16話 本音1
23時ごろ。
大地の帰りを待つ咲に、大地のスマホから着信が入った。
「はい!咲です」
『あーすみません、同僚の佐々木と言います』
知らない声。
「え?は、はい!?」
一瞬、大地に何かあったのかと胸がざわつく。
『あの、鈴木君がちょっと飲み過ぎてしまって…今タクシーでそちらに向かっているのですが、マンションの下まで迎えに来られませんか?あと10分ほどで着くと思います』
「わ、わかりました、すぐ行きます」
通話を切った後、急いで上着を羽織り、マンション下で待つ。
暫くするとタクシーが止まり、佐々木の肩に手をまわし、持たれかかりながら大地がふらふらと出てきた。
「だ、大地さんっ!」
咲が駆け寄り、大地の反対側の手を自分の方にかける。
「すみません、こんな感じの再開で。結婚式、呼んでいただきありがとうございました。」
佐々木が挨拶をする。
咲は「あ!」と思い出し、慌てて挨拶をする。
「こ、こちらこそありがとうございました、あの、大地さんからよく名前をお聞きしています。」
「えー、どんな事でしょう?鈴木、変なこと言っていませんか?」
にかっと笑って、そう答えると、咲の緊張は少し和いだ。
マンションの入り口まで少しの会話を楽しんだ。
咲は終始大地を心配そうに見ていた。
(心配することなさそうだな…)
佐々木は、そう感じた。
「おーーーい、すずきー、家だぞー」
ぺちぺちと頬を雑にたたき、佐々木が雑に大地を起こす。
「う…ん…」
「大地さん、大丈夫ですか?歩けそうですか?」
心配そうな咲が目に映る。
「さきさぁん…ただいまぁ…」
「わっ!」
そう言ってバランスを崩し咲にもたれかかる。
倒れそうになりながらも必死に耐える咲。
どうやってこの状態のまま部屋に戻るかを考えていると、佐々木が後ろから羽交い絞めをし、咲から大地をべりっと剥がした。
「こらー、しっかりしろ、奥さんに嫌われるぞー、しっかり立て!」
「……いやだぁ、きらいにならないでぇ~」
そう言って自分で何とか自立したが、ふらふらだ。
「大地さん、手を…」
咲が、向かい合わせて手を取り、後ろ歩きに進む。
佐々木は、もう大丈夫だと確認すると、そのまま待たせてあるタクシーへ向かった。
「あ、あのっ佐々木さん、今日は本当にありがとうございました!また、家にもいらしてください!」
咲がそう声をかけると、ひらひらと手を振ってタクシーに乗り込んだ。
◇◇◇
「うぅ…さきさぁぁん…」
「…は~い」
「さきさんんんん…」
「はいは~い…えっと、ここに座れますか?」
「うう…」
(大地さん、かなり飲んでるな…)
駄々っ子モードの大地をベッドに座らせる。
「あの、お水持ってきますので、ちょっと待っていてくださいね」
そう言って手を放そうとすると、上目遣いでギュッと袖をつかまれた。
(うっ、かわいい…)
「だ、大地さん、これだとお水が取りにいけません…お水、いりますよね?」
こくこくとうなずく。
「えっと、じゃあ手を…離せますか?」
暫く咲が困った顔で大地をじっと見つめると、ふっと力が弱まった。
「すぐ来ますからね」
そう言って咲はキッチンに向かった。
酔ってるものの、意識がかろうじである。
(こんな飲み方をしたのは初めてだった。制御が効かない。あぁ、咲さんに呆れられたらどうしよう…)
うとうとしながらそんなことを思っていると、咲が水と着替えを持って戻ってきた。
「大地さん、お水どうぞ」
そう言って、大地の口にコップを運び飲ませる。
ぽたぽたとシャツとスーツのズボンにこぼしてしまった。
飲み終わると、コップをサイドボードに置き、ボタンに手をかける。
咲の様子を見て、佐々木の言葉を思い出す。
(ほんとうに、嫌われてないのかな…)
「さきさん…やさしい…」
「…?そうですか?…こっちの腕、曲げてください…」
テキパキと着替えさせる。
「嫌いにならないで…ください」
「え?…そんな訳ないじゃないですか」
頭にパジャマをすぽっと被せ袖に腕を通す。
咲をじっと見つめ、辛そうな顔をする。
「だって逃げたから…」
「……え?」
「僕から離れるから…」
「……あ…」
こんな大地の姿を見るのは初めてだった。
今まで会社の飲み会は行っていたし、家でも2人で結構飲むこともあった。
だが、大地はお酒には強い方で、一度も酔い潰れたことなんてなかった。
(うわ言も新鮮だな)
と、タクシーから降りてきた大地を見て、咲は大地のまた新たな発見が出来たと、のんきに考えていたが、“僕から離れるから”と言われハッとした。
身に覚えがある。
(あの時だ)
嫌っているのではなく、恥ずかしくて距離を取った。
ドキドキしてどうしていいか分からず、目をそらした。
その行動に大地が傷ついていた。
言葉が足りずに…
(私…大地さんを傷つけたんだ、こんなになるまで追い込んでしまっていたんだ。)
咲はいたたまれなくなり、大地をぎゅっと抱きしめた。
「……さきさん…?」
「昨日は…ごめんなさい。大地さんのこと、嫌いじゃないです!」
咲からの言葉に安堵し、大地もそっと咲を抱きしめる。
「…ほんとう…ですか?」
酔っているせいで感情が高ぶり泣きそうになる。
「本当ですよ。大好きです、大地さん」
一番聞きたかった言葉を咲からかけてもらえ、夢見心地になる。
体の力が抜け、咲の支えがないと座っていられなくなった。
すぅすぅと寝息が聞こえる。
咲が大地を横たわらせ離れようとした時。
大地は咲の袖口を掴んで離さなかった。
子供のように眠る大地の隣で、咲も一緒に眠りについた。
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