82. 秘剣・神龍閃
コナミの能力は使えば使うだけ魂が擦り減る。
それは瞬間移動然り、マナを供給してもらう事然り、更には再起動時には大きく魂が削れる。最悪メンタルブレイクを起こし幾度となく雲の上での修行中に身体が言う事を利かなくなった事がある。
今すでに再起動を1回、技を2発、瞬間移動を2回行っている。波打つ怒りの衝動で魂が落ち着かない今、技の連発は不可能と言える。べリアを討つなら一撃に全てを込めるしかない。
少しずつ粉塵が収まりを見せて闘技場内が晴れてきた時、なぜ粉塵の中で正確にコナミを射撃してきたのかの理由が分かった。べリアを含む全員が謎のゴーグルを付けていたのだ。
「なるほど、熱で感知出来る云わばサーモグラフィーって訳か」
「はっ。それが分かった所で何も変わりゃしねぇしお前にゃ何も守れねぇ。弱者ってのはいつだってそうさ。ナタリーの父親もそうだった。弱いから俺に力を求めた結果、力に支配されたって訳だ。力は武力であり金であり人であり、そして何をも奪う権力だ。お前には何かを守る権利を持つ事すら許されてねぇのさ」
ギャハハハハ!!とゴロツキ共は笑い始め拳銃へ玉を込める準備をしている。もう一度反則技やるつもりだろうか。
ナタリーは涙を流しながらこっちを見ていた。あんなに顔がぐしゃぐしゃになるまで泣かれてしまっては帰った時に黒服の奴らに殺されてしまいそうだ。
「ふっ、言い訳考えないとな……」
「何を言っても終わりだ。サルボズ――――、!?」
拳を振り降ろす前に既にコナミは走り出していた。全力で地面に叩き付ける事で粉塵を巻き散らす時、コナミをわざわざ狙わず足元を殴っていた。これは万が一コナミへ攻撃して反撃をもらうのを嫌う為だ。砂煙を上げるだけなら攻撃をするフリをしても仕方ない。
それにさっきのトンファーの攻撃を避けた事でまだ避けられる可能性もある。それなら攻撃で最も有効だったサルボズパニックを発動する以外ないと読んだ。コナミは完全にべリアの懐へと位置付け出来た。
「はっ!近付いた所でお前の技は通りはしない!不意をついた雷の攻撃でさえ俺に切り傷を付けた程度だ!お前には俺を倒せない!」
「それはマナの供給量を抑えてたからな。だが一撃に賭けるって決めたんだ!!」
コナミは剣を真っ直ぐべリアの腹へと伸ばした。これはとある技を出す際に剣にマナを込める構えだった。
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「マナにも……得意不得意があって……その人の個人個人で……決まったりする……。フィルスはその中でも珍しい……聖属性……」
フィルスは世にも珍しい聖属性を得意としていた。全てを消し去る威力を持つ秘剣・聖光斬は聖属性、鍛え抜かれた肉体、振るう為の剣技、大容量のマナルテシス、そしてフィルスが持つ世界最強の大剣。
「俺は俺は!」
シガレットはメサイアにワクワクしながら聞いてみる。このMMOにはそういった個性の能力を診断する機能は付いておらず、上級魔法使いでありながらマナを見る事の出来る者しか判別出来なかった。
「シガレットは……不思議なの……。無属性って……いうのかな……。色が付いてない……でも雷の技を出せば……雷属性になるし……、臨機応変に技次第で……その特色を出す事が……出来ると思う……」
「すげぇじゃんシガレット!さすがは未来の英雄だな!」
「英雄はなるべくしてなる者なのかもしれませんね」
「さすがだな。シガレット」
みんなは各々シガレットを褒め称えた。こんなチート級の属性が合っていいのだろうか。
「つまり俺にも聖属性が使えるのか?」
「おいシガレット!俺の取柄まで取るつもりかー!」
「使えない……けど聖属性までは行かなくても……光属性なら……」
その後シガレットは多くの鍛錬を積んで修行をしたが、雷属性は技が早く、炎属性は熱による追加ダメージを狙える上に使用するマナの消費量も少なく抑えられた為、光属性の攻撃はあまりしなかった。
それに決めてとして光属性で攻撃するよりもフィルスの聖属性での威力の方が上だったので使う機会は多くは無かった。だがそれでもシガレットにとって最も威力の高い最強技は雷光抜刀撃などではなく光属性の攻撃だった。
それは――――。
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「秘剣・神龍閃!!!!!」
振り下ろした一撃は闘技場内全てを光で包み込み全ての人間の目を眩ませた。その一撃は秘剣・聖光斬をトレースして作った技であり、威力は劣るがレーザービームの様に突き抜ける閃光がべリアの身体を貫いた。光が収まった頃に見えたのは地に伏せて大量の血を流すべリアだった。
ピクリとも動かないべリアに会場は静寂としていた。コナミは呼吸が荒くなり座り込んで息を整え心頭滅却の準備をした。魂を抑える必要があるが眩暈と吐き気が酷く、口の中に血の味が広がっていく。だが能力を今解除してしまえば何かあった時にナタリーを守れない。
「おい、嘘だろ。べリアさん!おい!」
ファウドは試合会場に飛び降りてべリアの脈を確認したが、安堵の表情を見るに恐らくまだ生きているのだろう。ナタリーも急いで飛び降りてコナミに抱き着いた。身体中に走る激痛と柔らかなナタリーの身体に、コナミは集中力が完全に途切れて勝手に能力を解除してしまった。
「いででで!!!ナタリー!!!待ってくれ!!」
「コナミ!コナミ!生きててよかった!ありがとうありがとう。大好きだ、ウチの英雄!!」
能力を解除した事でマナの供給が切れてしまったコナミの痛みの尋常さは藻掻き苦しむ程に傷んだ。眩暈、吐き気、頭痛、そして折れた足や撃たれた傷のせいで今にも倒れてしまいそうだったがフラフラのまま立ち上がった。
「まだ終わってない。家に帰るまでが戦いなんだ」
「俺らのボスをよくもやってくれたな!!!」
「そうだそうだ!」「殺してやる!」「死ね!」
ファウドは銃口を天井に向け発砲するとゴロツキ共は一斉に静かになる。
「今まで一度だってべリアさんがこんなになるのを見た事がねぇ。お互いボロボロだ。明日べリアさんのいた本部の隣にある俺の部屋へ来い。2つ準備しといてやる。今日は帰れ」
ファウドはべリアの傷の深さから致命傷だと悟り、戦っている場合ではないと判断したのか素直に帰る様言われた。コナミ自身、魂を落ち着かせて能力を再起動しないとこのままでは出血多量で死んでしまう可能性もあった。
「……約束、守れよな」
「分かってる。手出しはしないしゴーグルは今日のうちに俺の机に置いておく。俺は強い奴が好きだし、お前の事も認めてるつもりだ。早く行け」
ファウドはこちらに目も暮れずべリアの様子を見ていた。ゴロツキ共もその様子を眺めている限りで手は出しては来なかった。べリアとファウドの尊厳と誇りを犯してはならないという判断だろう。力無き者は何も奪えない、確かにその通りだ。
「コナミ、お前は本当に英雄なのかもしれないな」
ファウドがボソッと言った言葉はどういう意図があったのかは分からない。ナタリーに背負われたままコナミは本部を後にした。
ブラッディソウルのゴロツキ共が全員キッチンへ集合したせいか街に人っ子一人おらず静かな街へ変わっていた。スタスタと小さな足音が街へ響く程静かで、夜の月が優しく街を照らしていた。
「コナミ、本当にありがと。ウチずっとね、英雄がどんな人なのか知りたかったの。もしここに来た時ウチを助けてくれるかなとか何度も妄想したりして、現実は当主だからみんなを助けるのはウチ。そんな事を何度も重ねて絶望してを繰り返してたそんな時にみんなが英雄が来たって話を聞いてね。飛び跳ねながら迎えに行ったよ。でも半信半疑だし、こんなウチの事を守ってくれるか分からなくて怖かった」
「自分の事をこんなとか言うな。もっと自分を好きになっていいんだ」
「そう……なのかな。ぐすっ。ウチはコナミが好きだー!あーん!!」
ナタリーはえんえんと泣きながらコナミ達は夜道を進んでいった。ナタリーは見た目通り大人にはなれていなかった。大人の手によって無理やり大人にさせられていたのだろう。見た目に反して大人着飾った姿を見てべリア達はあまりに滑稽できっと見るたびに笑っていただろう。
「あーん!!ぐす……あーん!!」
大声で子供の様に泣き叫ぶ。これがナタリーなのだ。
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「お嬢様!お前、何をした!!」
結局ナタリーが泣きながら帰ったせいで黒服は何かあったと思いコナミを責めたが、重症度合いが尋常でないと見た黒服は治療をしてくれた。医学にも精通している者も多く治療自体は上手にやってくれたのだが、治療結果は完治には半年近くかかると言われその夜に能力を使って治した。
「さすがは英雄殿ですね。あの怪我を次の日には完治とは。お見せ出来ない魔法の類だと存じ上げますがこれ程までの腕とは恐れ入りました。さて、お嬢様から話は聞いております。黒服を代表してお礼を申し上げます。本当にありがとうございました」
黒服は深々と頭を下げてその姿はナタリーへの真摯な愛を感じた。ナタリー守ると言っていたが黒服にもしっかりと愛されて守られているのだとコナミは実感した。
「この後のご予定も伺っておりましてブラッディソウルへ暗視ゴーグルなる物を取りに行くご予定だとか」
「ああ、そのつもりだよ」
黒服は顎に指を当てて雲行きの怪しい顔つきになった。
「実はですね、お手を煩わすまいと既に黒服の我々で取りに行ったのです。物自体は机の上に置いてあり回収は出来たのですが、しかしブラッディソウルはもぬけの殻。誰一人として居ませんでした」
「そんな馬鹿な!あれだけの人数がいるんだぞ」
べリアが重症だが治療できる人がおらず医者を探して協会都市ジンライムまで行ったのだろうか。仮にそうだったとしても、怪我をしていない100人以上いるゴロツキ共全員で行くなんて考えにくい。
「本当なのです。争った様な形跡はあったのですが、その、凄まじい程の斬撃の後でお見せするには……」
「コナミ!!」
襖を勢いよく開けたナタリーは急いで来たせいなのか息が荒れていた。
「落ち着いて、落ち着いて、聞いてくれよ」
「聞いたさナタリー。ブラッディソウルが消えたって―――」
「それだけじゃない!!その現場に落ちていた物があるんだ。これを見て欲しい」
ナタリーが見せた物は折れた剣だった。
赤黒く妖艶な色で美しい光り方をするその剣を誰もがこう呼ぶ。
「霊剣……?」
コナミの心臓はドクンと嫌な音を出す。




