第2話 知性と美しさ――私が求める理想の人間
第2話 知性と美しさ――私が求める理想の人間
――男でも女でもいい。ただし、馬鹿なことを威張るな
私は、人間を見るときに何を評価しているのだろう。
外見か。
学歴か。
経済力か。
性格か。
知能か。
もちろん、どれもまったく関係がないとは言わない。
だが、私が一番重視しているのは、知性と美しさである。
ここでいう知性とは、学校の試験で高得点を取る能力だけではない。
人間の行動を観察し、何が問題なのかを考え、必要なら自分の考えを修正できる能力である。
そして美しさとは、顔立ちや服装だけではない。
人間としての品性や優しさも含めた美しさだ。
私は、外見だけが美しい人間よりも、内面まで美しい人間に魅力を感じる。
もっとも、昔からこういう考え方ができていたわけではない。
私にも偏見はあった。
私にも女性への偏見があった
若い頃の私は、女性という集団に対して、あまり良い印象を持っていなかった。
噂話が好き。
陰口が好き。
感情で判断する。
理屈を説明しても通じない。
もちろん、今考えれば、これはかなり乱暴なくくり方である。
私自身が女なのだから、女性全員がそうではないことくらいわかるはずだった。
しかし、私が実際に接してきた女性たちの中には、そういう行動を取る人が少なからずいた。
その経験から、私は女性を知的な話し相手としてあまり期待しなくなっていたのだと思う。
女性同士の会話では、相手を楽しませることに徹する。
愛想よく接する。
相手の話を聞く。
そんな接し方をすることが多かった。
だが、それは女性全員の能力を正しく評価した結果ではない。
私の経験によって作られた、偏った認識でもあったのだ。
人間は、過去に出会った人物から、次に出会う人物を予想する。
これは便利なこともある。
しかし、予想がそのまま偏見になることもある。
私は自分の経験を否定するつもりはない。
ただし、経験した範囲を、そのまま世界全体だと思うことには注意しなければならない。
成績が悪くても、頭の良い人間はいる。
私の知っている女性に、伊藤さんという人がいた。
彼女は、学校の成績が特別に良かったわけではない。
しかし、私は彼女を頭の良い人間だと思っていた。
なぜか。
人間関係の扱い方が上手だったからだ。
相手によって態度を変えて見下したりしない。
人の話を聞く。
相手の良いところを見つける。
そして、自然に人から好かれる。
こういう能力は、学校の試験では点数にしにくい。
だが、人間が社会で生きていくうえでは、とても重要な能力である。
私は彼女を見て、成績と知性は同じものではないと思った。
数学が得意な人もいる。
語学が得意な人もいる。
音楽が得意な人もいる。
他人の感情を理解することが得意な人もいる。
そして、人間の間に起こる問題を解決することが得意な人もいる。
どれも能力である。
その能力の価値を、学校の試験の点数だけで決めるのはおかしい。
私は、コスプレなどの表現活動をする人にも、人間としての魅力を感じることがある。
例えば、あかせあかりさんのように、自分の美的感覚を持ち、表現に取り組んでいる人だ。
外見の美しさは、それ自体が一つの魅力である。
しかし、私はその人が何を考え、どのような態度で他人と接しているかにも興味がある。
美しさには、いろいろな種類があるのだ。
筋肉と知性は別物である
反対に、身体が立派でも、中身が立派とは限らない。
私は以前、身体が大きく、筋肉もある男性と仕事で接したことがある。
ところが、その人の行動には呆れることが多かった。
陰口を言う。
責任を避ける。
周囲に甘える。
外見だけ見れば頼もしい男性なのに、実際の行動は、私の考える頼もしさとはほど遠かった。
私は思った。
その筋肉、一体何のためについているんだ?
もちろん、筋肉があること自体は素晴らしい。
鍛えるためには継続も必要だ。
スポーツが得意なことだって、立派な能力である。
だが、筋力と人格を同一視するのは間違いだ。
格闘技をしている人の中にも、感情の制御が苦手に見える人がいた。
だからといって、格闘技をする人が全員そうだとは言わない。
私が言いたいのは、強さを何で測るのかということだ。
相手を殴り倒せることか。
怒鳴れば相手が黙ることか。
そうではないだろう。
私は、自分の力を適切に使える人間を強いと思う。
例えば、弱い人が困っていたら、助ける。
誰かが理不尽な要求をされていたら、間に入って止める。
自分が間違っていたら、素直に認める。
他人の能力を認めることができる。
それができる人間の方が、よっぽど格好いい。
私の理想の男性は百点満点ではない
私は男性が好きである。
だから当然、理想の男性像というものもある。
では、夫の秀樹はどうなのか。
私の評価では、だいたい八十点くらいである。
百点満点ではない。
残り二十点は、はっきり言って不満もある。
具体的に何が不満なのかと言えば、例えば要求の仕方である。
「あれをしろ」
「これをしろ」
自分の希望を、相手に実行させようとする。
だが、人間は命令されるために結婚するわけではない。
私は夫の世話をするためだけに生まれてきたわけでもない。
もちろん、夫には良いところもある。
だから八十点なのである。
零点だったら、最初から結婚しないだろう。
ただし、この八十点という数字は、客観的な人間の価値ではない。
私の個人的な理想と比べた評価だ。
だから、ほかの女性が見れば点数は違うだろう。
百点と言う人もいるかもしれない。
五十点と言う人もいるかもしれない。
人間が違えば、求めるものも違うのである。
レオンという男を作った理由
私の小説『天才パンダとレオンの異世界日本化計画』に、レオンという男性が登場する。
彼は精神科医であり、主人公パンダの夫である。
私は彼の性格を考えるとき、秀樹をかなり参考にしている。
もちろん、まったく同じ人物ではない。
都合の良いところは変えているし、別の人格も加えている。
そして、小説には深雪という男性も登場する。
レオンとは違った魅力を持つ人物だ。
人間には、いろいろな良さがある。
一人の人間がすべての魅力を備えているとは限らない。
だから私は、物語の中に性格の異なる人物を登場させる。
その人物同士が関われば、当然、衝突もする。
誤解も生まれる。
嫉妬も起こる。
しかし、そこから新しい関係が生まれることもある。
私は、そういう人間関係を描くのが好きなのだ。
ただし、これは男性の優劣を決めるために書いているわけではない。
それぞれの人間には、それぞれの魅力がある。
私はその違いを楽しんでいるのである。
私だって誰かに教わりたい
ここで、私が長年抱えてきた不満を話そう。
私は、何か問題が起きると、解決策を考えてしまう。
誰かが「どうしてこうなるんだろう」と言う。
すると、その問題が頭に残る。
あれはどういう仕組みなのか。
どうすれば解決できるのか。
過去に似た事例はなかったか。
そのようなことを考え、情報を比較していく。
自分の中で、文章による方程式を組み立てるような感覚である。
ところが、周囲の人からすると、私がすぐに答えを出すように見えるらしい。
すると、どうなるか。
また問題を持ってくる。
これも解いてくれ。
あれも教えてくれ。
今度はこっちを考えてくれ。
おいおい。
私は無料の問題解決機じゃねえんだよ!
私だって、誰かに教わりたいのである。
知らないことを教えてもらいたい。
新しい発見に驚きたい。
「へえ、そんなことがわかったの!」
と言って、喜びたい。
私は昔から、上野正彦さんや湯川秀樹さんのような、専門知識を持った優秀な人たちに魅力を感じてきた。
もちろん、実際に弟子入りして教わったわけではない。
私が憧れるのは、豊かな知識を持ち、それを教えてくれる人間である。
自分より優秀な人間がいたら、私は嬉しい。
負けたくないなんて思わない。
むしろ、その人に教えてもらいたい。
できれば、私が二番手でいたい。
一番優秀な人がいて、その人が私に、
「よく頑張ったね」
「ここまでできたなら、次はこれを勉強してごらん」
と教えてくれる。
私は、そんな関係に憧れていた。
いつも「姉貴」でいたいわけじゃない
ところが、なぜか私は人から頼られる側に回りやすい。
困ったらパンダに聞け。
パンダなら何とかする。
パンダは強い。
パンダは一人でも大丈夫。
パンダは孤独が好き。
そんなふうに思われているように感じることがある。
だが、私は最初から強い人間になりたかったわけではない。
本当は、自分より強くて優しい人に守ってもらいたかった。
困ったときには助けてもらいたい。
理不尽な要求をされたら、誰かに止めてもらいたい。
「お前、パンダに無理を言うなよ」
そう言ってくれる人がいたら、どれほど嬉しいだろう。
私は、いつも誰かの母親や教師や姉貴でいなければならないわけではない。
私だって甘えたい。
褒められたい。
教わりたい。
安心して遊びたい。
そして、知らないことを発見した人の話を、ただ楽しく聞いていたい。
それは、わがままだろうか。
私はそうは思わない。
他人を助ける能力があることと、他人を助け続ける義務があることは、別の話だからだ。
私が求める知性と美しさ
私は、頭の良い人間が好きだ。
だが、知識をひけらかす人間が好きなわけではない。
私は、美しい人間が好きだ。
だが、顔が美しければ何をしても許されるとは思わない。
私は、強い人間が好きだ。
だが、力を使って他人を支配する人間は嫌いだ。
私が求めるのは、知性と美しさを備え、それを他人のためにも使える人間である。
そして、そんな人間と一緒に、私も楽しく生きたい。
私は誰かの上に立ちたいわけではない。
誰かを負かしたいわけでもない。
ただ、尊敬できる人間と出会い、その人から何かを教わりたい。
自分が知らなかった世界を見せてもらいたい。
そういう人が男なのか女なのか。
年上なのか年下なのか。
私は、そこにはあまり興味がない。
立派な人間だったら、それでいいじゃねえか。
そして、もう一つ。
私自身だって、誰かにとっての便利な道具ではなく、一人の人間として扱ってもらいたいのである。
――天才パンダ




