第32話 止めるという決断
「次は、止めます」
そう言った瞬間。
部屋の空気が少し変わった。
セリアがこちらを見る。
「止める、というのは水の使用を制限します」
俺は答えた。
「少なくとも、飲用水はすべて煮沸させる。それから」
一拍。
「排水の流れを変える」
セリアの眉が、わずかに動く。
「……それは」
言葉を選んでいる。
「簡単な話ではありません」
「ええ」
俺は頷く。
「しかし、やる必要があります」
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王宮の一室。
アルヴェリア王国の王族――先ほどの男が、再び姿を現していた。
「水の使用を制限する、だと」
低く問う。
怒ってはいない。
だが、驚いている。
「はい」
俺は答える。
「この病は、水を通して広がっています。止めるには、水の流れを変えるしかありません」
男は腕を組む。
考えている。
本気で。
「……民が反発する」
当然の指摘だった。
「水は生活の中心だ、突然制限すれば、混乱が起きる」
「ええ」
俺は頷く。
「ですが」
一拍。
「このままでは、もっと死にます」
沈黙。
重い空気。
誰も口を開かなかった。
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「……どれくらい死ぬ」
王族が聞く。
率直だった。
「対策を取らなければ」
俺は言った。
「数万人規模になります」
空気が凍った。
セリアも、わずかに息を止めていた。
レオンが拳を握る。
ルカは、珍しく無言だった。
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「……分かった」
王族が言った。
短く。
だが、重い一言だった。
「やる」
全員の視線が集まる。
「水の使用を制限する。必要なら、強制する」
一拍。
「責任は、私が取る」
その言葉は。
命令ではなかった。
覚悟だった。
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セリアが、ゆっくりと息を吐く。
「……決まりましたね」
「ええ」
俺は頷いた。
「では、動きます」
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その日の夕方。
王都の中央広場。
兵が並ぶ。
民が集まる。
ざわめきが広がっていた。
「何が起きてるんだ」
「水を使うなって、本当か?」
混乱は、すでに始まっていた。
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王族が前に出る。
高い位置に立つ。
そして、声を張った。
「聞け」
一言で、空気が止まる。
「この病は、水によって広がっている」
ざわめき。
「今日から、すべての飲み水は煮沸する。井戸水は、そのまま飲むな。違反した場合、罰を与える」
怒号が上がる。
「そんな馬鹿な!」
「水が原因なわけない!」
当然だった。
信じられる話ではない。
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「静まれ!」
兵が叫ぶ。
ざわめきが、少しだけ収まる。
王族が続ける。
「この判断は」
一拍。
「この国を救うためのものだ」
その目は、揺れていなかった。
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その様子を、俺は後方から見ていた。
セリアが隣に立つ。
「……大きく出ましたね」
「ええ」
「失敗すれば、責任はすべて王族に向かいます」
「分かっています」
俺は答えた。
「大丈夫、失敗しません」
セリアがこちらを見る。
一瞬。
少しだけ、表情が緩んだ。
「……本当に」
小さく言う。
「あなたは、恐ろしい人ですね」
「そうですか」
「ええ」
一拍。
「でも」
視線が外れる。
「嫌いではありません」
ほんの一瞬だった。
だが。
確かに、柔らかい声だった。
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夜。
王都のあちこちで火が灯る。
鍋が並ぶ。
水を煮る。
人々が戸惑いながら、それを見つめていた。
疑いながら。
不安になりながら。
それでも。
やっている。
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最初の一歩は、踏み出された。
あとは。
時間との戦いだ。




