48. 告白
イヴが街を去ってから1ヶ月が過ぎていたが、アイリは未だ教会都市ジンライムからどこへ行く事も出来ずにいた。コナミも目が覚める事が無い上にレイテの保護無しでは呼吸すらままならなくなっていた。
街の人は鍛錬のお陰か幾人が冒険都市ビルダーズインへと旅立ち、冒険者としての道を歩む人もチラホラ現れた。魔道具の理論を元に魔法から魔道具には劣る"魔具"を作る職人も見かけるようになり、魔法都市プライベリウムから魔法使いを派遣する事もある。
街は変わっていく。
それなのにワタシは。
「なーに悲しそうな顔してるのー。可愛い顔が台無しだぞッ!ほれほれ~!」
頬っぺたをぐりぐりと触るナギアは元気付けようとしてくれていた。ナギアは槍の師範代としても冒険者としても名を上げ、冒険者ギルドの中継地を教会都市ジンライムに設けた。冒険者になればジンライムでもギルドから受注が出来るシステムだ。
ナギア自身も闇の使者と知っている人は多くは無いが、それでも街の為に大きな活躍を見せていた。
「ワタシ、どうすればいいのか分からなくて……。今まではコナミさんが手を引っ張ってくれていたから……」
ふ~、と鼻息を出すとナギアはアイリを引っ張り上げた。
「わわわ!何するデスか!」
「い~もの見せてあげる!アイリちゃんきっと喜ぶぞ~アハ!」
成す術無く持ち上げられたまま連れていかれた先にはモフモフの巨大な何かがそこにあった。これは初めてナギアと出会った時に乗っていたあの巨大な生き物。
「じゃーん!ロバートフットだよ!あの戦いの中でも生きてるのがいてアーシが見つけてこっちへ連れてきたんだ~!ねね、乗ってみたい?」
有無を言わさずアイリを掴んだままロバートフットの背中に飛び乗り、首輪を引っ張って歩き出した。アイリはナギアの前に座らされる。そこから見える景色は教会都市ジンライムの街並みを一望でき、近くに死の森ジグフォレストやずっと遠くに崩壊した要塞共和国の残骸が見える。
だがその明るい世界は今のアイリにはどうにも眩しくて目を細めた。
「どう?アイリちゃん、気持ちい?」
「…そうデスね」
気持ちばかりは明るくはならず暗い気持ちばかりが心に宿ってしまう。このままではいけないと分かっていながらも拭いきる事は出来なかった。
「アーシね、ジークがずっと傍にいてくれたから実質家族みたいなもんだったの。マジサイテーな事したって分かっててもそうなる前に話してくれたら良かったのに、って思っちゃうアーシもいる」
ロバートフットに揺られながらナギアは静かに話を続ける。
「上手く言えないけど多分コナミっちも何か抱えてるし、アイリちゃんも話せてない事いっぱいあると思うんだ。だからもし目が覚めたら全部話してあげて欲しいの」
その言葉にアイリはボロボロと涙を流した。
溜まっていた何かが切れてしまった様に感じる。
「ワタシ……コナミさんに話せていない事がいっぱいあって……嫌われて離れてしまうのが怖くて……嫌で……ぐすっ」
涙が止まらない。
話せずに後悔だけを引きずって心が擦れていく感覚が旅の途中ずっと感じていた。ナギアは優しく後ろから抱きしめて慰めてくれた。
「アーシも闇の使者だって隠してるし誰にだってそんな事あるよ。けど本当に大事な人の前での隠し事はアーシは良くないと思う。事実コナミっちの事信じて色々恥ずかしい事いっぱい喋っちゃったけど、全部受け入れてくれたしアーシ後悔してないよ。話聞いてくれた時のコナミっちマジカッコよかったなぁ」
「コナミさんは……いつだってカッコいいデス」
ナギアの言葉につい不貞腐れてしまい思いもよらない言葉を発してしまった。顔を真っ赤にして俯くアイリを見てナギアは笑いながら頭を撫でる。
「ひ、秘密デスからね!」
「はいはい♪」
「そうじゃなくて、それもですが……」
息が切れる。怖い。どこまで話していいのか。
首を傾げるナギアを見てモヤモヤした気持ちになったが、大きく深呼吸して心を落ち着かせた。
「実は、ワタシ、闇の使者かもしれないのデス」




