第23章 包囲網
夜明け前の警視庁庁舎は、静まり返っていた。
だが、その一角――捜査二課のフロアだけは、
明かりが落とされることなく、静かな緊張に包まれている。
机の上には並べられた資料の束。
モニターには、
時系列で整理されたアクセスログ、
資金の流れ、関連企業の相関図。
北澤優は、それらを一つひとつ丁寧に確認していた。
「……やはり、点と点がつながったな」
低く呟くと、隣に立つ部下が頷く。
「はい。こちらが、問題のログです。
不正アクセスの起点は3か所。
すべて、同じIP群に収束しています」
「そしてその先が……」
北澤は画面を指差す。
「——日比野健)。表向きは優秀なシステムエンジニア。
だが裏では、資金洗浄用のプログラムを組み、
社内ネットワークを使って不正を行っていた」
さらに別の画面が切り替わる。
「その資金の流れを追うと、複数のペーパーカンパニーを経由し、最終的にこの2人へ繋がる」
画面に表示された名前。
――板橋克則。
――諏訪晴彦。
「……役員クラスが絡んでるとはな」
部下が低く呟く。
北澤は腕を組み、深く息を吐いた。
「単独犯じゃない。組織的だ。
しかも、相当用意周到」
少し間を置き、優は続けた。
「そして――この事件の“引き金”になったのが、高杉湊さんだ」
室内の空気が一瞬張り詰める。
「彼女は偶然、彼らの“帳簿の歪み”に気づいた。
それを修正したことで、逆に“邪魔者”として認識された」
資料の1枚を指差す。
「彼女を陥れ、責任を押し付け、証拠を消す。
そのために、個人情報を利用し、身柄を押さえようとした」
静かな怒りが、声の奥に滲んでいた。
「――つまり、今回の事件は“未遂”だ」
部屋に沈黙が落ちる。
北澤は顔を上げ、きっぱりと言った。
「ここからは警察の仕事だ。
証拠は十分。あとは、動くタイミングを待つだけだ」
その時、内線が鳴った。
「北澤さん、例の件……現場が動き始めました」
北澤は受話器を取る。
「了解。こちらも準備に入る」
通話を切り、静かに立ち上がる。
「……これで終わらせる」
その声には、揺るぎない覚悟があった。
◇◇◇
一方その頃――
アークシステムズでは、凪と蒼真がモニターを見つめていた。
「……来るね」
凪が低く言う。
「ええ。もう引き返せない」
画面の中で、ログが確実に“包囲”を示していた。
それぞれの歯車が、ついに噛み合い始める。
事件は、最終局面へ。




