10話 行き違い
咲は、中学校から大学までの一貫校で育った。
両親は、会社を経営していて教育熱心だ。
勉強だけでなく。
色んな事に興味を持つように体験させてくれた。
ピアノやダンス、スイミングに英会話
他にもたくさん。
成績もよく、学校では常に上位。
両親は、咲が興味を示したことがあったなら。
全力で、応援してくれていた。
高校や大学生の時。
何人か思いを伝えられ、お付き合いすることもあった。
両親はそのことを知っていたが、反対されることは無く。
『それも社会勉強だ』
と、考えていた。
門限は一応あったが、申告すれば延長は可能だ。
だからといって、咲は無謀な行動はしなかった。
目に入れても痛くない。
そんな可愛い娘だったが、過保護に育てられることは無かった。
しかし。
母から、1つだけ。
”ボーイフレンドがいても線引きはしっかりしなさい。そういうことは結婚してから。”
と、しっかり釘を刺されていた。
咲も、そのことは弁えていて、その約束を破ることは無かった。
だから。
太一とも最後までプラトニックな関係を貫いた。
実は、何度か太一が、スキンシップで暴走する事はあったが…事なきを得ていた。
咲は、その都度なだめ、説明を繰り返した。
『今時、そんな人はいない。俺の事が好きじゃないのか?』
そんな風に言われることもあったが。
流されることは無かった。
なので。
特段、男性に免疫が無いわけではない。
ただ、スキンシップの、その後の事については。
経験がない。
友達が話すことなどで、ぼんやりと理解はしていたが。
咲にとって、未知の世界だった。
そして。
母の"結婚するまでは"の条件が外れた事。
友人2人を通して、気付かされた。
しかも、あれやこれやと言われ、プレゼントまで。
それで、妙に意識するようになってしまったのである。
(これが普通の結婚だったら悩むことは無かったのにな…)
急な結婚ではあったが。
生活を共にする中で、大地と結婚して本当に良かったと思う。
愛情もある。
本当に好きだと思える。
尊敬できるし、身を差し出す覚悟もあった。
それは。
漠然とだが…
ゆっくりと時が流れて。
大地が望むなら。
いつの間にかそういうことになるのではないか。
と、咲の中で、まだ先の出来事だと思っていたのに。
だが、実際はそうはいかなかった。
頭ではそう考えていても、心は違うことを考えてしまう。
こんなにも自分の中に貪欲さがあるなんて。
安定している、この形が壊れてしまうのが怖い。
でも、もう少し手を伸ばしてみたい。
咲は、アクセルとブレーキが同時にかかり、制御を失った。
映画鑑賞の日。
お風呂から上がりに、いつもの準備をする。
一応。
優梨たちにもらったプレゼントを身に着けて。
妙に意識がそちらに向いてしまう。
ギリギリ平静を保つ。
いつもの通り料理を並べ。
いつも通りお酒も置く。
そして、いつも通りソファーに座った時。
肩が触れた。
(#$%&‘!)
ビクッとする。
振り向くと大地の顔がそこにあって...
みるみる顔が赤くなる。
心臓がうるさい。
このまま…
そういうことになったら?
(でも…これを見たら、大地さんどう思うんだろう?)
一応、準備したものの、後悔する。
まるで、”誘っている”ようじゃないか。
恥ずかしさがピークになった。
いつもなら、少しだけ離れるだけ。
だが。
咲は、距離感を見失っていた。
それで。
ソファーの端に座り直してしまったのだ。
(これは…不自然だ…!)
そう思い、座りなおすことも考えたが…
それもまた不自然だ。
『どうした?』と聞かれたらなんて答えれば?
慌てる咲を見て、大地が何か言いかけたが…
それを遮るように、映画をスタートさせた。
こうして…
2人の間に、行き違いが生じてしまった。




