14話
ああ、やはりどこもかしこも崩れ落ちることが前提みたいになってるわね?
横でバルドは物珍しそうな顔をしたと思えば、棚にぶつかって舞い上がったホコリでむせているし、呑気なものね?
昨晩遅くまで訓練して、じんわりと力を発することが出来るようになったまではいいけど、どうも彼は完全には覚醒していないみたい。
やはり男性の『現実の子』は通常とは違うのかしら?
男性は生殖方法の関係から後世に多くの『現実の子』を残しまくってもらいたいし、だから生き残るすべだけはどうにか身に着けてもらいたいのだけど・・・。
それに、『生き残る覚悟』も、かしらね?
どうも彼はまだ甘い考えにどっぷりとつかっているのよね。
そう、今だに“今までに戻れる”と思っているみたいだけど、それは・・・。
工場の事務所を突っ切ると行動へ向かう為のエレベーターが見えたけど、その脇の壁が機材の支えを周りに配置されて切断されているのが見えた。
何年か前にこの跡地の残りかすについて調査した企業の仕業だという事は良く分かった。
でも、事務所の図面ではこの下のフロアはまだ半地下みたいなものらしい事も分かってていた。
何故なら下の遺跡に向かって進む洞窟をごちゃごちゃにして掘った坑道だから。
だからこのすぐ下のフロアにはまだ光がさしていたりしているらしい。
まあ、その経緯から少しずつ下に進むことになり、結果、大型エレベーターの類は一切使えない状態になったといわれているわね。
下手に一気に掘ると崩落の危険がありすぎて。
おかげでこちらは元の通路も使えずちまちま進むしかないのだけれど、途中途中に休憩所があるので少し楽なのが幸いかしら?
それにしても事務所の時も思っていたのが何故か重火器がちらほら転がっていることね?
まさか彼らも『夢』に出会ったか、襲われたのかしら?
『夢』には聞かないのだけど・・・。
「アーシア。」
横でいやそうな顔のバルドが腕をつかんで呼び掛けてきたので、いつもの様な無関心と思われる表情で振り返ったまま黙って見上げる。
「ここに入るのか?」
返事のない私に足元のはしごに視線を落としつつ訪ねてくる。
・・・大の男がここで怯えだしたのかしら?
まだ坑道に入ってもいないのに。
「そうよ。」
言いながら飛び降りる。
穴は基本1フロアごとになっている。
これも事務所資料より。
まあ、確認はして降りるようにとこの臆病な新米『現実の子』に入ってあるけど・・・。
多分来るであろう『夢』にパニック起こしたらどうなるのよ、こんなんで。
ともあれこの地下1階にある数フロア下までの発電機を起動しなくちゃならないわね?
場所は・・・。
「このフロアの1番端の格納室の隣に機械室があるわ。」
「何がだ?」
「発電機、よ?」
話してなかったかしら?まあいいわ、どうせこの調子じゃ作業どころじゃないし・・・。
「いいわ、貴方はここでそこのスイッチ見てて。発電機の電源点いたら連絡するから。」
「いや、別行動なのか?」
「うまくつくかテストよ。つかないんならその場で調べたいしその方が早いの。」
トランシーバーはありがたいわ。
彼のバイクの趣味の関係で積んであったみたいだけど。
言いながらトランシーバを振りながら歩き出す。
懐中電灯を使うこともないと思ったわ。
このフロアは崩れてしまったのか、最初からかは分からないけど光が所々にスポットライトの様に坑道内を照らしていた。
中々風情があるわね?
さて、この調子で道が続いていてくれるといいけど・・・。
何かしら?
何かがおかしいのよね?野生動物でも入り込んでいるのかしら?
まあ、天井の穴もなかなかの大きさもあるのだし可笑しなことではないのだけど・・・何か?
「これは、思っていたよりいいのかしら?」
突き当りに人工的な長方形の仮設建築が並び、その1つに『機械室』のプレートが掛かっているものがあるのを見つけて中に入ってみると、さびたそれが鎮座していた。
「動くのかしら?」
動かないと困るけど。
思いながら起動手順を操作していき、後は大きなレバーを倒すだけだとなった時、フッと嫌な感じが近くでした。
ああ、随分と早いじゃない?
この嫌な感じは『夢』じゃない?核のあるタイプだとありがたいんだけど、と思いながら踵を返す。
同時にかすかな悲鳴が聞こえて、バルドが後を追いかけてきて『夢』に襲われたかのかと舌打ちをしながらリボルバーを引き抜き構えるが走り出して数歩で違う声だと気付き、では何事かと速度を上げる。
他に誰かがいたにしても『現実の子』の気配は自分とバルドの分だけしか感じない。
すなわち、ここを目指したほかの『現実の子』ではないという事と、バルドが追いかけてきたのだと思ったのは声が男性の声だったからだ。
しかし、男性の『現実の子』は彼以外はおらず、バルドがかなりのイレギュラーだという事を考えると他は考えづらい。
ならなぜ『夢』の気配と男性の悲鳴がするのか?
「考えても駄目ね。」
見れば分かるわ。
結論はものすごい脳筋。
誰に似たのかしら?父も母も絶対違うから、もっと前の代にいたのかも?
そんな事を考えていたら少し横道にそれた坑道の光の中にしりもちをついて後ずさる男性らしき人物と、そのすぐ前に立つ『夢』が見えた。
良かった、他にはいないし何より格のあるタイプ。
十分対応できるわね?
唇が引きつり端が吊り上がる。
やっぱり親の仇だし、倒しておきたいのよね?
思うが先か、リボルバーを握る腕をあげながら若干走る速度を緩めて引き金引く。
同時に静かな坑道内に彼女のブーツのかかとが固い土を叩くひそかな音意外に轟音といっていい音が響き渡り、声なき断末魔があたりに飛び散る。
あっけないものね?
本当に、すべての『夢』に核がついていれば楽なのに・・・。
考えても仕方がないんだけど、ね。
さて今は・・・。
スポットライトの中で呆けたように座り込んだままの相手に視線をやりながらゆっくりと足を止める。
明るい茶色い短い髪の毛が見えるので、やはり『現実の子』の特徴とは違うと考えながら様子を見る。
その間も茶髪の男性は動かずにしりもちをつき、後ろに向かって手をついている。
生きてるとは思うんだけど・・・。
生きてるわよね?
ピクリとも動かずに『夢』のいた、しかし今はいない虚空に視線を縫い付けたまま動かないままで男性はいた。
腰でも抜かしているのかしら?
思いながら少し近づいてみる。
少しずつだ。
「・・・。」
男性の容姿が分かる程度に近づくとさらに観察してみる。
少し多めのさらさらとした茶髪に眼鏡をした穏やかそうな、バルドよりも若干年上であろう男性で、多分目の色も赤ではない。
黒か・・・それに近い色の様だと考えながら足を止める。
それでも動かない男性に「気でもふれたかしら?」などと思いながらも少し待つ。
しかし一向に動かないので流石に面倒になってしまい、ため息1つに口を開く。
「そこで何をしているの?」
こういう時はバルドでもいたら舐められないかもしれない、などと思いつつも、出来るだけ大人びた声で威圧感を加えて声を出す。
すると、相手の男性がびくっと動きこちらに向いた。
まあ、あんな明るいところにいるんだから、暗がりに立っている私を見つけにくいのは仕方ないとして・・・。
「・・・だ、誰ですか?」
バルド以上の臆病さんかしら?
「手をあげて頭の後ろで組みなさい?膝立ちになってね?」
出来るわよね?腰が抜けてできないなんて言われたらこのセリフ、ものすごくかっこ悪い。
考えている間も視線は男性に向けていたら、大丈夫だったようだ。
少しずつ近づく。
その様子に男性の声が少し震え度合いを上げながら響く。
「わ、私は・・・怪しい者じゃ、ありません・・・。」
「あら、こんな所に怪しい者じゃない人はこないと思うけど?」
だったら私も怪しいわ、と思いながら口を開くが、男性はそこに突っ込めないほどに緊張しているのか、「・・・それは・・・」とか呟きつつ舌や周りに視線を巡らせている。
「どなたかしら?」
あんまり刺激するとしゃべらなさそうなんだけど、らちがあかないし・・・。
そんな事を想いつつ、再び数歩近づいて話しかける。
そこで男性の震える肩が1度大きく震えて、ぴたりと止まった。
あら?何かしら?
怪訝に思いながらも眉を寄せていると、先程よりも落ち着いた声が放たれた。
「・・・貴方は、『現実の子』ですか?」
「貴方は何者かしら?」
リボルバーを音を立ててそちらに向けると1度ビクッとはしたものの、今度はこちらを向いて男性は静かに、言葉を選びながらしゃべりだす。
「私の名前は『デビット・シーズ』といいます。デビットです。職業は学者で、『現実の子』と『夢』について調べています。」
驚きを飲み込みながらリボルバーを向けたまますぐ前に立つ。
いつも通り感情を押し殺したまま。
「何故?」
短く言い放つと男性は顔を私に向けた。
緊張はしているが、恐怖はないという顔。
「私には『現実の子』の恋人がいます。・・・いました。」
被害者の・・・恋人?彼も『適正所持者』かしら?でも、あの『夢』は動かなかった・・・。
まさか・・・?
「・・・『干渉者』?」
「え?」
この世界のあちこちに『アーチ』は存在する。
ただ、その大半は地下にあるとされている。
そして現代、そんな遺跡が地下深くにあるなんて知らずにその上に色々と建築物が立ち並んでいるという事も多いとされる。
そんな建物がもし病院であった場合はある事が稀に起こるといわれている。
皆既日食や新月の夜のいくつか、何周期に1度に力が一時的に噴き出すのだ。
その夜にその病院で生まれた子供がいた場合は、『夢』に関する能力を持って生まれてくることがあるとされている。
私の父は『適正所持者』といって、『夢』や『現実の子』の死亡により起きる世界の変化を認識できる力を持っている人だった。
だから母は自害だったけど、やはり覚えていられた。
老衰での自然死以外では、基本的に死亡した『現実の子』も人の記憶には残らないから。
そもそもそんな一生を送って逝ける『現実の子』はほとんどいないのだけど。
だから自害でも人の記憶には残らない。
でも、父は覚えていて私を育てていてくれた。
そういえばバルドの父親も彼の母親の事だけは覚えていたらしいから、恐らくは『適正所持者』だったのかもしれない。彼らは新月の夜にそういった場所で生まれてくるのでそれなりの人数がいるとされている。
でも、多分目の前の彼―――デビットは違う。
恐らく『干渉者』のほうね?
この“残り香”は・・・。
『干渉者』とは皆既日食にタイミングよくしっかり力を受けて生まれてきた子供がなる事が多いとされている。
このタイミングが難しい為『適正所持者』よりもはるかに数が劣るとされるけど、いるにはいると父は言っていた。
だけど・・・。
「・・・あの。」
不安そうな顔が見上げている。
「あら、ごめんなさい?」
リボルバーを下げて1歩下がる。
同時に考えた。彼が、バルドと同行してくれたらどうかと。
もちろん、『干渉者』は遺伝性ではない。
ただし、“ある特性”がある。
それは、故意には使用できないが、ある程度は『夢』を遠ざけるという力だ。
何故だか、『干渉者』には『夢』への認識力と、退ける力が備わっているのだ。
彼がバルドに同行してくれれば、『現実の子』を増やしつつ生きながらえさせられるのではないか?
「・・・。」
無言の値踏みは流石にどうかと思うけど、未来が掛かっているのだ。
どうにかならないだろうか?
「・・・貴方は、何の為に『夢』を調べるの?かたき討ちかしら?」
恋人を殺されてるのよね?
暗にそう瞳を細めると彼は俯きながら頭を揺らす。
「協力です・・・。」
「協力、とは何?」
「恋人は『現実の子』で、少し目を離した間に『夢』に・・・。でも、どうしたって数少ない『現実の子』での単身の旅では敵が多すぎるのに足して戦力不足です。だから、彼女がいつもしてくれていた、それまでの人生について聞いていて思ったのです。『夢』に狙われることの無い協力者がサポートにつけば、彼女たちの生存率も上がるのではないかと。だから・・・!」
なるほど、これなら。
無関心を装うその下で考える。
もしかしたら、と。




