13話 接点
藤井社長は大地を高く評価していた。
大地が主任になった時。
部長に任命された時。
度々、個人的にお祝いをしてくれていた。
近頃では、飲みに連れていってくれることもあった。
藤井社長の話は、とても楽しく、勉強になる。
年は離れていたが、とても気の合う二人だった。
そんな藤井社長との食事会を、大地は毎回楽しみにしていた。
部長になった時に、相談事も藤井社長に話していて、
『次の昇進の時には、家庭を持っていてくれないか』
と、幹部から打診されたという話を、藤井社長に話したこともあった。
『鈴木君のような人が、娘と結婚してくれればいいのに』
何度か、そう話すことはあったが。
実際に咲と対面することは無かった。
大地の中にほんの少し…
あわよくば。
"あの子"との接点ができるのではないか。
という淡い期待を持ちながら…
しかし。
藤井社長から1年ほど前に聞かされたのは、
”娘には結婚前提の彼氏がいて、近々、顔合わせがある”
と、言う話だった。
こうして。
大地の恋は、始まりも迎えず儚く散った。
気持を切り替えないと…
そう思い、上司から紹介された人の中から、見合い話を受けることにしたのだった。
何となく、”あの子”に雰囲気が似ていた人と。
上司と皇居近くの日本料理店で食事をすることになった。
”口数の少ない人”そんな印象だった。
質問すると、大半は、その両親が答えてくれた。
結婚後の条件も特に引っかかることは無い。
こちらの、
”時々、会社が主催するパーティーに出席してほしい”
という条件も承諾してくれた。
女性の両親は大地を大変気に入り、すぐに結婚の準備を進める運びとなった。
その女性とは、式の打ち合わせの時以外に会わなかった。
いや、”会えなかった”という方が正しい。
打ち合わせには、決まって”母”が付き添った。
プランや衣装合わせも必ず同席し、最終的に”母”が決める。
女性はこだわりが無いのか『それで…』と返事するだけだった。
何度か大地から食事のお誘いをしたのだが、
『母の都合が悪いから』と、断られる。
違和感があった。
でも、相手方の都合が悪いのだから仕方がないと、それ以上追及することはしなかった。
”大切に育てられた一人娘”なのだろう。
その程度に考えていた。
少しの違和感があったものの、式の準備は順調に進む。
挙式予定日の半年を切った頃、会社に結婚の準備をしている旨を報告した。
それと、藤井社長にも。
藤井社長は喜んで式に出席すると返事をくれた。
大地の中で、いよいよ身を固める時が来たのかと実感が沸いた。
そして、招待状の作製に取り掛かる時。
見合い相手が、恋人と駆け落ちした。
どうやら相手方には、学生の時からずっとお付き合いした人がいた。
縁談の話があった時、彼と一緒になりたいと泣いて頼んだそうだ。
しかし…
聞き入れてもらえず、家柄を理由に無理やり別れさせられて、出世コース一直線の大地へ嫁がせようとしたとの事だった。
すぐに駆け落ちカップルは見つかった。
だが、両親は娘から『彼と別れるくらいなら縁を切る、一生会わない!』と絶縁宣言をされ、折れたという。
大地は相手方に平謝りされ、挙式のキャンセル料をすべて相手方が持つことを条件に、破談となった。
大地は相手の女性に対し、とても申し訳ない気持ちになった。
決して軽んじていた訳ではないが…
どこか"あの子"以外なら『誰でもいい』
そう思ってしまっていた節があったからだ。
悪くいえば、出世のために彼女を利用しようとしたのである。
慰謝料も受け取ってほしいと言われたが、丁重にお断りすることにした。
ひとまず。
『招待状を送る』と、先に結婚する旨を伝えていた人。
藤井社長に、破談になったことを伝なければと連絡を入れた。
驚いたものの、大地を気遣う言葉をくれた。
『残念だったね、鈴木君ならきっとすぐに、いい人に出会えるよ』
と労い、
『また飲みに行こう』
そう約束し、報告を済ませた。
準備の慌ただしさから解放され、日常が戻る。
破談になって、なぜかホッとする自分がいた。
でも、また新たに探さなければ。
そう思いながらも、足踏みしてしまうのだった。




