12話
お久しぶりです。
遅れてすみません。
始まります。
小さい頃、俺には母がいた。
いや、違うな。
小さい頃には″まだ″母がいたんだ。
でも、いなくなった。
何故だか原因が分からないのだ。
離婚はしてないはずだ。
親父は事故でなくなる時も指輪をしていたから。
ならば病気か、事故か?
いや、それ以前に死んでいたとしても、葬式をした記憶がない。
だからだろうか?
母はまだ生きているのではないかと思うのだ。
「もう死んでるわよ。誰も覚えてないんでしょう?」
頭の上から冷淡な、細いくせにやけに頭に残る声が言う。
誰も覚えてない。
そうなんだ。
実際、親父と俺以外は誰も、俺の母の事は覚えていなかったんだ。
母と仲の良かった父方の叔母も、誰も。
何故、覚えていないのだろうか?
確かにいたのに、初めからいなかったかの様に誰も母の事を口にしなくなった。
幼い日の記憶が、母がいたように見せていただけでもしかしたら自分は孤児で、妻を亡くした父に引き取られただけの子供なのかもしれないと思った。
でも、父はいつも言っていた。
”お前の母さんはずいぶん美人だったぞ?真っすぐな長くて黒い髪に色白で。お前の髪も目もきっと母さんゆずりだ”と。
いつもそう言って笑っていた。
「そうでしょうね。きっとその人は”干渉者”か”適正所持者”だったんでしょうね?」
親父は死ぬ間際にもそう言って笑い、母を思い出して口を開いていた。
そして俺はいつも問うんだ。
”母さんは誰なんだ?”と。
「多分貴方や私と同じ”現実の子”だったんじゃない?だからあなたも”現実の子”なのよ。」
何を言われても分からない。
母さんがいなくなった頃には不吉な話があったから誰もが忘れたがっているだけなのかもしれない。
確か・・・。
「小さな国が1つ、跡形もなく消えたのよね?」
俺の年齢を逆算していくと、その年にある小さな国が”なかった事”になった。
親父が母さんが死んだからその国が消えた事と言っていた。
俺は、何のことか分からなかった。
「ちょっと、寝ぼけてないで起きなさい?」
「グハッ!」
やばい声が出た。
腹に重いものが降ってきたせいだと飛び起きて、その重いものを落とした、さっきからしていた声の主に目を剥いた。
「カッハッ・・・!い、一体、何を・・・!?」
息をしようとむせるのをこらえながらアーシアの方に落とされたものを転がす。
その様子に呆れたように頭を振りながら少女は栗を開く。
「いつまで寝言をほざいてるつもりかしら?さっきから起きるように言ってるのに、マザコンなの?」
「マザコン・・・?」
「母親が死んだことや、父親の話をずっと呟きまくってるんだもの。ていうか貴方が”現実の子”なんだから母親も”現実の子”に決まってるでしょ?何より母親が死んで国が消えたのならそうに決まってるでしょうに。」
「・・・?いや、国が消えるわけがないだろう?」
国なんてものが、いくら小さな国でも国民がいるのだから、そんな事になればニュースになるはずだ。
「顔に出すぎ。」
「・・・あ?。」
「今、国がなくなったら大ごとだとか考えたでしょ?別に大ごとにならないわよ。」
そんな馬鹿なと歩き出したアーシアについてテントの前の焚き木に歩き出す。
置いてあった岩に腰かけたアーシアは火にかけてあるお湯をティーパックの入ったカップに注ぎ手渡してくるので受け取ると自信のカップにも湯を注いで両手で覆うようにして持ち膝に置いた。
「貴方に会った時私、言ったわよね?私や味方の”現実の子”が目の前で死んだとしても、連れて行ける仲間を連れてとにかく逃げろって?」
「ああ。」
実際は助けに戻ると思うが。
「助けに来るんじゃないわよ?」
また読まれた・・・。
「これがそういう事よ。」
お茶に口を付けて目を細めるアーシア。
一体どういう事かと俺もカップに口を付け、下に程よい苦みとが広がるのを味わう。
「私たち”現実の子”は1人1人がその力に応じて”対となる場所”があるの。そしてその場所は、”夢に”その担当する”現実の子”が殺されると元からなかったかのように消えてしまう。」
「・・・元から?」
母が死んだ年に小さな国が消えた。
誰も覚えていなかった。
アレの事か?
じゃあ・・・。
「貴方の母親は死んでる。ちなみに”夢に”殺されないならばセーフ。基本的には殺される時には一気に殺されるけど・・・、もし隙があれば自害する者もいるわ。自殺なら、担当した地域は助かって、新しい”現実の子”に引き継がれるから。」
最悪の場合だけど・・・。
苦々しい声が無表情の少女のカップに隠れた口から聞こえる。
それを俺は言い返すことも出来ずに、しばらく見つめて、しばらくして手元のカップに移した。
燃える焚き木の穂脳が揺らめいている。
アーシアがさっき話した事の通りなら、お袋はもう本当に死んでいるのだろう。
そして、俺は何が何でも生きているべきなのだ。
アーシアの母親も死んだが、最後は結局自害だったそうだ。
”夢”に殺されるくらいなら自分で幕を引いた方がましだとアーシアは言った。
何でも”夢”に殺されると、死んだ後もひどい目に合うらしい。
そんなのは確かにごめんだと俺だって思う。
死んだらそこまでで苦しいのも終わってほしいに決まっているし、その為に世界のどこかが消えるのも忍びない。
自分も苦しくなくて、世界の負担にもならないなら確かにそれが一番いいのだと思う。
それでも出来ない者もいるとも言う。
何故だと聞けば、わずかに生き残れる可能性に希望を見るのだという。
アーシアは、確実な方をとるべきなのだと苦い顔で言っていたが、それを聞くとなら俺もと思ってしまった。
そんな俺を見て彼女は怒るでもなく、呆れるでもなくあいまいに眉を寄せてテントに引っ込んでいってしまった。
「・・・死にたくは、ないよな。」
誰もが思う事だ。
死にたくはないんだ。
―――死んではいけない。―――
「・・・!?」
頭に響く、重い声。
慌てて立ち上がりあたりを見回すが、周りは風邪の舞う寂しい森の中だ。
気のせいか?
―――君たちが”夢”を、”彼”の一部を退けてくれ。―――
「・・・。」
今度は静かにその声を聴く。
何だ?
”夢”?”彼”?
一体何の話だ?
それ以前に、今の声は誰だ?
何処からしたんだ?
頭を振り空を見上げる。
済んだ寒空に満天の星が頭上を飾っている。
「・・・幻聴・・・なのか?」
何とか絞り出される地震の声が他人のものに感じて、背筋に冷たい指でなぞられたような感覚が広がる。
1度目を閉じて深呼吸をする。
森の匂いが肺いっぱいに広がるのを感じる。
―――”彼”の一部、”夢”を退けてくれ!―――
いきなり頭をかち割るような大音量と痛みを伴う声が脳みそに流れ込み、息を詰まらせながら目をめいいっぱい開く。
「・・・!?」
声が出ない!
だがそんな事よりも驚くのは周りの風景だ。
俺は確かに森の少し開けた広場でテントを張っていたはずだ。
しかし、暗くはあるが淀んだどこかだった。
ここは・・・宇宙?
そこに浮かぶ対となる巨大な物体。
触手が絡まって出来た固まり。
―――始まりの時。―――
声が今度は最初の調子で響く。
―――”四魂”。少女。少年達。始まりの次の始まり・・・。―――
何を言っているのか分からない。
しかし、目の前には銀の髪に右目が赤い少女と3人の少年が立っているのが分かる。
少女は銀色の弓を手にしていて・・・。
―――古の物語。でも、本当はもっと前から続いていた。―――
何の事だか全くわからない。
ただ分かるのは、これが過去の出来事で、俺たちに関係のあることなのだということだった。
―――”朱片”を、”竜刻印”に届けてくれ。―――
”朱片”というのがなぜか”夢”を倒したら手に入るのだと、頭に流れ込む。
同時に朱い欠片が脳裏に浮かび、俺は意識を手放した。
―――頼む、”現実の子”よ―――
最後に光の大きな翼と黒い鎧が視界を横切っていった。
”何か”が接触してきました。
多分他の前夜祭でも出てきている人なのですが・・・。
他の前夜祭で出てきている単語もちらほらしていますが、本編待ちです。
よろしくお願いいたします。




