11話 居酒屋にて
昼休み。
「……き?おい、鈴木、聞いてんのか?」
社食で、同期の佐々木陸が声をかける。
「…あ、あぁ、聞いてる」
と、明らかな上の空で、ハンバーグ定食をつつく。
「おまえ…何か最近変だぞ?」
「そんなこと…」
"無い"
とは言いきれなかった。
上の空で、元気がない。
浮かない顔で、昼ご飯を食べる。
これは何かあったと確信する佐々木。
「なぁ、鈴木。今日飲みに行こう」
見かねて佐々木はこの日、大地を飲みに誘った。
結婚して、急に飲みに行くのは初めてだ。
今までは、夕飯を用意してくれる咲に配慮し、事前に伝えていない飲み会はすべて断っていた。
しかも。
今は、ぎくしゃくしている。
(一刻も早く、修復に取り掛からなければならないのに…こんな状態で飲みに行って、更に咲さんに嫌われてしまったらどうしよう)
そう過るが、その修復の仕方が分からない。
既婚者の佐々木になら相談できるかも。
このままでは、埒が明かない…
それで。
その日は佐々木と飲みに行こうと決心した。
咲にメッセージを送る。
すぐに、咲から、
『楽しんできてください』
と、返事があった。
大地は、その返事に、深々と頭を下げるスタンプを送り返した。
仕事を定時に切り上げる。
会社近くの、佐々木とよく行く居酒屋へ向かった。
取り敢えず生ビールを2つ。
つまめるものを3品ほど注文した。
お疲れ様の乾杯をした後、当たり障りのない会話。
それから。
佐々木が切り出した。
「…で?何があったんだ?」
少し間を置いて。
ぐびぐびぐびーっと、ビールを飲み干し、大地も口を開いた。
「…咲さんに…奥さんに…嫌われているかもしれない」
「ん?喧嘩でもしたのか?」
鈴木の事だから、もっと深刻なことなのかと思っていた佐々木。
なんだ、夫婦喧嘩か。
そう思ったが…
ポツリポツリと真剣に話す大地の言葉を、黙って聞くことにした。
数年前。
会社が所有する燃料を運搬するタンカーの事故があった。
騒然となるオフィス。
その中。
いち早く対応に動いたのが、大地だった。
大地の、冷静且つ的確な判断は、慌てる周囲を現実に引き戻した。
それぞれが、その対応に全力を注ぐ。
損失は免れなかったものの、最小に抑えられ、会社の信用は守られた。
大地が、そのキッカケとなったのだ。
そして。
この出来事が経営陣に買われた。
当時主任だった大地は、異例の若さで経理部門の部長に任命され、今に至る。
その、いつも冷静沈着で堂々としている“鈴木”が。
酒の力を借りて弱々しく話す姿は、佐々木にとってとても新鮮だった。
(まるで別人だな…)
一通り話を聞くが、”嫌われる”要素が見当たらない。
しかし、まぁ。
『女性と言うのは突然怒ったりするし、そういうものではないか?』
と、言ったが、
『咲さんに限ってそんな理不尽なことはしない!』
と熱弁されたのだった。
さらに、ヒアリングする。
聞くところによると。
交際0日で結婚したと言う。
佐々木は、何ヶ月か前に"お見合いをする"と大地から聞かされていた。
出世コースに乗った鈴木なら、”結婚”は必須だろう。
てっきり取引先の藤井重工の社長のお嬢さんとお見合いし、話がまとまったものだと思っていた。
しかし。
実際お見合いをしたのは他の人で…
まとまりかけた縁談は相手先の都合で破談。
困っていたところ、ちょうど藤井家からの縁談の打診があった。
と、大地は話した。




