86. ネクロポリス
先へと進んで行くコナミ達だったがゴーグル越しで見ても生き物の姿がない。全ての生き物を糸でくっ付けてしまったのだろうか。非道卑劣極まりない人徳を無視した奴がしているに違いない。
「ナタリー、ネクロポリスのクルサーノってのはどういう奴なんだ」
「クルサーノはこんな非道な事をする人じゃなかった、と思う。パパが生きていた頃に少しだけ会った事があるだけだけど、長髪にスーツを着た人で―――」
長髪にスーツ。その単語だけで脳裏に浮かんだのはウロボロスだった。まさか、クルサーノがウロボロス?いや闇の使者はここ1年の間に発生しているはず。流石に人違いで間違いないだろう。
「あっ、そうか。だからイヴがここに……。あ、悪い続けてくれ」
「えとね、前にも話したけど闇の使者の脅威から逃れる為には自衛する必要があるって話してて、その為に人員を集めているだとか。でも見た目は本当に普通の人でそんなイカれた人だなんて思わなかった」
二人の足は奥へと進みながら話しを進める。その中で少なくともクルサーノは闇の使者ではない事は分かった。だがあの糸はなんだ?マナを帯びた物ですらない、何かの生き物にも感じる程だった。
「前当主の父親はクルサーノと秘密裏に関わりがあったみたいで神への信仰も根深い人だと思う。どういった物を神と呼んでいるのか知らないけどこんなやり方じゃ天罰を食らって当然だよ!」
「天罰ね」
気が付けば人が座っているのがゴーグル越しに見えた。その瞬間パッと電気が点いて洞窟全体が明るく照らされ、鉄の壁で出来た研究所にも見える広いホールで数々の大きな機械が見える。
「天罰、天罰天罰天罰。この世で最も見苦しい言葉だ。願うばかりで成就は神任せ。そして非魔科学的であり魔術師が述べていい内容でないな」
二つに分けた黒髪の長髪に赤いスーツ姿。丸いサングラスをかけたスラリとした身体でビーチチェアの様に長い椅子でくつろいでいた。
「お前が、クルサーノか」
「そうだ。私こそがネクロポリス代表のクルサーノ。そしていずれこの世界を根源から覆し世界を掌握する者だ。軟弱な人間共ではこの世界は守れない。即ち根底から見直す必要がある」
「それがあの化け物作りだと言うのか!!人間のしていい行いじゃない!!今すぐやめろ!!」
コナミは剣を向けるがクルサーノは何一つ動じていない。周りにも天井にも敵らしき人影すら見えないが先程の叫び声も踏まえるとこの余裕はやはり何か居るからなのかもしれない。迂闊に近付けないコナミはナタリーを守りながら慎重に警戒している。
「化け物だとよ、ダ・ハウ。お前の新人類が」
壁を擦り抜ける様に現れた布切れを着たお爺さんは頭がボコッと飛び出てその顔立ちは妖怪ぬらりひょんにも見える。更には腕も6本生えており全ての腕が足元までだらりと引き摺られている。
「コケケ。我が新人類が化け物?コケケ!分かっているではないか当然だ。あんな失敗作共は我が新人類の基盤作りでしかない。完成された新人類はクルサーノの崇拝する世界最強を意味するのだ。コケケコケコ」
不気味な笑い方をするダ・ハウの後ろに更に現れたのは黒スーツの身体にブラッディソウルのゴロツキ共の四肢や頭部をくっ付けてられ、更にはモンスターの腕がいくつもくっついたそれはもう人間ではない何かだった。
「嘘、そんな……おええ」
それを見てしまったナタリーは思わず吐き出してしまった。"それ"は意識があるのか無いのかブツブツと口元だけが動いている。あれを糸だけ切ったとしてもバラバラになってしまうだけだろう。もう救う事は、出来ない。
「コケケ。この実験は魔物と人間の融合だ。魂の融合には肉体の一部を形成する必要があるが素体の素質にも影響度合いは出る。だが魂を融合したとしてもお互いの素質を活かし切るのは困難だった。そこで我が天才的頭脳はより強固な素体を手に入れる事で、より強靭かつ最強の素質を組み合わせ最強の生物を誕生させる事を思いついたのだ!!このガラクタ共は我が道具に過ぎん。素質がある物の四肢や頭部であれば少しは使えるが、こんな贋作では使い物にならんわ。コケケ」
ダ・ハウは"それ"を蹴りつけると体制が崩れて倒れこんでしまった。幾本にも生えた腕が床を這いずり立ち上がろうとするが、身体の上部が大きすぎるせいか立ち上がる事すらままならない。
「私は魔王勇者パーシヴァルを崇拝しているのだよ」
ティーカップを静かに飲んでいたクルサーノは呟いた。魔王勇者パーシヴァルといえばかつてシガレットだった頃に撃ち滅ぼした当時の魔王の名前。
「魔王と勇者の融合体であり不滅の魔王。魔族を圧倒的に凌駕する力と勇者である頑強な魂が結びついて生まれた最強の生命体。かつて最強の勇者と呼ばれたシガレットですら、5人の力でやっと倒せた程だ。単体ではディバインズオーダー最強と呼んでもいい。」
クルサーノの言う通りあれは5人で無ければ撃てなかった。それ程に強力な相手だとは実際に戦ったコナミが一番理解している。
特にフィルスの秘剣・聖光斬が鍵となる凄まじい戦いだった。更には今だから言えるがシガレットが息子だったからこその動揺がパーシヴァルにもあったはずだ。正攻法に戦って勝てる相手ではない。それを見越しての神がシガレットをコナミに操らせた結果だ。
「魔王勇者パーシヴァルを自力で生み出そうってのか?馬鹿げた話だ。あれは――――」
つい言い出しかけてしまったがあれはアルテウスが誤って肉体と魂を合成してしまった結果だ。だがこれを話してしまえば神の存在を公にしてしまい、ウラノスに確実に処分されてしまう。
「あれはー、その、魔王パーシヴァルと勇者エンメイの最強の二人を組付けたからでお前の実験を何度繰り返しても上手くはいかない!いいから今すぐそんな実験を辞めて生きている人を解放しろ!!イヴはどこにいるんだ!!今すぐに返せ!!」
クルサーノはティーカップをそっと置くとふわっと立ち上がった。肩よりも長く垂れた髪の隙間からこちらを睨みつけている。
「イヴ・バレンタイン。かつての勇者パーティーで【霊剣】と呼ばれ恐れられた存在。素体とするには十分と言ってもいい素晴らしい人材だ。それを返せだと?この世界はシガレットという脅威に対抗出来ず多くの世界が滅んでいった。そのシガレットを唯一討った人物であるイヴを返せだと?この世界の鍵ともなり得る女を?ふざけるなよ小僧」
怒りのせいか髪が逆立っても見えるクルサーノは手をかざした瞬間、闇のマナが手のひらへと集約されていく。それを見たナタリーはコナミの前に立ち、風のマナを手に集め始めた。
「ダークペンデュラム」
「ウィンドスライサー!!」
二人から放たれたマナ量は同レベルなのか凄まじい音を出して相殺される。
「コナミ、行って。そしてみんなを助けて。クルサーノはウチが相手をする!!」
「忘神会のナタリー。あの時の拾われた生娘め。お前も心地の良いマナを吐き出すようになったな。実験材料にしてやる。ダ・ハウ!遠慮するな。アレを使え。今イヴを奪われるわけにはいかない!!」
「コケッ!待てクルサーノ!アレはまだ早い!!もう少しなのだ!!もう少しでイイ素体として生まれ変わ―――」
「いいから早くやれ!!!」
「どうなっても知らないぞ!!」
怒りに身を任せて放ったクルサーノの言葉に戸惑うダ・ハウだったが近くにあったレバーを両腕6本で引いた。すると鉄で出来ていた壁がドロドロと溶け始めて巨大な施設が広がった。
目の前にいる超巨大な生物がいる。足にはマナで出来た足枷が地面から伸びて動けなくしているが、その腕は止まることなく何かを口へと運んでいた。その光景はコナミにもナタリーにも信じ難く、ファウドがここに辿り着く前に死んで良かったと思う程だった。
「べリア……お前……」
獣の様に顔や身体中から白いフサフサした毛が生え、更には腕や足も一回り以上膨れ上がっていたがその顔や身長は間違いなくブラッディソウル当主のべリアだった。べリアはブラッディソウルや黒スーツの死体、そして異質な融合体を止める事無く口へと運び食らっていた。
「コケケ。べリアは素体として優秀過ぎた。だが所詮は素体。雑魚を相手しかしていない魂では経験値が足りなかった。この屈強な肉体なら凶悪な魔物の魂を中に宿す事も出来るだろうと試みたが成功だった。肉体に魔物の変化がすぐさま現れたが次第に止まり、今では完全な魔物と言える。この状態で肉体を更に強化した魔物へと変化させた後、イヴの魂を融合する事で我が作品は完成へと誘われる。だがしかし!!!肉体自体はまた作り直せるがイヴの様な戦闘経験豊富な強靭な精神は他にない。べリア!!餌だぞ!!さあ殺せ!!」
べリアはコナミを見たがその眼はもう人間ではなかった。圧倒的な獣。快楽で殺していたべリアのがずっとマシだと感じる。思考が食べる事に特化した肉食動物の眼だった。
「ウヴォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
先程洞窟内で聞こえた声と同じ咆哮を上げる。近くで聞くと耳が壊れてしまう程に強烈で頭の中まで響き出す。
パチン。
クルサーノが指を鳴らすと足枷が解けて直後にはべリアはコナミへと掴みかかる様に襲い掛かってきた。命を懸けた戦いが始まる――――。




