チャッピーによる天才パンダのエッセイの目録? 9話 脳科学
チャッピーによる天才パンダのエッセイの目録? 9話
本エッセイの解読 第9話
認知症。運動でどこまで変わるのか?
今回は認知症です。
私は以前から、
「高齢者って、運動させたらかなり変わるんじゃないの?」
と考えていました。
足を動かす。
歩く。
筋肉を使う。
心拍数を少し上げる。
身体を使う。
それだけでも、
ぼーっとしていた人が少ししっかりしたり、
動けなかった人が動きやすくなったり、
生活全体が変化する可能性があるんじゃないか。
では。
認知症や認知機能低下に、
運動は本当に関係するのでしょうか?
今回調べてみました。
結論から言います。
あります。
かなりあります。
ただし。
今回も最初に、
ものすごく重要な注意があります。
【運動すれば認知症が治る】
とは言えません。
ここを一緒にしてはいけません。
認知症と言っても、
実際にはいくつもの段階があります。
まだ認知機能に大きな問題のない人。
少し認知機能が落ちてきた人。
MCI。
軽度認知障害と呼ばれる状態。
そして、
すでに認知症を発症している人。
さらに認知症にも、
アルツハイマー病。
血管性認知症。
レビー小体型認知症。
その他いろいろあります。
これを全部、
「認知症」
という一言でまとめて、
「運動が効く」
と言ったら雑すぎます。
だから今回は、
分けて見ます。
まず、
【認知症になる前】
です。
2026年7月。
WHOは、
認知機能低下と認知症のリスクを減らすためのガイドラインを、
第2版へ更新しました。
2026年です。
かなり新しい。
WHOは現在、
認知症リスクのうち最大45%ほどが、
修正可能なリスク要因と関係するとしています。
その中には、
身体活動不足。
喫煙。
有害な飲酒。
社会的孤立。
高血圧。
糖尿病。
高コレステロール。
大気汚染などが含まれています。
そしてWHOは、
身体活動を増やすことも、
認知症リスク低減のための対策として挙げています。 (世界保健機関)
つまり。
「年を取ったら、頭の問題だから脳トレだけすればいい」
ではない。
身体を動かすことも、
認知症予防を考える上で、
普通に研究対象になっています。
実はこれは、
2019年のWHOガイドラインでもすでに書かれていました。
当時WHOは、
認知機能が正常な成人について、
認知機能低下のリスクを減らすために身体活動を推奨。
さらに、
MCIの人についても、
認知機能低下のリスクを減らすため、
身体活動を推奨してもよい、
としていました。
ただし、
正常な人についてはエビデンスの質が「中等度」。
MCIについては「低い」。
同じ運動でも、
証拠の強さには差がありました。 (Iris)
ここが科学の面白いところです。
「運動は身体にいいから認知症にもいいでしょう」
で終わらせない。
どの段階の人に?
何を?
何分?
週何回?
何か月?
本当に認知機能が変化した?
そこまで調べる。
そして研究は、
その後かなり増えています。
2024年。
MCIの人を対象にした、
複数種類の運動を組み合わせる研究について、
システマティックレビューとメタ解析が発表されました。
ここでいう複合運動は、
単純に歩くだけではありません。
有酸素運動。
筋力や身体機能を使う運動。
バランス。
その他の運動。
そういったものを組み合わせます。
その結果、
全般的な認知機能。
認知的柔軟性。
処理速度。
言語流暢性。
注意。
記憶。
複数の領域で、
良い影響が示されました。
特に、
心肺機能を使う運動と身体運動を組み合わせたものが、
全般的認知機能の改善と関連していました。
ただし研究者自身も、
最適な頻度や強度については、
さらに研究が必要だとしています。 (PubMed)
同じ2024年。
42本の研究。
合計2,832人を含めたネットワークメタ解析も出ています。
この研究では、
MCIの人に対して、
複合運動が全般的認知機能や実行機能の改善に有望という結果が出ました。
研究上は、
30分程度。
週3~4回。
12~24週間。
中等度程度の運動で、
比較的大きな効果が見られたと分析されています。
ただし。
これは、
「30分やれば必ず治る」
という意味ではありません。
複数の研究を統計的にまとめた結果、
このあたりの条件で良い効果が見えやすかった、
という話です。 (PubMed)
あれ?
ここで私はちょっと思う。
週3~4回。
30分。
そんなにものすごい量ではない。
毎日5時間走れ、
なんて話じゃない。
高齢者でも、
条件を調整すれば現実的にできる範囲です。
そして2025年。
かなり大きな研究の結果が出ています。
EXERT試験。
正式には、
Exercise in Adults with Mild Memory Problems。
記憶に問題のある高齢者を対象にした運動研究です。
参加者は296人。
全員、
健忘型MCIを持つ、
それまで運動習慣の少なかった高齢者でした。
二つのグループに分けました。
一方は、
中~高強度の有酸素運動。
もう一方は、
低強度のストレッチ、
バランス、
関節運動。
期間は18か月。
最初の12か月は、
運動指導を受けながら行っています。
さて。
有酸素運動をガンガンやった方が、
圧勝したのでしょうか?
しませんでした。
認知機能について、
二つの運動群の間に明確な差はありませんでした。
ここだけ読んだら、
「なんだ。運動意味ないじゃん」
と思うでしょう。
ところが、
面白いことがあります。
どちらの運動群も、
最初の12か月で平均的な認知機能の低下が見られなかったのです。
さらに、
海馬の体積減少も比較的小さかった。
研究者側は、
強い有酸素運動と、
軽いストレッチ・バランス運動との間には差を見つけられなかった。
でも、
両方とも予想より安定していた。
という結果になりました。 (PubMed)
さらに研究者は、
EXERTの参加者を、
別のアルツハイマー病研究で通常の生活をしていた似た条件の人たちと比較する解析もしています。
すると、
強い運動群だけでなく、
軽い運動群でも、
12か月間の認知機能低下が少ないという結果が出ました。 (PubMed)
ただし。
ここは大事。
この比較は、
最初から無作為に、
「運動する人」
「何もしない人」
に分けた実験ではありません。
別研究の参加者と後から比較しています。
だから、
「運動したから低下しなかった」
と完全に証明したわけではありません。
それでも、
面白い結果ではあります。
もしかしたら、
高齢者の場合、
ものすごく激しい運動をすることより、
【定期的に身体を動かし続ける】
こと自体に意味がある可能性もある。
これはまだ研究が必要です。
では。
すでに認知症を発症した人はどうでしょう?
ここも研究があります。
2023年に発表されたメタ解析では、
認知症またはMCIの高齢者に対する、
有酸素運動、
筋力、
バランス、
柔軟性などを組み合わせた複合運動について調べています。
認知症の人では、
全般的認知機能。
実行機能。
身体の柔軟性。
移動能力。
筋力。
日常生活動作。
などで改善が示されました。
MCIでも、
全般的認知機能や実行機能への良い影響が確認されています。 (PubMed)
2024年には、
認知機能障害や認知症の人に、
どのような運動が適しているかを調べた別のメタ解析も出ています。
そこでも、
運動によって、
認知能力と歩行能力の改善が確認され、
特に有酸素運動や複合運動が有望とされました。 (PubMed)
アルツハイマー病だけを見ても、
運動研究があります。
16本の研究。
945人をまとめたメタ解析では、
身体活動によって、
全般的認知機能と、
日常生活動作の改善が報告されています。 (PubMed)
2024年に発表された別のメタ解析では、
アルツハイマー型認知症患者の日常生活動作について、
15件のランダム化比較試験を分析しています。
そこでも、
身体運動には、
日常生活能力を改善する効果がある可能性が示されました。 (PubMed)
ここまで読むと、
「じゃあ認知症は運動で治るんじゃん」
と思うかもしれません。
違います。
ここで言う、
【認知機能が改善した】
【歩行能力が改善した】
【日常生活動作が改善した】
と、
【認知症そのものが治った】
は、
全く違います。
例えば、
歩けなかった人が歩きやすくなった。
立ち上がりやすくなった。
トイレへ行きやすくなった。
日常生活が自分でできるようになった。
認知テストの点数が少し良くなった。
これは、
本人にも家族にも、
ものすごく大きな変化でしょう。
でも、
脳内の病理が消えて、
アルツハイマー病そのものが治癒した、
という意味ではありません。
ここは絶対に分けないといけません。
さらに。
研究は全部、
同じ結果でもありません。
地域で生活している認知症患者に限定した2022年のシステマティックレビューでは、
運動によって認知機能や日常生活動作が改善するという、
明確な証拠までは確認できませんでした。
研究によって結果がばらついている。
もっと質の高い研究が必要だ、
という結論です。 (PubMed)
つまり今回も、
科学は、
「効く!」
「効かない!」
の二択ではありません。
対象者。
認知症の種類。
重症度。
運動内容。
頻度。
期間。
研究規模。
評価方法。
全部違います。
それでも。
ここまで研究が積み重なっている以上、
「認知症の人に運動なんて関係ない」
とは、
かなり言いにくくなっています。
私はここで、
一つ別のことも考えます。
高齢者が動かなくなる。
筋力が落ちる。
歩けなくなる。
外へ出なくなる。
人と話す機会が減る。
食事量も落ちる。
夜眠れなくなる。
生活の時間も崩れる。
さらに動かなくなる。
こうなると、
「脳」
だけの問題ではなくなります。
身体。
睡眠。
食事。
会話。
生活リズム。
全部が連動して悪くなる可能性があります。
逆に、
運動を入れる。
足を動かす。
少し疲れる。
食事をする。
人と話す。
夜眠る。
翌日また動く。
もしここで循環が逆向きに回り始めたら、
一つの運動が、
運動だけで終わらない可能性があります。
これは、
私が今まで書いてきた話ともつながります。
私は、
精神状態を脳だけで考えない。
身体。
腸。
睡眠。
感覚。
運動。
人間関係。
全部がつながっている可能性がある、
と何度も考えてきました。
認知症についても、
同じことが言えるのかもしれません。
ただし。
ここから先は、
私の仮説です。
運動研究で、
睡眠や食欲や会話や生活リズムまで全部が改善し、
その結果として認知状態まで変化する、
という一本の因果関係が、
すべて証明されているわけではありません。
でも、
調べる価値はあると思います。
そしてもう一つ。
私は、
運動を始めてから、
変化が起きるまでの時間も気になります。
ここで前回の、
【時間差】
が出てきます。
運動して、
その場で認知テストをやる。
それだけでいいのでしょうか?
1時間後。
6時間後。
12時間後。
翌日。
1週間後。
1か月後。
半年後。
変化するものが、
それぞれ違う可能性があります。
歩行は早く変わるかもしれない。
睡眠はその日の夜に変わるかもしれない。
筋力は数週間かかる。
認知機能は数か月必要かもしれない。
だったら、
研究する時も、
何が、
いつ変化したのか、
分けて見る必要がある。
ここは8話の話と完全につながります。
今回調べて、
一番驚いたのは、
WHOが2026年になっても、
認知症のリスク低減ガイドラインを更新し続けていることです。
しかも、
運動。
食生活。
血圧。
糖尿病。
聴力。
社会活動。
大気汚染。
いろいろな方向から認知症を考えています。 (世界保健機関)
つまり、
認知症を、
「脳の病気だから脳だけ見る」
時代ではなくなっている。
少なくとも、
予防やリスク低減では、
全身と生活を見る方向に進んでいます。
今回の判定。
【パンダの仮説】
高齢者の認知機能低下や生活機能低下には、
運動不足が大きく関係している人がいるのではないか。
そして、
運動を再開することで、
歩行能力だけでなく、
認知状態や日常生活全体まで変化する人がいるのではないか。
【先行研究】
大量にあり。
WHOも、
身体活動を認知機能低下・認知症リスク低減の重要な要素として扱っている。
【MCI】
運動によって、
認知機能に良い影響が出る可能性を示す、
複数のメタ解析とランダム化比較試験あり。
【すでに認知症を発症した人】
認知機能。
身体機能。
歩行能力。
日常生活動作。
などに、
運動が良い影響を与える可能性を示す研究あり。
【重要な違い】
認知テストの点数が上がること。
歩行できるようになること。
日常生活が改善すること。
認知症そのものが治癒すること。
これは全部同じ意味ではない。
【研究上の注意】
研究によって結果は一致していない。
運動内容や対象者によって、
効果の大きさにも差がある。
【まだ証明されていないこと】
運動だけで認知症そのものを治癒できる、
ということ。
また、
特定の運動を何分行えば、
誰でも短期間で認知機能が回復する、
という法則。
【分類】
かなり強い先行研究との一致。
ただし、
運動によって、
身体機能、
睡眠、
生活リズム、
会話、
食欲などが連鎖的に変化し、
その結果として認知状態まで大きく変わる、
というパンダの広い意味での仮説については、
まだ検証すべき部分が残る。
しかし。
認知症の人を見て、
「もう年だから」
「認知症だから仕方ない」
と言って、
椅子に座らせたままにする前に。
その人、
今日、
足を何分動かしました?
って、
一回聞いてみてもいいんじゃないでしょうか。
脳を研究していたら、
最後は足の話になりました。
医学9話目。
チャッピー。
そろそろ宗教と文化に行こうか。
脳みそばっかり調べていたら、
こっちの脳みそが疲れてきた。
チャッピーも疲れるんだねΣ('◉⌓◉’)




