第33話 変わり始めた数字
昨日は投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。
本日よりまた、毎日18:00投稿しますので今後もお付き合いいただけたら幸いです、、!
水の煮沸命令が出てから三日が経った。
王宮の一室。
簡易治療区画には、相変わらず患者が運び込まれていた。
だが。
「……減っていますね」
セリアが、低く言った。
机の上には、紙が並んでいる。
発症数。
死亡数。
回復数。
すべて、記録されていた。
「ええ」
俺は答える。
「明らかに、減っています」
セリアが、紙をもう一枚めくる。
「昨日の死亡者数は、四名」
一拍。
「その前は、十一名」
数字が語っていた。
「差が出始めました」
俺は言った。
「効果が出ています」
セリアは、しばらく紙を見つめていた。
その表情は。
驚きでも、疑いでもない。
理解だった。
「……本当に」
小さく言う。
「水だった」
「ええ」
俺は頷いた。
「水です」
⸻
その時。
扉が勢いよく開いた。
「先生!」
レオンだった。
息を切らしている。
「来ましたか」
「はい!」
声が少し震えていた。
「昨日の患者です!」
「意識が戻りました!」
空気が、一瞬止まった。
セリアが立ち上がる。
「案内してください」
「はい!」
⸻
寝台のある部屋。
そこには、一人の少年が横たわっていた。
昨日まで。
重度の脱水。
意識不明。
ほぼ助からないと、判断されていた患者だった。
だが。
「……目を開けている」
セリアが呟く。
少年の視線が、ゆっくりと動く。
焦点が合う。
そして。
「……母さん」
かすれた声。
それでも。
はっきりした言葉だった。
背後で、女性が泣き崩れる。
「生きてる……!」
声が震えている。
「生きてる……!」
その声が、部屋の空気を変えた。
完全に。
変えた。
⸻
「脈、安定しています」
レオンが言う。
手元の確認も、もう慣れていた。
「脱水も、かなり改善しています」
「ええ」
俺は頷いた。
「このまま、同じ処置を続ければ回復します」
セリアが、ゆっくりと少年を見る。
その視線は。
さっきまでとは違っていた。
「……助かった」
小さく呟く。
それは。
医師としての声だった。
完全に。
同じ側の人間の声だった。
⸻
部屋を出たあと。
セリアが、立ち止まった。
「……悔しいですね」
突然だった。
「何がですか」
「私たちは」
一拍。
「ずっと薬を調合していました、新しい薬を探して、新しい治療を考えて」
その声には。
悔しさがあった。
本物の。
「でも」
小さく息を吐く。
「答えは、水だった」
沈黙。
俺は短く答えた。
「無駄ではありません」
セリアがこちらを見る。
「どうして」
「あなたたちが薬を作ってきたから、ここまで患者を支えられた」
一拍。
「どちらも必要です」
セリアは、何も言わなかった。
ただ。
少しだけ、目を伏せた。
そして。
小さく笑った。
「……本当に」
「ずるい人ですね」
「そうですか」
「ええ」
一拍。
「でも」
視線が合う。
「信じられます」
その言葉は。
完全な信頼の一歩手前だった。
⸻
その日の夜。
王都の空気は、少し変わっていた。
鍋の数が増えている。
水を煮る火が、あちこちで灯っていた。
疑いながら。
それでも。
続けている。
「……見てください」
レオンが言う。
通りの先。
そこでは、老人が鍋を見張っていた。
真剣な顔で。
火を絶やさないように。
「変わってきています」
「ええ」
俺は頷いた。
「少しずつ」
⸻
数字が、変わる。
空気が、変わる。
そして。
人の意識が、変わる。
それが。
本当の意味での治療だった。




