02話 浅はかな男
少し前。
咲の婚約者である鈴木太一は、ご機嫌だった。
何もかもうまくいっている。
残り少ない独身生活を満喫するために、愛美を部屋に呼んでおいたからだ。
愛美は都合のいい女だ。
呼べばすぐに来てくれる。
定期的にプレゼントを用意すれば、つなぎとめることは簡単だった。
いつも自分を頼ってくれるから、優越感感じる。
それに。
抱き心地がいい。
『独身なのだから、これくらいは許される』
そう思っていたのだ。
太一は咲と結婚したかった。
あくまでも、本命は咲だからだ。
結婚の約束をした時から、
『そろそろ関係を整理しなくては』
とは思っていたが…。
だが、あと半年。
あと3か月。
結婚式が終わるまで…
そんな感じで、ずるずると関係は続いてい今に至る。
愛美は“甘えた”だ。
自分を頼ってくれるのは嬉しいが、お金がかかるし、少し面倒でもある。
しっかり者の咲は、とても働き者で、お願いしたことは大抵すぐに済ませておいてくれる。
結婚式の準備も、お願いしたら案の定引き受けてくれた。
咲と一緒にいて、とても楽だった。
それに、容姿も好みだ。
愛美のような甘い感じはないが、清楚系で、育ちの良さがある。
どこに連れて行っても恥ずかしくないだろう。
それに。
かなり苦労して落としたんだ。
『奥さんにするなら、咲がいい』
太一は、そう思っていた。
ただ、咲は、ガードが固かった。
付き合い始めた時からスキンシップは限定的。
結婚が決まってからも相変わらず、キスより先には進ませてくれなかった。
だから。
愛美をそばに置くことは、『咲がさせてくれないからだ』
そう開き直っていた。
(今朝、親族の席がどうとか言っていたが、そんなもの勝手に決めてくれればいいのに…愛美もいるし、まぁ来週あたりに会っておくか。)
面倒なことは嫌いだ。
結婚式の準備は太一にとって”面倒事”そのものだった。
短い文章で返信を済ませ、スマホをポケットに入れる。
しばらくして通知があったが…
無視をして、太一は仕事に戻ったのだった。
退勤時間になり、ふとスマホを見る。
『じゃあ、部屋に書類置いておくから、明後日までに書いておいてね。また取りに行くから』
咲からのメッセージにギョッとした。
合鍵を渡していたものの、咲は1度も太一の部屋に入ろうとはしなかったのに…
なぜ、今日に限って。
咲と愛美が鉢合わせたら、面倒なことになる…
太一は頭の中で、こうなった経緯を整理しながら、どうにか丸く収める方法を考える。
(でも、まだ何の反応もないって事は…間に合うか?)
急いで電車に乗り、メッセージも入れておく。
『近くのファミレスで待っていてくれ』
マンションにさえ行かなければ、大丈夫なはず!
一抹の願いを込め、送信する。
変な汗をかきながら、最寄り駅に到着し改札を出た。
その時。
咲から写真とメッセージが送られてきた。
「…!」
咲が持っているはずのない写真。
そして自分の部屋で咲と愛美が映る写真。
(くそ、間に合わなかった…でも…咲なら分かってくれるはず!!)
たった一度の浮気ぐらい。
そう思い、何度も何度も咲に電話を掛ける。
だが。
2度と繋がることは無かった。
マンションに到着し、愛美からのメッセージも確認する。
何もない。
(どうなっているんだ?怒って帰ったか…?)
鍵を回そうとした。
開いている。
そーっと扉を開ける。
家の中はぐちゃぐちゃに荒れていた。
散らかったものを避けながら進む。
その先の部屋に…
座り込み、自分を睨みつける愛美の姿があった。
「たーくん、どういうこと?」
その瞬間。
ブンッと太一の頬を何かがかすめた。
大きな音とともに大破するエアコンのリモコン。
(終わった…)
その後。
癇癪を起こした愛美への対応に、時間を費やしたのだった。




