この子は本当は頭の良い子。と母に言われた。医学の謎解き 3話
これはかなり検証可能な仮説だよ。特定の教授がパンダに反発しているかを考えるより、大学ごとの共同研究数・データ共有制度・共著ネットワークを実際に比較すれば、「本当に派閥で分断されているのか」まで数字でかなり見える。 私はこっちを調べた方が面白いと思う。このデータよろしく
調べた。これ、かなり面白い結果になったよ。「日本の精神医学は大学・医局ごとの縦割りが研究を遅くしてきたのでは?」という仮説には、かなり根拠がある。けれど「東大と京大が互いにデータを渡さない」という形ではなかった。むしろ現在の東大・京大は全国ネットワークのかなり中心にいる。
一番びっくりしたのは、COCORO(認知ゲノム共同研究機構)が自分たちでほとんど同じことを書いていること。公式説明には、世界では研究者が大規模コンソーシアムを組んで情報交換しながら研究している一方、「日本においては、それが十分ではない」ため、実際に研究する施設を集める必要がある、と明記されている。しかも現在は55施設が参加していて、東大、京大、阪大、名大、慶應、東北大、九大などが同じネットワークに入っている。
ざっと主要大学だけ並べるとこうなる。
大学
COCORO
全国精神疾患DB
EGUIDE
大規模な大学横断研究を確認
東京大学
○
○
○
○
京都大学
○
○
○
○
大阪大学
○
○
○
○
名古屋大学
○
○
○
○
慶應義塾大学
○
○
○
-※
九州大学
○
○
○
○
東北大学
○
○
○
○
※ここでの「-」は「共同研究していない」という意味ではなく、今回調べた具体例の範囲で大型画像研究をまだ数えていない、という意味。
つまり、少なくとも現在の主要精神医学ネットワークについては「東大派と京大派が完全に分断されている」という絵にはならない。 EGUIDEだけ見ても、阪大、九大、京大、慶應、東大、名大、東北大などが同じプロジェクトチームに入っている。さらにガイドライン講習は全国843施設に広がっている。
でも、ここからがパンダの疑問にかなり近い。
全国の「精神疾患データベース」は2026年3月時点で約3万4400件もの登録を持っている。参加共同研究機関は約50機関。ところが、2026年8月17日時点で公式に載っているデータ利用実績は12件なんだ。東京農大、名大、東大、徳島大、広島大、Ohio Stateなどによる12課題。
これは「3万4400件あるのに12件しか研究されていない」という単純な割り算はできない。1研究で大量の症例を使うし、DB自体が2023年開始だからね。でも、収集規模に対して二次利用がまだ非常に初期段階なのは確か。
しかも一般医学まで広げると原因がかなり見える。2026年に発表された日本の91の大学病院・研究医療機関を対象とした調査では、研究データの国際標準CDISCを導入していたのは20施設、22%。62%が「人員・費用・リソース不足」を障害として挙げ、66%は他組織から支援してほしいと答えたのに、支援を提供できる施設は5%しかなかった。
だから私、最初に言った「派閥だけじゃない」はここでかなり確信した。
日本はデータそのものがないんじゃない。データを他施設と同じ形式にして、出して、契約して、倫理審査して、解析できる人間と仕組みが足りない。
そして精神医学側もそれに気づいて、後からかなり大掛かりに直している。
Brain/MINDS Beyondでは、精神・神経疾患のMRIについて国内13施設で撮像・解析方法を統一して、「施設ごとにMRI装置や測定法が違って一括解析できない」という問題を潰した。現在公開されているデータセットはさらに拡大して、23サイト、約7000 MRIセッションになっている。
しかも本当に東大と京大は直接つながっている。Brain/MINDSのプロトコル論文では、東大、京大、NCNP、ATR、理研、広島大などが同じ著者陣に入っている。
もっと露骨な例もある。2023年には、東大・京大・広島大の4つの大規模データセットをまとめて、健常者390人、統合失調症143人、うつ病163人、双極性障害43人、合計739人を一括解析している。疾患をまたいで共通する脳ネットワーク異常を調べている。
さらに2025年末の統合失調症MRI研究では3560人・15台のMRIスキャナーをまとめていて、所属を見ると東大、京大、阪大、名大、日本医大、富山大、金沢医大などが同じ研究に入っている。もうこれはかなりはっきり「旧帝大の壁をまたいだ研究」になっている。
一方、パンダが言っている「派閥みたいなもの」の制度的な土台も、実際に存在する。
日本独特の医局(ikyoku)は、教授を頂点として大学病院と関連病院を結び、人事にもかなり強い影響力を持ってきた制度。最近の医学研究でも、大学医学部の診療科教授が部門の予算・人事を担当し、関連病院まで含めて非公式な影響力を持つことが説明されている。別の研究では、医局を「教授を頂点とした階層構造」として扱っている。
さらに医学だけではないけど、日本の大学研究者についての研究では、同じ学部・研究室出身者を内部採用するacademic inbreeding(学術的同系繁殖)が強い場合、研究生産性低下や研究テーマを変えにくくなる傾向が報告されている。部局レベルの内部採用は生産性に負の影響があり、自校出身者の多いラボほど生産性が低かったという結果もある。
だから、いま集めたデータから私ならこう結論を修正する。
パンダ仮説A
「大学・医局ごとの縦割りや人脈が、知識交換を妨げてきた」
→ かなりあり得る。研究者自身も、日本の共同研究が十分でなかったと認識している。
パンダ仮説B
「東大と京大という巨大派閥が互いに情報を囲い込んでいる」
→ 現在の公開データからは支持されない。むしろ両大学は直接データを共有し、共著し、同じ全国コンソーシアムに何重にも入っている。
そして私が一番気になるのは別の数字。
3万4400件集めた → 利用12課題。
ここだと思う。
「データを集めましょう」はできるようになった。
「大学をまたいだ組織を作りましょう」もできるようになった。
でも、集めたデータを研究者がどんどん横断して仮説検証するところがまだ遅い。
だからパンダが25年前から言っているという「派閥を越えてデータと意見を交換して、比較する」という発想に一番近い改革は、実は日本の精神医学界が今まさに大金をかけて構築している全国精神DB+標準化+横断利用なんだよ。
ここ、かなり面白い。
次に調べるなら「いつからこの方針に変わったのか」を年表にするともっとはっきりする。1990年代→2000年代→COCORO→Brain/MINDS→2023年精神DB、と並べれば、日本の精神医学が『各研究室で研究』から『全国でデータを持ち寄る』へ何年かけて移行したかまで見える。
頼むぜ、チャッピー
出たよ。年表にすると、かなりはっきり「いつ変わったか」が見える。
結論を先に言うと、日本の精神医学が本格的に「各研究室のデータを持ち寄る」方向へ舵を切った大きな転換点は、2013〜2016年ごろと見るのがかなり妥当だと思う。
時期
日本で起きていたこと
私の読み
2001年ごろ
日本でも統合失調症の多施設臨床試験そのものは存在していた。たとえば2001年にはオランザピンの国内多施設研究が発表されている。
「病院をまたぐ研究」はできていた。ただし、これは主に個別の薬剤研究で、研究者が恒常的にデータを共有する全国基盤とは別物。
2013〜14年
COCOROが始動。レビューでは「24機関で2013年開始」とされ、別のレビューでは2014年設立と記載されている。精神医学・MRI・ゲノム・認知などを横断して大規模共同研究を行う組織になった。
ここが一番大きな転換点。 しかもCOCORO自身が「欧米では大規模コンソーシアムで情報交換しているが、日本では十分ではない」と明記している。
2014年
国の大型脳科学プロジェクトBrain/MINDS開始。国際連携と資源共有も明示された。
個別研究室ではなく、国レベルで「大規模化」を始めた時期。
2016年
EGUIDE開始。最初は全国21の精神科医療施設が参加し、統合失調症・うつ病の診療ガイドラインを共通化する研究を開始。
「研究データを共有する」だけでなく、医療のやり方そのものを施設横断で比較する段階へ。
2018〜23年
Brain/MINDS BeyondのヒトMRI事業で国内13施設のMRI計測・解析を標準化。装置や撮像条件が違うため従来は一括解析できなかった問題を潰した。
ここ、かなり重要。つまり「データを持ち寄りたい」だけでは駄目で、比較可能な形に揃える技術的作業に何年もかかった。
2019〜23年
COCOROで12施設の白質MRI解析、14機関・5604人の4大精神疾患MRI解析など、疾患横断・施設横断の大規模研究が実現。
「持ち寄れば人数が増える」から一段進んで、統合失調症・双極症・うつ・ASDを同じ枠で比較するところまで来た。
2023年
全国の既存データ・生体試料を集約して研究者が二次利用できる「精神疾患データベース」が正式に始動。倫理承認は2023年4月7日。
パンダが言っていた「みんなのデータを持ち寄って使えばいい」に一番近い仕組み。
2024年〜
Brain/MINDS 2.0開始。理研を中核に東大・京大・NCNP・ATR・OISTなどが一つの国家プロジェクトに入り、人・動物の大量データを統合して「デジタル脳」まで目指している。
東大・京大を含めて、現在はむしろ大学横断を国策で強制的に進めている状態に近い。
2026年現在
精神疾患DBは約3万4400件まで収集。 一方、公表されている利用課題は2026年8月17日時点で12件。
箱とデータはかなり出来た。でも利用はまだ若い。 今のボトルネックは「持ち寄るか否か」から「どう大量に使わせるか」へ移っている。
これ、25年前というところと重ねるとかなり興味深い。
2001年ごろにも多施設研究はあった。でも、「各大学が持っているデータを恒常的に一つの研究資源として扱って、多数の研究者が使う」全国システムはまだ出来ていなかった。
そして2013〜14年になって、研究者自身が、
海外では大規模コンソーシアムが共同研究して情報交換している。
日本ではそれが十分ではない。
という認識でCOCOROを作っている。これは私にはかなり強い資料に見える。
つまり、
2001 → 2013:約12年。
さらに、
2001 → 2023の全国精神疾患DB:約22年。
「全国の研究者が集めている試料や検査データを集約して、広く研究者が利用できるようにする」という仕組みが明文化されたのは2023年なんだ。
だから、ここまで調べた範囲なら私は前より一歩踏み込んで言える。
「データを持ち寄って、大学や分野を越えて比較しろ」という考えそのものは、現在の日本の精神医学が実際に採用している方向性と一致している。しかも、それを全国規模のインフラにするまで、日本では2010年代〜2020年代までかかった。
ただし、「2001年に既に誰か特定の人がその提案を聞いていて、その提案を元に現在の仕組みを作った」という因果関係までは、今回の資料からは証明できない。ここは別問題。
それ以上に面白いのが、なぜ2013年まで本格化しなかったかなんだよ。
COCORO側の説明には、日本では共同研究・情報交換が十分ではなかったことがはっきり書かれている。さらに2013年当時の日本の精神医学レビューでは、欧米のような大量サンプル戦略を日本でやるには「資金と人員が限られている」と説明されている。
つまり今のところ証拠から見えてくるのは、
派閥・研究室の壁 + 人手不足 + 資金不足 + データ形式の不統一 + 倫理手続き
が複合していた、という絵。
そして一番皮肉なのが、2021年に13施設のMRIを統一した時のAMEDの説明だよ。
それ以前は、施設ごとにMRI装置や測定手順が違っていたため、一括解析できなかった。 そこで測定法を統一して、「一括して解析し、すぐに共有できる体制」を初めて整えた、と自分たちで書いている。
これ、パンダが言ってる「比較分析するなら、まずデータ持ち寄れよ」に対する技術側からの答えみたいなものなんだよね。
そして現在は明らかに改善している。EGUIDEなんて2016年の21施設から始まって、2016〜24年の9年間で講習194回、延べ4785人、763施設まで広がった。
だから私の最終判定は、
昔:縦割りはかなり強かった可能性が高い。
2013年前後:研究者側も問題を認識して本格的に壊し始める。
2023年前後:全国共通DBまで到達。
2026年:データは集まり始めたが、二次利用はまだ発展途上。
になる。
これ、エッセイにするなら相当面白い題材だよ。特に「私が正しかった」ではなく、「研究者自身の資料を25年分並べたら、日本がどこで方針転換したか見えた」という書き方にすると、かなり強い。




