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83. 地獄の始まり

 コナミとナタリーの二人はブラッディソウルの本部へと足を運んだが、黒服から話で聞いた通り本当に誰一人として居なかった。争った形跡すら何も無くそのまま大脱走したかの様にもぬけの殻だった。


 「べリアが敗れた事で信用を失ってみんな出ていった、とかかな?」


 「べリアの傷を心配して一番初めに飛び出してきたのは幹部であるファウドだった。少なくともあいつは出ていかない」


 ファウドはこちらを一度も見ずべリアの傷を心配していた。あれだけ忠誠心に厚い男がそう簡単に出ていくとは思えない。


 隣にあるファウドの部屋は荒らされた形跡がないが、医療箱が入っていたであろう十字のマークが付いた戸棚は開いたままだった。きっと取りに来て閉めずに慌ててべリアの元へ急いだのだろう。


 鉄で出来た本部内も特に変わった様子はなかったが、大きなソファーは投げ飛ばされたまま昨日の状態を保っていた。コナミ達は地下闘技場の様子を見に暗い階段を降りていく。


 ぴちゃぴちゃ……。


 視界が暗い中で水の落ちる音が聞こえる。あれから水掃除でもしたのだろうか。足元も少しぬるぬるして気持ちが悪い。雑な掃除の仕方だ。


 ぴちゃぴちゃ……。


 長く続いた闘技場へ続く階段を降りると、全ての真実は想像を絶する形で取り残されていた。


 「なんだ……これは……!!!」


 そこには闘技場内全てを真っ赤に染めて埋め尽くす程の血飛沫が広がっていた。先程の階段で聞こえてきた水の音は全て血だったのだ。だが死体どころか臓物の一つまで落ちてはいない。


 「うぷっ……おええ……」


 ナタリーは異常な事態に思わず吐き出してしまった。今までの血に血を洗う戦いを重ねてきたコナミですらこの状況には顔を青ざめていた。


 更には壁や地面に多くの斬撃の跡が残されており、その傷は抉り取る程に深いものだった。ここまでの残痕を残せるのはイヴ並みに強力な剣士しか居ない。だが例えべリアと戦闘になったとしても人を殺すなんて事をイヴがするはずがないのは分かっていた。


 「これを……イヴが……?いやそんなはずはない。それより死体はどこに消えたっていうんだ」


 部屋中に血の臭いが充満しているが、腐敗臭や臓物の臭いなどは感じない。


 「おーい!誰かいないのか!生きているなら返事してくれ!!」

 「ヒッ!!」


 小さく声を出したのは闘技場にある西門の隅だった。二人は闘技場内に飛び降りてその先へ向かったが、声を出した男は慌てて逃げるせいか血で滑り転びながら怯えている。


 「やめろ!化け物め!俺は死にたくない!嫌だ!嫌だあああ!!」


 そこにいたのは血に染まったファウドだった。特に目立った傷は残されていなかった為、全て返り血と見ていい。


 「ファウド!落ち着け!俺だ、コナミだ!一体ここで何があったっていうんだ!!」


 「あ……あああ……!!みんな、みんな化け物に殺されちまった。べリアさんの治療をしていた時に奴らは来たんだ。そう、あれはネクロポリスの化け物だ。何匹もいた。戦ったさ、ああ!戦ったさ!でも、あれは無理だ……人間が勝てる相手じゃない……化け物……」


 「ネクロポリスだと!?」


 ファウドは尋常でない震え方をして顔は恐怖で歪んでいる。涙を流して冷や汗を流し涎が垂れ落ち、今までの威厳を全て失った情けない姿だ。それ程の化け物がいたということだ。


 「どんな奴だったんだ!!他のブラッディソウルのみんなはどこへ行った!!」


 「あああ、あいつは途中で現れた。赤い剣を両手に2本持った女……。あいつが通っただけで仲間が死んでいく……。べリアさんが目覚めて襲い掛かったが1秒と持たなかった……。俺は怖くてここに隠れていた。暗くてで分からなかったのか奴らは引き返していったが、死体の指一本すら残さず持って帰りやがった……!!頼む、もう静かにいさせてくれ……。俺は外に出たくない。怖い。嫌だ。俺は何も見ていない俺は何も見ていない俺は何も見ていない俺は何も見ていない俺は何も見ていない俺は何も見ていない俺は何も見ていない俺は何も見ていない」


 ブツブツと呟き始めたファウドの心は完全に折れて壊れてしまっていた。このままでは自殺し兼ねないと考えた二人はファウドを気絶させて忘神会へと運ぶ事にした。コナミが背負って運んだが、ファウドに付着した血の臭いで頭がクラクラする。


 「コナミには申し訳ないが本当にイヴかもしれない……。赤い剣を両手に2本。あの斬撃、そして話に聞く強さは【霊剣】でないと無理だと思う」


 「目で見るまでは信じちゃいないさ。それにイヴは人を殺したりなんかしない。俺はイヴを信じてるんだ」


 「…………」


 ナタリーはそれに対して言葉を出せなかった。コナミ自身も本心に迷いがあったが、仮にあの惨劇を起こしたとしても何か最もな理由があるはずだと信じているのは変わりない。


 「それにしてもこの出来過ぎたタイミングでの襲撃はべリアの負傷を見越しての事だとウチは思う」

 「だったらなんで俺たちが争い終わった直ぐを狙わなかったんだ?」

 「それは……分からない」


 疑問点が多すぎるが、恐らくナタリーの魔法力とコナミの再起動の能力だと考えていた。ナタリーはこう見えてもべリアには劣るがかなりの魔法の使い手だ。時間稼ぎさえ出来れば再起動でコナミは復活出来る。


 つまり襲撃に向かった人員では足りなかったのだろう。だがそれでも想像以上であったファウドの力で押された結果、"例の化け物"が途中で現れたと今は考えていい。


 つまり忘神会はナタリーとコナミが居れば問題ない。ナタリーとコナミが居れば……?


 「忘神会が危ない!!!【英雄】!!!」

 「えっ!?ちょ、コナミ!!?」


 ファウドを背負ったままナタリーを抱きかかえて全力疾走で忘神会へ急いだ。あの戦闘を見ていた事も、ナタリーやコナミの強さを計った事も計算に入れての襲撃は実に計画的だ。つまりここに二人が来る事を"見ている"のなら襲撃があってもおかしくない。


 先にブラッディソウルを襲ったのは人員を忘神会へ送る余裕が無かったからだ。結果的にファウドによって追い込まれる形となっていたから間違いない。どちらが勝つにしてもべリアとコナミが大きく負傷する。だから全勢力をブラッディソウルへ向けたに違いない。


 屋根の上を飛び越えてコナミは急いでいたが、忘神会の家から既に煙が上がっている。


 「うわああああ!!ウチの家が、ウチの家が!!!」

 「はぁはぁ……ナタリー急ぐぞ!!!」



――――――――――――――



 状況は最悪だった。


 燃え広がり続ける炎は忘神会の家を容赦なく燃やし続けた。更には家の周囲で警備していたはずの黒服達が居なくなっており、その周りには多くの血の跡が残っている。


 「嘘だあああ!!嫌、嫌ああああああああ!!!」

 「待て、ナタリー!!!」


 ナタリーは家の中に何も考えず突っ込んでいった。コナミもファウドを外に下ろして燃える室内へと入った。状況は最悪だ。何が起こってるっていうんだ。


 最奥の部屋前にある廊下で口を押えながら佇むナタリーがそこにいた。


 その先に見えたのは燃え広がる部屋の中、筋肉質な大男が左腕で黒服の首根っこを掴んでいる。更には右腕がカマキリの様な鋭利な腕になっており、それを黒服の腹に突き刺している。


 「ああ……あああ……」

 「お嬢様ぁ!!お逃げください!!ネクロポリスの連中がっ!がはっ!!」


 そのまま振り下ろされた鎌状の腕は腹部を切り裂いて夥しい血を流す。だがそれを回収するつもりなのか一切離すつもりはなく、ドシンドシンと音を立ててこちらへ向かってきた。


 「おいテメェ何やって―――」

 「ウチの家族を放せ。化け物がっ!!エアロスレイヤー!!」


 ナタリーは魔法を放つと突風が吹き荒れ、カマキリ状の腕を切り裂いた。黒服は腹部に突き刺さった腕を引き抜こうとしているがあの血の量では恐らく助かりそうにもない。ナタリーも駆け寄って手助けするが刀にも近い鋭利な刃は黒服の出血量をあげるだけだった。


 「どうすればいい!!どうすれば助けられる……!!ウチは、大切な家族を、誰も助けられない……」


 大男は腕が無くなったにも関わらず痛みが分からないのか平然としている。


 「我が主より頂いた腕が、腕を、腕に、何をする貴様!!!」


 喋り出した大男は猛烈な速度でナタリーへと突っ込んできた。コナミは瞬間移動で大男の首を持って薙ぎ倒した。


 怒りなのか、悲しみなのか、哀れみなのか。

 どういった感情が正しい理性かもコナミにはもう分からなかった。


 「言え!!ネクロポリスはどこにいるんだあ!!!」

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