15話 居酒屋にて
(こいつ、意外と無茶苦茶だな…)
佐々木が呆れてビールを飲みながら大地の話を聞いていた。
しかし、この一部始終を咲は知っているという。
大地が、ひそかに想いを寄せていたこと以外は。
(う~ん…知っているなら、今更この事が原因ではなさそうだな)
追加の焼き鳥を頬張りながら、原因を探っていくことにした。
大地はぐびぐびと、いつもの3倍ほど速いピッチで、ビールを飲み干していく。
酒には強い方だが、流石にペースが早過ぎる。
「おいおい、ちょっと早過ぎるぞ」
佐々木が水を差し出す。
「………はぁぁぁ…咲さん…咲さぁぁん」
コップの水をじーっと眺めた後、大地は深い溜息を吐き奥さんの名前を連呼する。
(これは重傷だな)
佐々木は面白いと思いながらも、我が社のエースがこんな調子では今後、支障が出かねない。
情報が不足しているなと感じ、自分が新婚の頃、どんな感じだった思い出しながら質問を続ける。
「うーん、会話はよくしているのか?ただ会話していてもダメだぞ?ちゃんと奥さんの話を聞いているか?」
大地は、う~ん…と考え
「よく分からない…会話していると思う…」
(コミュニケーション的なものは大丈夫か。なら…)
少し声を落とし、ぐいっと大地に近づき、佐々木が続ける。
「じゃあ、無理にシたりしてないのか?嫌がるプレイをさせたとか…?」
「“#$%&‘(”&%$!?)」
大地はガタンッと椅子にのけぞり、耳まで赤くなったかと思うと、はくはくと声にならない声で訴えかける。
(ああ、鈴木はこういう話に免疫無かったな…)
と思いつつも、これは大事なことだ。
恥ずかしがっている場合ではない。
既婚者の先輩佐々木が続ける。
「回数とか、頻度とか…場所なんかも大事だぞ?藤井社長の娘さんだ、きっと大切に育てられてきただろうから、あんまり過激な事させると引いてしまうかもしれないぞ…思い当たるふしないか?」
と問いかけた。
大地が固まっている。
佐々木は、もっと具体的に言った方がいいと思い続ける。
「まぁ、過激っていうのは例えばだなぁ……」
そう続ける佐々木の口を、片手で“むんぐ”と塞いだ。
「………ない」
と小さく答える。
大地の手首を掴み、口から外す。
「そうか…」
(こっちの線かと思ったんだが…)
「じゃあ、あとは何だろうなー」
佐々木が次の質問を考えていると、大地が口を開く。
「違う……」
「ん?」
「…してない」
「何を?」
「だから、咲さんとそういう事はシてないんだ。」
「は?」
佐々木は耳を疑った。
「いや、え?えぇ?おまえ…結婚して何か月だよ?…奥さんの事好きじゃないのか?」
「好きだよ。めちゃくちゃ大切に思ってる…」
「だったら……普通するだろ…したいだろ?」
「……そ、そんなことして、咲さんに嫌われたらどうするんだよ!」
「………おまえ…マジかぁ」
佐々木は原因が分かった。
きっと、奥さんも、鈴木と同じ考えだ。
奥さんが友人と食事に行ったとき、おそらく“そういう会話”になったんだろう。
今までそれが普通だと思っていた奥さんは、世間の“普通”を聞き、戸惑っている最中なのではないかと。
「鈴木…おまえは、そもそも嫌われていないぞ」
「でも…なんでわかるんだよ」
「嫌われているなら、何だかんだ理由を付けて実家に帰ったりするだろう?家にいると言う事は、この生活を続ける気だろう。」
「そう…なのか…?」
ただ、問題は奥さんの戸惑いがどっちの戸惑いなのかだ。シたいのか、シたくないのか…
しかし、こればっかりは、夫婦で解決するしかない。
憶測ばかりせず、思っている事をきちんと言葉にして話し合うように勧めたのだった。
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