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84. 糸

 大男は腕はニタニタと不気味な笑みを浮かべながら反撃するわけでもなくこちらを見ていた。目は虚ろで死んだ魚の様に瞳孔が開きっぱなしでまるで生気を感じない。


 「我が我が我が我が……我が主を裏切る行為は出来ないッ!我は主の作りしイレブンの名を持つ者!あああ新しく誕生した生命の喜び!!よよ喜び!!!」


 ガタガタと揺れながら壊れた玩具も様に言っている事が支離滅裂としているが、ネクロポリスはやはり人体実験をしているのかもしれない。そうなると連れていかれたブラッディソウルの死体や黒服達も心配だ。


 「はぁ……はぁ……」


 感情に引っ張られて魂が揺れ始めたのかコナミは急に息切れをしてしまう。落ち着け、こんな感情に流されちゃダメだ。心を強く持つんだ。強く。強く。深呼吸して心拍数を抑えつつコナミは冷静を保った。


 ふとメアリーを見ると既に亡くなった黒服を抱き締めている。

 これ以上被害を増やすわけにはいかない―――――。


 「 殺して 」


 イレブンと名乗った大男がそう言った気がしたが、しかし腕を斬られた部分から出血多量で既に死んでいた。その顔は悲痛に浮かんだ様子はないが口元だけがパクパクと動いている。


 ズルズルズルズル……!!


 するとイレブンの口から謎の白い糸状の物が音を立てて吐き出されていく。それはどんどんと口の中から現れて、天井に張り付いたかと思うと死んだイレブンの死体が浮きあがる。


 「ナタリー!!気を付けろ!!」

 「な、なんだあれは!!」


 こちらに糸状の物が束になって襲い掛かってくると思ったが、イレブンの死体を運んで行く様に動き出しどこかへ連れ去ろうとしている。


 「……これ、ネクロポリスの本部へ死体を連れ帰ろうとしてるんじゃ」

 「ナタリーは待ってろ。俺一人で行ってくる」


 その後を追いかけようとしたが、ナタリーはコナミの腕を強引に掴んで離さない。その血に濡れた手はガタガタと震えていた。


 「ナタリー、怖いだろ。無理しちゃダメだ」


 「無理はしてない。ウチはコナミを失うのが怖い。もう誰も死んでほしくなんかない……。もう、嫌だ……」


 ナタリーはそのまま膝をついて動けなくなってしまったが、燃え盛る屋敷に逃げようとするイレブンの死体を見てコナミはナタリーを抱き抱えて脱出した。黒服の死体も回収したかったがこれ以上は屋敷が持たない。


 「な、なんだ!!おごぉ!!!」


 外にいたファウドが何者かに襲われているのか呻き声をあげている。コナミは急いで外に出るとファウドの口内にイレブンから現れた白い糸状の物が入り込もうとしていた。


 「おごぉ!!おごご!!」

 「ファウド!!」


 コナミは糸状の物を切り落とそうとしたが遅く全て入って行ってしまった。ファウドはビクビクと身体を痙攣しながら立ち上がったが、目はイレブン同様虚ろになりどこを見ているのか分からない。


 棒立ちのまま睨み合いが続いたが突然ファウドの口から血が零れ落ちる。


 「お、おい、ファウド。しっかりしろ!」

 「コナミ……俺は……死にたくない……」


 そう言うとイレブンの死体を抱えて猛ダッシュでどこかへ走り去った。こんな恐ろしい状況でナタリーを置いていく訳にもいかず、抱き締めてたままファウドを追った。


 ブラッディソウルの方向まで駆け抜けて行ったが、その先は街より外の荒野になっていて20メートル以上の断崖絶壁で崖の様になっている。だが操られているせいなのかその塀を躊躇せず飛び降り、地面に着いたファウドの足は木端微塵に弾け飛んだ。


 「あああああああああ!!!」


 悲痛な叫びをあげながらも這い蹲って崖の下へと進んでいく。さすがに英雄の能力を使っていてもこの崖を降りる事は出来ない。


 「コナミ大丈夫。飛び降りて」

 「え?」

 「ウチを信じて!早く!」


 コナミはナタリーの目を見てそのまま崖から飛び降りた。20メートルという高さは落ちるまで時間がかかり、その間の恐怖心は死を直観させる。それも束の間、直ぐに地面が足元に迫ってきた。


 「ナタリー!!!」

 「エアフォースウインド!」


 ナタリーが魔法を唱えると身体が羽の様に軽くなり、何事も無かった様に着地が出来た。風魔法の達人なのか色んな工夫が出来るものだ。


 「ありがとうナタリー」


 そう言って頭を撫でると猫の様に擦り寄ってくる。先程までの恐怖していたナタリーはどこへ行ったのやら。


 「ウチ、やっぱりコナミとなら怖いものなんかない。死ぬ時は一緒に死にたいし、一緒に生きて帰りたい。だからウチも戦うよ」


 その手に震えた様子は無く覚悟が決まったようだった。心が不安定ではあるが魂の強さはしっかりとした子だとコナミは感じる。


 「絶対生きて帰るぞ」


 崖下にあるこの場所は街から完全に死角となっており、地図で見る限りその先は何も無く荒野が続いている為、ここに洞窟がある事に気づかないし、誰もここにネクロポリス本部があるとは思わないだろう。


 二人はファウドの血の跡を追ってその先に見える洞窟へと進んでいく。

 スラム街ヴァイパーズパンクの地下に続く洞窟は暗くその先は暗黒に満ちていた。




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