12話 あの子
佐々木は、新婦"咲"に見覚えがあった。
佐々木と大地が入社して暫くした頃。
自社の客船お披露目のパーティーが開かれた。
関係各社、メディアが来る大規模のパーティーだ。
2人とも、そのパーティーに出席をしていて、参加する取引先の方への接待要員としての役割も兼ねていた。
船内レストランに、ブュッフェ形式の軽食が用意されていた。
2人はカクテルを片手にあいさつ回りをする。
一通り挨拶が済んだ頃。
『せっかくだし、何か食べるか』
と、2人で料理の前に立っていた。
佐々木が料理に手を伸ばし。
プレートに乗せていく。
ふと振り返ると、大地は少し離れたスイーツコーナーを眺めていた。
目がキラキラしている。
(甘いものが好きなのか?)
佐々木が大地の目線の先をみると…
そこは人だかり。
特に女性陣の人気が高い。
なかなか近付けなさそうだったが。
『食べたいなら行ってこいよ』
そう、促しても
『別に、そんなに食べたい訳じゃない』
そう否定して、また眺めるのであった。
その時。
スイーツが綺麗に盛り付けたプレートを、嬉しそうに持って、こちらに向かって来る人がいた。
淡い藤色の振袖を着た女の人。
和服の人は、ちらほら居たが、中でも振袖はとても目を引いた。
その上、可愛らしい見た目とは違い、周囲の目など関係ないと言わんばかりの豪華なプレートとのギャップ。
2人にとって、一際印象的だった。
空のプレートを持つ大地。
思わず目で追う。
2人の近くを通り過ぎようとした時、満足げに席に戻ろうとする女性と目が合った。
(しまった、見過ぎたか)
大地は咄嗟に目を反らした。
女性が立ち止まる。
少し考え。
大地に、その豪華なプレートを差し出した。
スイーツコーナーに近寄れないのを察したようだ。
『あの、あそこ…人気が有り過ぎて取れないですよね』
『え、あ、はい…そうですね…』
話しかけられるとは思ってなかった。
突然の事で、しどろもどろになる。
『私のチョイスで良かったら…どうぞ』
そう言って、少し恥ずかしそうにもう一度プレートを差し出した。
色とりどりのプレート。
スイーツコーナーに有るものが、すべて乗っているようだ。
『え…でも…』
遠慮する大地に、
『大丈夫です!私、3往復目なんで!』
と自慢気に、そう告げる。
そして、半ば強引にグイッと大地にプレートを渡した。
『空のプレート貰いますね』
大地の空のプレートを、ひょいっと取る。
『あ……ありがとうございます』
その言葉を聞いて、女性が微笑むと。
また、スイーツコーナーへと勇ましく突進していったのだった。
『…良かったな、鈴木』
『…うん』
それから2人は窓際の席で食事をしていた。
(あ、また、あの子だ)
スイーツを貰ってから妙に気になる。
右へ左へ色んなものをプレートに乗せ、“あの子”は、何度も往復していた。
『あの子、めっちゃ食うな(笑)』
『…うん(笑)』
そんな会話をしながら""あの子"を観察していた。
すると、1人の男性が“あの子”の座席に来た。
『あれ、藤井社長じゃないか?』
佐々木が大地に言う。
まだ入社して日の浅い2人でも分かる人だった。
『そうだな、と言うことは…』
大地の部署は経理部だ。
藤井重工の藤井社長とは予算の打ち合わせや、共同開発の契約度に何度か顔を合わせたことがあった。
人柄もよく、入社したばかりの大地にも対等に話してくれる。
人として尊敬できる方。
(藤井社長のお嬢さんか…)
大地は、なんだか妙に腑に落ちたのだった。
パーティーが終わり、下船する時。
社員一同で、お見送りをする。
大地と佐々木が出口付近で並ぶ。
あたりを見回す大地。
すると。
"あの子"が。
『あ!』
と言う顔でこちらを見る。
横を通り過ぎる時に、ペコリと頭を下げた。
大地も頭を下げる。
藤井社長の後ろをついて帰って行く姿。
名残惜しそうに目で追っていた。
それに気付き、佐々木がニヤニヤしながら、
『連絡先聞かなくて良かったのか?』
と。
『…#&%¥※!な…んでっ!』
耳まで真っ赤にして慌てる。
それを見て。
(こいつ、分かりやすいな…)
そう、佐々木は思ったのだった。
そんなエピソードがあったため、新婦が入場した時。
(あぁ、何だかんだでうまく行ったんだな)
そう解釈していた。




