第15章 告発(前編)
夜の街は静まり返っていた。
ビルの灯りが点々と浮かぶ中、湊はスマートフォンを握りしめていた。
画面には、先ほど美乃から届いた短いメッセージ。
―― 『今から来られる? 場所、送るね』
すぐに位置情報が届く。
警察署とは少し離れた、落ち着いた喫茶店の名前だった。
涼平はその表示を確認し、静かに頷いた。
「行こう。ここからが正念場だ」
湊も頷く。
「……うん。覚悟はできてる」
その言葉に、柊、凪、蒼真が小さく目配せをした。
「俺たちはここで待機します」
「何かあったら、すぐ動けるように」
涼平は3人に短く頷き、湊とともに車に乗り込んだ。
◇◇◇
落ち着いた照明の喫茶店。
店内は静かで、客もまばらだった。
奥の席に、1人の女性が座っている。
切れ長の目に落ち着いた表情。
洗練された雰囲気の中に、どこか鋭さを秘めた空気。
――北澤美乃。
湊が近づくと、すぐに顔を上げた。
「……久しぶり。湊」
「美乃……」
2人は短く視線を交わし、すぐに席についた。
涼平は一歩下がり、静かに会釈する。
「美乃さん、お久しぶりぶりです。」
美乃は軽く微笑んだ。
「涼平くん、お久しぶり。」
そう言って、視線を湊に戻す。
「それで……例の件って、これ?」
湊は頷き、タブレットを取り出した。
「はい。これが、今回の件で見つかったログと、解析した資料です」
画面に表示される数字と図表を見た瞬間、美乃の表情が変わった。
軽く、だが確実に――“仕事の顔”になる。
「……なるほど。これは……」
指先でスクロールしながら、淡々と確認していく。
「帳簿の二重構造。
しかも、表と裏の差分がきれいに分散されてる。
ここまで計算されてるのは、素人じゃない」
涼平が静かに頷く。
「こちらでも同じ結論に至りました」
美乃は一度画面から目を離し、湊を見る。
「あなたがこれに気づいたのね」
湊は頷く。
「偶然。でも……見てしまった以上、放っておけなかった」
美乃は小さく息を吐いた。
「正解よ。気づいてくれて、ありがとう」
少し間を置いて、低い声で続ける。
「この件、正式に受ける。
私のいとこ――警視庁捜査二課に繋ぐ」
涼平が一歩前に出る。
「お願いします。こちらとしても、全面的に協力します」
美乃は頷き、はっきりと言った。
「いいわ。これはもう、個人の問題じゃない。
組織犯罪よ」
そう言って、湊を見つめる。
「……湊、さすがのあなたも怖かったんじゃない?」
湊は少しだけ微笑んだ。
「正直、怖かった。でも……1人じゃなかったから」
その言葉に、美乃は一瞬だけ目を細めた。
「そう。なら、もう大丈夫よ」
テーブルの上に置かれた資料が、静かに重なり合う。
それは、真実を暴くための“証拠”であり、
同時に、彼女たちが踏み出した覚悟の証だった。
夜の街に、静かに雨が降り始める。
その雨音は、まるで次なる幕開けを告げる前奏のように、
静かに、しかし確かに響いていた。




