81. べリア
戦いの鐘が鳴る。それ同時にべリアが突っ込んできたのに合わせてコナミも能力を発動する。
「はっ!すぐに死んでくれるなよ!」
「【英雄】!!」
大きく拳を振り被ったべリアの姿は巨大な熊でも相手取っているかと勘違いする迫力と威勢があった。だがコナミのヘイトを見る能力上、その拳がどういう方向で来るか経験によって予測が出来る為避ける事は造作もない。
しかしべリアが殴りつけてきた攻撃はズレた方向を指し示している様に見えた。違和感が拭い捨てられない。殴る方向を間違えた?何のために?いや、違う!これは――――!
「コナミ危ない!」
ナタリーの声に反応して普通よりも大きく飛び退いた。迷いなく振り下ろすべリアの拳は凄まじい音と砂煙を巻き散らして地面へと叩き込まれた。殴り付けた地面は拳の形では無くドラム缶で殴ったかの楕円形の形を帯びている。
「トンファーか……」
「はっ。上手に腕に隠しているってのによく分かったな。お前は攻撃するタイミングが見えるかの様に避けてきやがる。だがトンファーはその時次第でリーチが長かったり短かったり様々だ。一撃でも当たれば痛いじゃ済まないぜ?」
トンファーを腕の周りで回し始めると風を切る音が場内に響き渡る。そのままトンファーを地面に接触させると勢いよく砂がコナミへと飛んでくる。
「目くらましか!姑息な真似を!」
「はっ!半分正解だ」
砂だけかと思っていたがコナミの腕に何か鋭利な物が刺さる。更にそれは一箇所だけではなく腹や足にも何かが刺さり各所から血が噴き出す。
「ここは多くの餌を解体して放置し続け血や肉片以外にも堅い骨や歯も落ちている。もうお前の元に届いてるはずだぜ。亡者が地獄へと誘う手がなぁ!」
石は多少丸みを帯びているが骨は折れても鋭利な形をしたまま残る。攻撃を避けて隙を見てカウンターを狙おうとするとどうしても距離を取りたくなってしまう。しかし距離を取ると遠隔攻撃が来る。筋肉馬鹿かと思っていたコナミにとって頭の回る敵に思考が止まる。
「だったら近付いて斬る!」
「お前には近付く事すら許されてねぇ!」
コナミは身体全体にマナを巡らせて身体を硬質化させる。これなら多少の無茶な動きにも対応出来るはずだ。しかしべリアは大木の様に太い足で足払いをしてきた。それに対して空中に飛び退いたが既にトンファーはコナミを狙っていた。
「死ね」
コナミは瞬時に剣で受け止めたが空中の上にべリアの攻撃が途轍もない重さで受け止めきれなかった。そのままコナミは闘技場の壁面にひびが入る程の力で叩き付けられた。
「コナミーー!!」
遠くでナタリーが大きな声で叫んでいる声が聞こえる。闘技場自体が広いせいか想像以上に遠くまで吹き飛ばされていた。
「はっ。悲しいねぇ。誰かを守るだの、正義だの、英雄だの。力無き者には何一つ得られない。最後にゃ力が強い者が全てを支配していく。弱肉強食は世界の在り方であり、それは誰にも変えられない。お前なら分かるだろ、ナタリー?」
「………」
ナタリーは何も答えられなかった。最後は父を手にかけ結果的に"力"で捻じ伏せたのだから。
「暴力や金の"力"で解決出来る問題は世の理を意味する。だけどウチはそれ以外の方法で解決出来る方法があるって知ってるから……」
「そんなものはない。あるなら言ってみろ」
「人を想う"愛"だよ」
シーンと静まり返ったが途端に大爆笑が場内を埋め尽くした。べリアですらゲラゲラと笑いが止まらず地面をバンバンと殴っている。
「愛だと、ぶははは!!そうだな愛だな、くくく。いや思い出してしまったよ。信仰者が次々とこちらに流れて絶望するお前の父親と昔会った時に"なぜ信仰は容易く揺らいでしまうのか"と話された事がある。その時に"お前の娘が神を真に愛していない"とそう伝えたんだ」
「な、なんの話をしてる!嘘だ!!!信じないぞ!!!」
「嘘なんかじゃねぇさ。その後お前は父親からありとあらゆる暴力を受けて、神へと縋る様にさせたんだ。それもこれも俺からお前の父親にやり方を全て教えてやったんだぜ?その憎悪は間違いなくナタリーから父親に届く。そしてお前は父親を見事に殺してくれた!たった一言で組一つ潰させたのさ!!ま、お前が忘神会として組を復活したのは誤算だったがな。ははははは!!」
「最低だぜべリアさん!がははは!」「あの馬鹿親最後まで信じてやがった」
「親も親なら子も子だ!最後に笑うのはこのブラッディソウルだ!」
衝撃の事実に悔しさを抑えきれないナタリーは場内に進入しようとしたがファウド含む他のゴロツキ共が銃口を既に向けている。
「はっ。早まるんじゃねぇよナタリーお嬢さん。お前が入った時ここにいる全てがお前を殺しにかかり最後には忘神会は消えてなくなる事になるぜ。ま、コナミが起きなきゃどちらにせよ消えていく組だがな。ははははははは!!!!」
「ぐ、ぐうううう……」
ナタリーは歯を食いしばって我慢したが自然と涙はボロボロと零れ落ちた。誰にも向けられない怒りを拳を握りしめて堪えた。
「おい」
「はははははは!ん?」
ガラガラと崩れた壁面からコナミは立ち上がった。先程の一撃で致命傷を負い、内臓が弾け飛びほぼ全ての骨が折れていたが話している隙に能力を再起動する事で全て回復した。
「お前、俺の攻撃を直撃したのになんで生きて―――」
「ナタリーを泣かしてんじゃねぇよ」
バチバチとコナミの周囲からマナで出来た電流が流れる。それを見たべリアは初めて会った時に放たれた雷光抜刀撃の威力と速度を思い出して急いで拳を構えた。
「雷光抜刀撃」
轟音が鳴ったと思った時にはべリアは壁面に叩き付けられていた。まるで鋼の様な肉体に剣先が通る事はなく、連発したら腕が折れるか剣が折れるかのどちらが早いかの問題となるのは見えていた。
それでもコナミは冷静で居ながらも内なる怒りを抑える事は出来なかった。
「はっ!いいぞ!もっとだもっと!」
大したダメージを受けていないべリアはすかさず攻撃を繰り出したが、コナミは瞬間移動の能力を使いべリアの頭上へと移動していた。剣先は燃え広がり刀身は深紅へと染まっていく。
「紅蓮炎龍閃」
空中を斬ったコナミの剣先から放たれた龍にも見える炎はべリアの全体を燃やした。まるで巨大な火柱が立つ程の威力に場内の温度が急上昇する程だ。
「あっちぃ!」「なんだこの威力!」
「べリアさんやべぇんじゃねぇか!」
紅蓮炎龍閃はマナによる攻撃なので剣や腕を痛める心配はないが、炎を掻き消す様にべリアは顔を出した。至る所に火傷を負っているが顔のニヤけ具合から察するに元気な様子だ。
「やるじゃねぇか闇の使者。それがお前の神命だっていうなら、俺にはまだ届かねぇ!!本物の"武力"って物を教えてやる。サルボズパニック!!!」
べリアは全力で地面へ拳を打ち付けて砂煙が闘技場全体を包み込んだ。幾度となく打ち付けられた砂のせいか粉塵は細かく全く周囲が見えない。
ドドドドドドンドドドドンドン!!
幾度となく鳴る銃声は四方八方から聞こえてきてコナミへと襲い掛かった。しかもこの粉塵で何も見えないの中、正確にコナミを射撃してくる。コナミは全力で逃げ回るしかなかった。
「くそっ!!俺とナタリーが見えてないからって周りから撃ってきやがって反則じゃないか!」
「はっ。見えてなきゃそれは反則なんかじゃねぇ。それはどの競技の試合のルールも同じなんだよ」
粉塵の中から黒い巨大な影が出現しコナミを見えているかの様に攻撃を仕掛けてくる。剣で上手く弾いたがトンファーは左足に命中して鈍い音をあげながら骨が砕けた。
「足がイッたな!最後は勝てばいいんだよぉ、マヌケ!!あいつらが撃ってるかなんて俺には見えねぇからよぉ!!お前にも見えてないんじゃ分かるわけねぇよなぁ!!」
もう一度地面を叩いて砂を巻き散らしたべリアはまた見えなくなってしまった。銃弾の雨は止まる事なくコナミを狙いその一発がコナミの腹部へと命中する。
「ごふっ……!」
左足は重症の上に身体全身に鈍い痛みが現れる。魂が安定しなくなってきている。落ち着け、落ち着け。足を引きずりながらも逃げ回るコナミだったが銃弾が左肩に命中して倒れ込んだ。
「もういい!コナミ!もういいよ!ウチ、諦めるから!全部諦めるから!」
「ナタリー……」
「殺せ!!!」
ドドドドドドンドドドドンドン!!
銃弾の雨は一斉にコナミへと向かう。その瞬間瞬間移動を使ったコナミはべリアの背後を取った。まだ周りはコナミが突然消えた事に戸惑っている。
「ウチは父親によって汚されて、その父親を殺した手は汚れている。初めから綺麗じゃないの。それならべリアに何されたって変わらない。怖くなんかない!コナミが死ぬのがウチは、一番怖い。だから――――!!」
「勝手に……決めるな!!」
コナミは血が流れ落ちながらも踏ん張って立ち上がった。
「はっ。勝手に決めるなだと?全く本当にその通りだよなぁ。勝敗は目に見えているし、お前の死は揺るがない事実となる。それを今更命乞いなんて見っともねぇ。派手に散れ、英雄」
風を切る音と共にトンファーが振り下ろされる。しかしコナミの数センチ横にズレて当たる事は無かった。
「なにっ、こいつまだ動けるのか!」
コナミはボロボロの身体でボロボロと涙を流すメアリーを見た。
「俺が守るって言っただろ!勝手にお前の未来をお前が決めるな!!」
「コナミ……!」
英雄の能力の再発動には魂に負荷がかかり過ぎるせいで時間が必要。今敵対しているべリアを前にその時間稼ぎは出来ない。それに身体は重くなり心はべリアへの怒りでザワついてくる。
次の一撃に全てを賭ける!!!




