第39話 弟子としての出発
少し前......王宮の大広間は静まり返っていた。
高い天井。
整然と並ぶ柱。
そして。
中央に設けられた席。
そこに。
この国の王族が座っていた。
以前、疫病対応の場で何度か顔を合わせた人物。
この国の政務を預かる者。
その前に。
俺たちは立っていた。
俺。
エレイン。
レオン。
そして。
セリア。
⸻
「報告は受けている」
王族が言った。
静かな声だった。
だが。
場を支配する声だった。
「疫病は終息死者は最小限に抑えられた」
一拍。
「見事だった」
短い。
だが。
十分だった。
⸻
「本日は」
王族が続ける。
「一つ、確認したいことがある」
視線が。
セリアへ向いた。
「セリア」
名を呼ばれた瞬間。
彼女は一歩前に出た。
背筋は真っ直ぐだった。
迷いはない。
⸻
「あなたが」
王族は言う。
「この者に従い国外へ同行するという話は」
一拍。
「事実か」
「はい」
セリアは即答した。
声は、はっきりしていた。
「私は」
続ける。
「この方の医療を学びたいと考えております」
「そして」
一拍。
「それは、この国にとっても利益になると判断しました」
場が、わずかにざわめく。
だが。
誰も反対はしない。
それほどまでに。
今回の疫病の結果は、大きかった。
⸻
王族は。
しばらく黙っていた。
完全な沈黙。
試されている。
そう感じた。
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「……理由を聞こう」
王族が言った。
「なぜ、そこまでして学びたい」
セリアは。
迷わなかった。
「私は」
一拍。
「薬を学びました」
「この国でも、最上位の教育を受けました」
「ですが」
声が、少しだけ低くなる。
「今回の疫病で私は、何もできなかった」
沈黙。
それは。
重かった。
⸻
「この方は」
セリアが続ける。
「原因を見抜き、流れを止め国を救いました」
一拍。
「それは、偶然ではありません」
はっきりと言った。
「知識と技術と判断の結果です」
そして。
最後に。
「私は」
小さく。
だが、確かに言った。
「その医療を、この国に持ち帰りたい」
⸻
沈黙。
完全な沈黙。
誰も動かない。
そして。
王族が、ゆっくりと言った。
「……よかろう」
短い言葉だった。
だが、すべてが決まった。
⸻
「セリア」
王族は言う。
「あなたに、正式に命じる」
一拍。
「この者に同行し医療を学べ。そして」
声が、わずかに強くなる。
「必ず、この国に持ち帰れ」
「はい」
セリアが答えた。
その声には。
揺らぎがなかった。
⸻
王族は、次に俺を見る。
真っ直ぐに。
「あなたにも」
静かに言う。
「改めて礼を述べたい」
一拍。
「恩に着る」
それは。
あの日と同じ言葉だった。
だが意味は、さらに重かった。
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「そして」
王族は続ける。
「セリアを預ける」
短く言う。
「この国の未来の一部だ」
それは。
信頼だった。
完全な。
信頼だった。
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「……承知しました」
俺は答えた。
短く。
それだけだった。
だが。
それで十分だった。
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王宮を出たあと。
セリアが、小さく息を吐いた。
「……思ったより」
一拍。
「緊張しました」
レオンが笑った。
「顔、全然変わってませんでしたけどね」
「内心です」
セリアが小さく言う。
少しだけ。
柔らかい顔だった。
⸻
「これで」
エレインが言った。
「正式に決まりましたね」
「ええ」
俺は頷いた。
これで。
すべて整った。
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「先生」
セリアが言った。
少しだけ、真剣な顔で。
「改めて」
一拍。
「よろしくお願いします」
その言葉は。
もう。
迷いのないものだった。
完全に。
弟子の顔だった。




