ごっちん!! 俺とデウスの一大事!
師走の初頭。寒気が居座るこの時期は、分厚い上着がないと肌寒い。
見上げれば、鮮やかな青が広がっている。瑠璃の宝石を砕いて塗りたくったような色彩が、ずっと遠くに感じられた。
細長い雲が1列に並ぶ……うね雲だったか。天上の青と相まって、澄んだ海を思わせる。
息を吸えば、冷気が鼻の奥で染みていく。
吐息は薄い靄となって、空気へと溶けていく。
極寒とまではいかなくとも、普通は長居したくない気温。
だが俺の心はあったまっていた。
それはもう、ぽっかぽかに。銀のパーカーを脱いだって、冷えを感じないだろうよ。
「久々に相棒の出番だな」
黒いシャベルを担ぎ、住宅街を早足で進む。
足取りは軽く、胸が高鳴るのを感じる。
佐藤から聞いた、埋蔵金の噂。何でも、ヤツの子孫が埋めた財宝が、佐藤家の裏山に眠っているのだとか。
第2のキョンシーという可能性も考えたが、掘ってみなくちゃ分かんねぇ。
アイツの実家は太い。子孫はザラメを生み出したってのもあるし、一攫千金のお宝が埋まっていてもおかしくねぇな。
つーか、きっとある。夢と希望が俺を待ってる。
湧き出る情動が両脚をリズミカルに跳ね上げる。
身体に当たる風が気持ち良い。水色の髪も、楽しげに靡いている。
早足は小走りへ。そしてついには疾走へ。
カーブミラーに目もくれず。
浮かれた気分のまま、俺は十字路を右に曲がって――。
「あだっ?!」
「なっ?!」
ごっちん!!
身体の前面……というか頭に走った鈍い衝撃。
眼球の裏に火花が散った。
「ってぇ……」
アスファルトに、シャベルの金属音が響く。
ぶつかった弾みで尻もちをついたまま、ゆっくりと顔を上げる。
目の前にいるのは、水色の髪に銀のパーカーを羽織った男。
あれ……俺?
口をぽっかり開けたまま、眼前の男を凝視してしまう。
それもそのはず。頭を押さえ、同じようにしゃがんでいる男は、俺と全く同じ姿をしていて。
俺が手を差し出し、俺の声で喋り出す。
「すまない、怪我は無いかね?」
そして目の前の俺を見つめ……そのまま固まっちまった。
「え、な……どうして、私が……?」
「ぇあ? ……ん、この声って……」
思いがけず喉元を押さえる。
俺が発したはずの声は、俺のものじゃなかった。
咳払いをしてみても、自分の声が出てこない。
そしてこの声、すっげぇ聞き覚えがある。
喉元から離した手は色白で、俺の手よりも大きい。手の甲には荒れが無く、爪も全て同じ長さに揃えられていて。
手だけ見ても、機械のように精巧で秀麗だった。
ようやく気づく。
今俺がいる所は、ぶつかってすっ転ぶはずの場所じゃないと。
俺が持っていたシャベルも、俺の傍にある。
一方で俺の真横にあるのは、手提げの鞄。それと、鞄からはみ出た青い冊子。
「なんだこれ?」
「み、見ないでくれたまえ……!」
取り上げようとする手を躱し、素早く本を回収する。
スケジュール帳サイズのそれは、軽さの割に厚みがある。
どれどれとページを捲った俺は、半ば無意識に顔を冊子から遠ざけた。
本にはザラメの写真が整然と並べられている。
怒気の籠もった笑顔で俺を燃やすザラメ、カフェで客と仲良く話すザラメ、いつか使ったメイド服をひっそり着てうっとりするザラメ、ニケルに抱きついて昼寝をするザラメ。絶対盗撮だろ。
俺たちが前に行った旅館で、浴衣を纏ったザラメの写真もある。しかもローアングル。
「きもっ」
「きもっ?!」
ちなみに表紙には、“My sweetheart”と印字してある。
中身に合わない西洋風のフォントで。
ムカつくぐらいの達筆で。
高級感溢れる金色で。
「こいつやべぇな……」
「さっきから酷くないかね君?!」
ザラメの写真集(非公式)とか、こんなの持ってるのデウスぐらいだ、ろ……。
「ちょっと待て」
起き上がった俺は、俺の隣に回り込む。
カーブミラー越しに見えるのは、立っているデウスと、しゃがみ込んだままの俺で――。
鏡が映す真実に、俺とデウスは見つめ合う。
互いに自分の姿を指差しながら。
「もしかして……」
「俺たち……」
「私たち……」
「「入れ替わってるうううううう?!?!」」
冬の空に、俺たちの声が重なった。




