這いずったような声が漏れ出る。
それもそうだ。振り向く俺に、見知ったヤツが――両翼のマントを纏ったガキが、無邪気に駆け寄ってきたのだから。
エマージェンシー!
ニケルが現れた!!




