第24章 包囲
夜明け前。
警視庁・捜査二課のフロアは、普段よりも静かだった。
しかし、その静けさの奥で、確実に歯車は回り始めていた。
「……これで、全部揃いました」
北澤優は机の上に並べられた資料に視線を落とし、
静かに言った。
金融ログ、
通信履歴、
アクセス履歴、
内部改ざんの痕跡。
そして――
“書き換えられたはずのデータ”と
“書き換えられる前の本来のデータ”。
それらはすべて、一本の線でつながっていた。
「裏帳簿、送金ルート、改ざんプログラム、実行ログ。
そして……」
北澤は1枚の紙を指で叩く。
「犯行時刻にアクセスしていた端末と、
操作者のログイン履歴。
全部、揃いました」
周囲にいた捜査官たちが、息を呑む。
「これで……いけるな」
誰かが低く呟いた。
優は小さく頷いた。
「ええ。これで“事故”でも“偶然”でもなく、
“意図的な犯罪”として立件できます」
そして、続ける。
「関係者全員。逃げ場はありません」
◇◇◇
―――同じ頃。
別の場所で、ひとりの男が苛立ちを隠せずにいた。
デスクに並ぶモニターには、エラー、遮断、拒否の文字。
「……ふざけるな」
キーボードを叩いても、反応がない。
「なんで入れない……!」
彼は知らなかった。
すでに自分の“逃げ道”が、すべて断たれていることを。
データの改ざんも、
証拠隠滅も、
すべて――
“逆に証拠として保存されている”ことを。
背後で、スマートフォンが震えた。
《こちら警視庁です》
その文字を見た瞬間、血の気が引く。
「……クソ……」
逃げ道は、もうなかった。
◇◇◇
―――一方その頃。
柊、凪、環、蒼真、涼平、そして湊は、静かな部屋で報告を待っていた。
電話が鳴る。
柊が受話器を取る。
「……はい」
短い沈黙のあと、彼の表情が変わる。
「……了解しました」
通話を切り、ゆっくりと息を吐く。
「終わりました」
その言葉に、全員が息を詰めた。
「主要人物、全員確保。証拠も押収完了。
――完全に、こちらの勝ちです」
沈黙のあと、静かな安堵が広がる。
湊は、そっと目を閉じた。
「……やっと、終わったんだ」
凪が小さく笑う。
「長かったですね。でも、ちゃんと終わりました」
涼平は、湊の肩にそっと手を置いた。
「よく耐えたな。もう、誰も湊を傷つけない」
その言葉に、湊はようやく肩の力を抜いた。
「……ありがとう」
外では、朝の光が街を照らし始めていた。
長い夜は、ようやく終わったのだ。
――次に来るのは、“取り戻す時間”だった。




