85. 鍾乳洞
洞窟内部は鍾乳石が無数に垂れ下がっており、小石を投げた反響音から奥までずっと続いているのが分かる。見えるのは光が差し込む入り口のみで、奥については暗すぎて何も見えない。
「コナミ、これを使って」
手渡されたのはブラッディソウルから貰った暗視ゴーグルだった。しかしゴーグルと呼ぶよりも耳に掛けるタイプのイヤホンにも近い。よく見ると魔力を込めた石が填められており、魔道具として耳に掛ける事で魔法が発動する仕掛けだ。どうりであの規模のゴロツキ共が用意周到に一斉射撃が出来たわけだ。
耳に掛けてみると視界は少しボヤけるが洞窟全体がハッキリと見渡せる。更には熱感知センサーも付いておりまだ真新しい熱を持った血の痕跡が奥へと続いているのがよく分かった。
「知らない内に魔道具はここまで一般化されながら進歩してたなんてな」
「シガレットの厄災があってから魔道具は留まることなく進歩を続けたよ。元々冒険者クラスじゃないと何も出来ずに死を待つだけだったから、少しでも抗えるようにみんな尽くしてきたんだ」
「なるほど……シガレット、ね」
シガレットはどこへ行っても名前が上がるがそのどれもが英雄としてではなく戦争を引き起こした者としてだ。二人は慎重に洞窟の先へと足を運ぶ。
洞窟は横も縦も幅10メートルはある大穴だが、洞窟内は魔物は疎かネズミ一匹すらも見当たらなかった。外は魔物が多くいる荒野にも続いているから魔物が住処にしていてもおかしくは無いはずなのに。
奥へと進めば進む程に不気味さは増していくばかりだが、既に背中を向けている元いた入り口はずっと遠くに見えるくらいへ先に進んでいるのに何も居ない。
だが、ファウドが引き摺っていた血の跡が急に消えた。
「コココココナミ!!俺は上だあああ!!!」
ファウドの悲痛な声は天井から聞こえてくる。鍾乳石に捕まってこちらを見ているが、その形は完全に人間ではなかった。足が足と呼ぶには相応しくなく、ネズミや虫、更には別の人間の足が繋がり見る者を恐怖させる無惨な姿をしていた。
「こ、こんな、姿なっちまったよ。コココココナミ!!あああ!!殺して、殺、殺して!!!助けてくれえええ!!」
「そんな……嘘だろ……」
その姿のまま地面へ着地してきたファウドだったが足はガタガタと揺れ一部の足が千切れ落ちた。血を巻き散らしながらファウドにも痛覚が繋がっているのか苦しそうに血を吐いている。
「ここここの奥、ダ・ハウという男!!我が我が我が主様!!あああ!!コナミ!!!気を付けろ。新たな生物が誕生している!!ころ、殺、ころころ、殺してやるあああ!!」
先程ファウドの口内に進入した白い糸状の物が操っているとでもいうのか。自我を保つのに必死で頭を掻きむしりながらファウドは意識を保っている。
「待て!どうすれば助けられる!!教えてくれ!!」
「せん、せせ洗脳が強すぎる!!俺の首首、首を斬れ!!そそそそそうすればあああ!!あががが!!我が主の為にいいいい!!!」
洗脳が強すぎて自我が崩壊し始め言葉がおかしくなっていく。歪な足がこちらへ向かってくるがファウドは自らの指を食いちぎり攻撃する術を奪っていた。
「早く!!首をおおお!!」
「くっそおおおおお!!!」
コナミはファウドの首を切り落としたはずだったが身体と頭を繋げている糸が弛むせいで上手く切れなかった。ファウドの首は切れているのに身体と繋がっている白い糸状の物のせいでぶらんぶらんになっていた。
「あがががが我が主から頂いた身体を傷つけるとは!!違う!!この糸は身体中を巡っている!!こいつを斬れ!!!お前のあの技なら切れるはずだ!!!」
力いっぱい剣を振っても糸は弛んでしまう。ならば速度で斬れば糸は引き千切れる。でもファウドは……いやもうやるしかない!コナミは自身に雷を纏い目を閉じた。真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ。
「【英雄】!!雷光抜刀撃!!」
洞窟全てを照らす程の稲妻が走りながら剣は首と繋がった糸を確実に切り裂いていた。ファウドの首はゴロゴロと転がり燃える様に糸は燃えていく。更には数々の生き物で繋げていた足はバラバラとなり個々へと崩れ落ちた。
コナミは一度能力を解除して息継ぎをした。恐怖心や不安から乱れた心を落ち着かせないと心を蝕んで魂を弱らせていく。
「はぁ、はぁ、ごめん、ごめんなファウド。くそっ!!糸でくっ付けていただけだってのかよ……。こんな惨い……待て、イヴも糸に操られてるってのか!?そうだとしたらどうやって糸だけを殺せばいいんだ」
「なんかコナミが糸を切り裂いたというよりマナに反応して燃えたように見えなかった?もしかしたらこの糸、マナに体制が無いのかもしれないね」
言われてみれば切った感覚が薄いようにも感じていた。つまりもしかすれば大量のマナをイヴの体内に送り込む事さえすれば助けられる可能性もあるんじゃないか。そう考えているとナタリーはコナミの腕に抱き着いてきた。
「大丈夫、安心してコナミ。こう見えてマナの出力は伊達じゃないから。ウチも一緒だからさ、ね」
安心させようとしてくれているナタリーを見てアイリを思い出す。頼りになるし心強いし、どんなピンチでも一緒にいれば何とかなると思えてくるそんな存在。
コナミはナタリーの頭を優しく撫でて大きく深呼吸した。誰も彼もを救える力なんかない。それは分かってる。それでもナタリーとイヴだけは必ず助けてみせる。
「進もう」
そう言ったその瞬間だった。
「ウヴォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
洞窟の奥から響き渡る声は地ならしを起こす程凶暴で、その声だけで普通なら腰が抜けてしまう程恐ろしい声だった。二人は咄嗟に耳を塞いだが、ナタリーは恐怖からか足が竦んでへたり込んでしまった。
「ナタリー、大丈夫か?」
「どんな化け物がいるってのよ……怖い…けど行かなきゃ」
ナタリーを立ち上げさせたはいいが、どこまで守りながら戦えるのか。この先に進むという事は間違いなく声の主との戦闘は避けられないだろう。更にはイヴとも戦闘になれば、と考えるとコナミも緊張から大きく喉を鳴らす。




