エピローグ ― 笑いあえる日常 ―
――ぽかぽかの場所へ
ぽかぽか邸には、久しぶりに穏やかな空気が流れていた。
事件が終わり、張り詰めていた糸がようやくほどけたような、そんな夜だった。
「みんな、本当にありがとう」
湊が静かに頭を下げる。
涼平が続けて言う。
「俺たちだけじゃ、ここまで来られなかった。
……本当に、ありがとう」
凪が笑って肩をすくめる。
「いや〜、久しぶりに蒼真さんと組めて、ちょっとテンション上がりましたよ。あの感じ、懐かしかったなぁ」
「うん……あの頃みたいだった……」
蒼真も、どこか懐かしそうに微笑む。
「まさか、こんな大きな事件になるとは思いませんでしたけどね」
環がそう言うと、柊が少しだけ表情を曇らせる。
「ああ……正直、俺は環が襲われたことが一番こたえた」
そう言いながら、自然に環を引き寄せる。
「でたでた〜、柊先輩の溺愛モード〜」
凪が笑うと、涼平も肩をすくめた。
「いや、あれは仕方ないだろ。
俺も環さんが連れて行かれそうになったって聞いた時、背筋凍ったもん。
柊に何言われるかと思った」
「え? そっち?」と湊。
「うん。正直、柊の方が怖い」
「分かる、それ」
と凪が即座に頷く。
「おい……なんだよ、それ……」
柊が眉をひそめると、場の空気が一気に和らぐ。
「柊先輩は環さんの前だと別人ですからね〜」
「やめろって……」
そう言いながら、柊は照れたように環を抱き寄せた。
「……ふふ。柊、かわいいですね」
環がそう言うと、柊は一瞬言葉に詰まってから小さくため息をつく。
「……言うなよ」
みんなが笑った。
◇◇◇
夜。
静かな寝室で、柊は環をそっと抱き寄せる。
「環、2度も襲われて怖かっただろ?
1人にして悪かった……」
「はい……びっくりしたんですけど、湊さんの名前を聞いた瞬間、湊さんを守らなきゃって思って。
言葉が出なくなってしまって……腕を掴まれて連れて行かれそうになったときに、助けてもらえて……。
ちょっと無謀でしたね、私……」
「そうか……環……ごめんな……」
環を抱く腕が強くなる
「柊……私こそごめんなさい。
柊が怖かったって言ったとき、私も急に怖くなって。
私なんてことしたんだろうって……
柊をそんな気持ちにさせてしまって……
ごめんなさい。」
「環……謝らなくていいんだ……
環が無事で俺は安心してる。
俺もちゃんと環を守れるようにならないとな。」
「柊……私は柊にいつもちゃんと守られてますよ。
でも、柊が怖いって思うことはもうしません。」
「うん……そうしてくれ……」
静かな沈黙。
それから、環が小さく笑う。
「ふふ。柊がみんなにイジられてるの思い出しちゃいました。
柊、かわいところあるんですね〜」
「環……そういうこと言うなよな〜」
「凪くんにいじられてもいつも変わらないけど、涼平さんや蒼真さんといると少し違うんだなって思いました。」
「……あいつらは、歳も同じだし同期でずっと一緒にいたからな」
「いいですね〜そういうの。ステキな人たちですよね〜」
「そうだな……環もそのステキな人たちの一員だろ」
「え?そうなんですか?」
柊は小さく息を吐き、照れたように笑った。
「そうだよ。環も凪もみんな仲間だ。
まぁ俺にとって環は大切な人だけどな。」
「柊……私も柊は大切な人ですよ。」
「ありがとう。環。」
「うん。ありがとう。柊。」
夜の静けさが部屋を包み、ふたりの呼吸だけがゆっくりと重なる。
それは特別な言葉も約束もいらない、
“いつもの日常”へと還っていくための、静かな合図だった。




