14話 利害の一致
その後。
縁談話は何度かあったが、見合いをする気になれず、数か月が過ぎていた。
心に何かつっかえてもやもやする。
昇進も結婚も前向きはなれず、将来のビジョンが霞んでいるようだ。
上司に、”結婚は追々考えることにする”と報告しようとした矢先、1本の電話が入った。
藤井社長である。
(飲みのお誘いかな?)
そう思い電話に出る
『はい、鈴木です』
『あぁ鈴木君、突然すまない、その…今から食事できないかな?』
いつもなら、割と余裕をもって提案してくれる藤井社長。
今日は珍しく『今から』だった。
珍しいと思いつつも、特に予定はなかったし、色々社長に聞いて貰いたいことがあった。
なので、大地は直ぐ指定のお店に向うことにした。
完全室個室の割烹料理店に到着し、部屋に通される。
藤井社長はもう到着しているようだ。
扉を開けると。
藤井社長がさっと立ち上がり、大地を出迎えた。
恐縮しながらも中へ入り、席へ座る。
(どうしたんだろう?)
普段と違う雰囲気に戸惑う。
しかし会話は、いつも通りと変わりない様子。
(気のせいかな?)
そう思った時、藤井社長が切り出した。
『鈴木君、その…その後、縁談は進んだりしているのだろうか…?』
『あー、いや、なかなか…』
せっかく労ってもらっていたのに、“何もしていません”とは言えず濁す。
その言葉に、ぱぁっと表情が明るくなる藤井社長だったが…
急に真剣な顔に変わった。
『…?』
『鈴木君!お願いだ!!』
テーブルに両手をつき頭を下げる。
『!?!?』
突然の事で戸惑う。
『ふ、藤井社長、どうされたんですか?!そんなことしないでください!』
慌てて深々と頭を下げ続ける藤井社長を起こしに、横へ寄る。
『お願いだ!咲と…娘と結婚してはくれないだろうか…!』
『け!?結婚っ?!』
突拍子も無い提案に声が裏返り、言葉を失う。
戸惑いを隠せない大地に、事の経緯を話し始めたのだった。
偶然にも、”あの子”の結婚も破談。
理由は、相手の浮気だった。
婚約者だった人の名前は、鈴木太一と言って、偶然にも自分と1字違い。
招待状を送ってしまった後なので、もし大地が結婚相手になってくれるならば、親戚には誤字があったと何とか誤魔化せると踏んでいた。
式場には事情を話して、名前を差し替えてもらう。
娘が作り上げてきた、この式を何としても成功させてあげたい。
その一心だった。
それに。
藤井社長はずっと、”娘には大地のような人と結婚してほしい”と願っていたそうだ。
娘の意見は尊重する。
そう思って、今まで鈴木太一という男との交際に口出しはしてこなかったが。
『こんなことなら無理やりにでも君と会わせるべきだった』
この破談を通してつくづく感じたという。
『君となら咲はきっと幸せになれる』
そう訴えかけられた。
普通なら…
受けることは無いだろう。
だが、大地にとっては、”あの子”と結婚できる、またと無いチャンスだ。
この千載一遇のチャンスに二つ返事で乗っかることにした。
挙式まで1か月を切っている。
さっそく挨拶に伺おうと提案したが、藤井社長に“式当日まで会わないでいる作戦”を提案された。
娘の性格上、前もって替え玉を用意したと知れば、たとえ当日でも断りかねないと。
それくらい筋を通す性格なのだという。
(なるほど…)
”あの子”を騙すようなことになってしまうと心苦しかったが…
断られてしまっては、どうにも出来なくなる。
(あの子と一緒になれるなら…)
心苦しいが、藤井社長の提案通りに行こう。
結婚し、僕を好きになってもらえるように頑張れば。
その努力は絶対に惜しまない。
それでも“あの子”が嫌だというなら…その時は身を引こう。
接点さえ持つことができなかった世界線。
大地は、霧が晴れる感覚だった。
藤井社長から、詳細を聞く。
スケジュールはギリギリだ。
”破談”とはなったが、途中まで準備を進めていた経験はある。
ノウハウがあるので、流れをすぐに掴むことができた。
結婚指輪は外せない。
突然現れた僕が勝負できるのはここだ。
中途半端なものは渡せない。
さっそく都内で一番のジュエリー店へ来店予約を入れた。
あとは、元婚約者側への中止連絡と大地側の列席者の招待。
藤井家側とのバランスを考えなければ…
親に連絡を取り、リストを早急に出してもらうようにお願いした。
問題は。
すべて”あの子”がウエディングプランナーと連絡を取り合っていたことだ。
突然我々が訪ねるならば、確認の連絡が入るだろう。
万が一この計画が伝わってしまっては、水の泡になってしまう。
ウエディングプランナーとのスケジュールを合わせるため、ひとまず理由は言わず、藤井社長に連絡を入れてもらう。
3日後に打ち合わせをすることになった。
これで万が一連絡が入っても、大地の存在は気づかれない。
打ち合わせ後、慎重にいかなければ。
自分の存在を隠しつつ、主導権をこちら側にする方法…
(どうすれば…)
そう考えていると、藤井社長から一つのアイデアが。
『委任状を書いてもらおう』
一緒に行くわけにはいかない。
窓口役を娘から父に変更する委任状を書いてもらい、その後、父から新郎となる大地に変更する。
念のため、本人から父に変更する旨を電話でも言ってもらおう。
娘から連絡が入ったなら、不審がって連絡することはないだろう。
”あの子”には、”父が窓口役になった”と言うことにして。
新郎変更という突拍子もない変更だが、おそらく式場側は協力してくれるだろう。
今、この挙式をキャンセルされると、キャンセル料で損失はないものの、プラスにもならない。
引き出物や装飾
料理に使う予定だったもの
それにスタッフの手配
これらを、すべてなかったことにするには、かなりの労力だ。
帳簿に載らないマイナス。
会計的視点でみるなら、何事もなく式を挙げてもらうのが一番だ。
交渉の余地すらあるだろう。
計画は着々と固まっていく。
”あの子”…咲さんが描いた”結婚式”を壊さないように。
それだけは常に意識し、穴の開いた部分を埋めていく。
食事を早々に済ませ、2人は早速動き出した。
こうして…
父と大地が結託し、犯行に及んだのである。
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