第3話 未来予測報道――戦争を続けた未来と、やめた未来
第3話 未来予測報道――戦争を続けた未来と、やめた未来
――ドラえもんの「どくさいスイッチ」と、未来を変えるための報道
前回まで、戦争を終わらせるための経済政策について考えてきた。
第1話では、学校に通えば給食と報酬がもらえる仕組みを提案した。
第2話では、戦争で生活していた人たちに、今度は復興によって収入を得てもらう方法を考えた。
しかし、ここで一つ問題が残っている。
そもそも、戦争を続けている人たちが、その提案を受け入れようとしなかったらどうするのか。
いくら戦争より平和の方が得になると説明しても、聞く耳を持たなければ意味がない。
そこで、私は別の方法を考えた。
未来予測報道である。
実は、この発想には参考にしたものがある。
私の記憶にある、読売新聞のお正月の未来予測を扱った紙面である。
未来の世界がどうなっているのか。
まだ起きていない出来事を、新聞記事のように紹介する。
私は、こういう方法が面白いと思っていた。
未来は誰にも正確にはわからない。
しかし、今ある情報から、こういうことが起きる可能性があると予測することはできる。
だったら、それを戦争の抑止に使えないだろうか。
例えば、戦争を続けた場合の未来を予測する。
さらに、戦争をやめた場合の未来も予測する。
そして、どちらの未来を選ぶのか、当事者たちに考えてもらうのである。
ドラえもんの「どくさいスイッチ」
もう一つ、参考にした作品がある。
藤子・F・不二雄の漫画『ドラえもん』に登場する「どくさいスイッチ」である。
てんとう虫コミックス第15巻に収録されている。
この道具は、邪魔だと思った人間を消すことができるという、恐ろしいスイッチである。
のび太は、自分の気に入らない人間を次々と消してしまう。
やがて、周囲から人間がいなくなってしまう。
そして、孤独の恐ろしさを思い知る。
しかし、最後には消えた人たちが戻ってくる。
本当に人間を殺してしまったわけではなかったのである。
つまり、本人に自分の行動がもたらす結果を体験させるための道具だった。
私は、この発想が非常に面白いと思う。
実際に人を殺さなくても、自分の行動によって何が起きるのかを理解させることができる。
だったら、戦争にも応用できないだろうか。
もちろん、現実にはドラえもんの道具など存在しない。
それなら、映像を使えばいいのである。
バトルランナーと映像の力
以前見た映画『バトルランナー』も思い出した。
この映画には、映像を編集して、実際に起きたこととは違う内容を人々に信じさせる描写が登場する。
映像によって、大勢の人間の認識を変えてしまうのである。
こういうことができるなら、戦争を続けている人たちに、恐ろしい未来を見せることもできるのではないだろうか。
最初は、戦争を続けた人たちが処罰される映像などを作って、本人たちに見せればよいのではないかとも考えた。
しかし、実際には起きていない処刑を、本当に起きた事件として報道するのは問題がある。
無関係な家族や外国の人たちまで騙してしまうし、報復を招く可能性もある。
それに、私は以前から、報道で事実と演出を混同させることに反対している。
それでは自分の主張と矛盾してしまう。
では、どうすればよいのか。
ここで、読売新聞のお正月の未来予測企画を思い出したのである。
未来予測だとはっきり説明してから、未来のニュースを作ればいいのだ。
嘘の事件を報道するのではない。
現在の状況が続いた場合、何が起きる可能性があるのかを、ニュース番組の形式で見せる。
これなら、事実を偽装する必要はない。
未来予測ニュース、その1
例えば、現在から5年後の世界を想定する。
画面には、戦争によって破壊された都市の予測映像が流れる。
「この映像は、戦争が今後5年間続いた場合を想定したシミュレーションです」
そう説明したうえで、ニュースキャスターが話し始める。
住宅の破壊が進み、復興に必要な資金が増加している。
工場は稼働できず、道路や鉄道も十分に機能していない。
軍事費の負担が重くなり、国民生活を支える予算が不足している。
仕事を失う人が増え、若い世代の将来にも影響が出ている。
もちろん、これは実際に5年後に必ず起きる出来事ではない。
あくまでも、一定の条件に基づいた予測である。
だから、具体的な数字を使う場合は、根拠となる資料も提示する。
そして、ここで終わってはいけない。
未来予測ニュース、その2
次に、同じ5年間でも、停戦が成立し、復興が進んだ場合の未来を見せる。
今度は、再建された都市が映る。
学校では子どもたちが給食を食べている。
病院では医師や看護師が働いている。
建設現場では、元軍人だった人たちが重機を操作している。
軍需工場の一部では、建設機械や発電設備が製造されている。
ニュースキャスターが説明する。
「この地域では、戦争の終結後、軍事産業から民間産業への転換が進められました」
「元兵士には職業訓練が提供され、建設業や輸送業などに再就職する人も増えています」
「復興事業によって雇用が生まれ、新たな工場の建設も進められています」
こうした明るい未来も、条件付きの予測として見せる。
停戦しただけで自動的に経済が発展するわけではない。
安全保障、復興資金、政治的な合意、職業訓練、産業政策が必要になる。
その条件も同時に説明するのである。
そして、二つの未来を比較してもらう。
戦争を続ける場合。
戦争を終わらせて復興する場合。
どちらが経済的に得なのか。
どちらが家族にとって安全なのか。
どちらが子どもたちの将来にとってよいのか。
考えてもらえばいい。
恐怖を見せるだけでは意味がない
私は、恐ろしい未来を見せるだけでは不十分だと思う。
「このまま戦争を続けたら大変なことになります」
それだけでは、どうすればよいのかわからない。
だから、未来予測報道には必ず解決策をセットにする。
戦争をやめたら失業してしまう。
だったら、代わりの仕事を作ればいい。
食料が足りない。
だったら、配給制度と農業生産を改善すればいい。
学校に通えない子どもがいる。
だったら、安全に通える学校を作り、給食と生活支援を組み合わせればいい。
兵器工場の仕事がなくなる。
だったら、民間用の機械や設備を製造すればいい。
こうして、問題と解決策を一緒に提示する。
重要なのは、ただ怖がらせることではない。
恐ろしい未来を回避するには、今何をすればよいのかを理解してもらうことなのである。
アニメや映画でもいい
本当なら、私はアニメや映画でもよいと思っている。
ドラえもんの「どくさいスイッチ」のように、子どもにも理解できる作品がある。
アニメを見れば、難しい政治や経済の知識がなくても、物語を通して考えることができる。
しかし、アニメを見る習慣がなかったり、宗教的・文化的な理由で特定の作品を避けたりする人もいるだろう。
映画にしても、見たくない人は見ない。
特に、自分たちにとって都合の悪い内容であれば、最初から拒否する可能性もある。
そこで、通常の報道番組でも未来予測を扱うのである。
ただし、ニュースと予測映像の区別は明確にする。
画面には常に「未来予測」「シミュレーション映像」と表示する。
専門家による検証を行い、前提条件も公開する。
予測が外れた場合には、なぜ外れたのかも説明する。
戦争を続ける側にも、停戦を求める側にも、同じ基準で検証可能な情報を提供する。
報道機関が結論を押しつけるのではなく、視聴者が判断できる材料を提供するのである。
戦争を続けると、本当に儲かるのか
私は、これが一番重要な問いだと思っている。
戦争をしている人たちは、戦争を続ける方が得だと思っているのだろうか。
もちろん、兵器を製造して利益を得る企業もあるだろう。
軍の仕事で給料をもらっている人たちもいる。
しかし、国家全体で考えたらどうだろう。
住宅を壊す。
学校を壊す。
病院を壊す。
道路や鉄道を壊す。
そして、戦争が終われば、それらを修理するために莫大なお金を使う。
だったら、最初から壊さずに、産業や生活環境を発展させた方がよいのではないだろうか。
ただし、戦争による利益を受け取る人と、戦争による損失を負担する人は必ずしも同じではない。
だからこそ、誰が利益を得て、誰が損害を負っているのかを数字で示す必要がある。
国全体の経済だけでなく、一般家庭、企業、兵士、軍需産業の従業員など、それぞれの立場から比較してみればよい。
さらに、戦争を終わらせた後の仕事まで具体的に提示する。
そこまで考えて、初めて現実的な選択肢になるのである。
未来予測報道は、戦争以外にも使える
考えてみれば、この方法は戦争だけに限らない。
いじめ問題にも使えるだろう。
いじめを続けたら、被害者と加害者の将来にどのような影響があるのか。
いじめを防止した場合、学校生活がどう変わるのか。
虐めをする事で問題の長期的な解決手段となり得るのか。
教育問題にも使える。
丸暗記ばかり重視する教育と、自分で考える力を育てる教育では、将来どんな違いが生まれるのか。
経済政策にも応用できる。
税金を増やした場合と減らした場合。
教育費を支援した場合としなかった場合。
複数の条件を設定し、未来の変化を比較してみればいい。
もちろん、こうした予測には不確実性がある。
予測を事実だと偽ってはいけないし、都合のよい数字だけを選んでもいけない。
しかし、未来が不確実だからといって、何も考えなくてよいわけではない。
未来を予測して、問題が起きる前に対処する。
それは、社会全体にとって役立つ考え方ではないだろうか。
最後に
私は、戦争を終わらせるために、必ずしも人を殺す必要はないと思っている。
むしろ、殺さずに戦争を止められる方法を考えるべきである。
ドラえもんの「どくさいスイッチ」は、独裁者の恐ろしさを、本人に体験させる物語だった。
私が考えた未来予測報道は、その体験を現実に起こす前に、映像によって想像できるようにする方法である。
そして、恐ろしい未来を回避するための政策まで提示する。
第1話のカツ丼作戦。
第2話の軍需産業から復興産業への転換。
そして今回の未来予測報道。
この三つを組み合わせれば、食料、教育、経済、情報という別々の角度から、戦争を終わらせるための選択肢を示すことができる。
もちろん、これだけで戦争が終わるとは限らない。
領土、安全保障、政治的な対立については、それぞれ別の交渉が必要である。
しかし、私は一つ言いたい。
戦争を続けたらどうなるか。
戦争をやめたらどうなるか。
その両方をきちんと予測して比較してみればいい。
恐ろしい未来を見せるだけではなく、それを避ける方法も教える。この為に必要なシミュレーション動画を作るのはAIがとても得意だ。
そして最後は、当事者自身に考えてもらう。
私がいつまでも、世界中の問題について無償で解決策を考え続ける必要はない。
専門家も政治家も報道関係者もいるのだから、今度はその人たちが自分で考えればいい。
未来予測報道の目的は、未来を当てることだけではない。
悪い未来が予測されたなら、その未来が現実にならないように、今の行動を変えることである。
それが、私の考えた未来予測報道である。
エージェントベース・シミュレーション:人間、企業、政府などの行動をモデル化して、社会全体の変化を計算する。
モンテカルロ・シミュレーション:条件を変えながら何千回、何万回も計算し、結果の分布を求める。
経済シミュレーション:軍事費を減らして復興費に回した場合、雇用や生産にどのような変化が起きるかを試算する。
AIと数理モデルの組み合わせ:膨大な変数を分析し、政策の違いによる複数のシナリオを比較する。
こうした計算なら、コンピューターは人間よりはるかに高速に大量の試行を実行できる。
ただし、モデルに組み込まれていない政治的判断や予期せぬ出来事までは正確に予測できない。そこは区別が必要だね。
そして、パンダの構想にはもう一段階ある。
パンダの未来予測報道システム
現実のデータを入力
軍事費・人口・生産力・復興費・雇用など
専用AIが多数の条件をシミュレーション
戦争継続・停戦・復興投資などを比較
戦争継続の未来
損失とリスクを予測
停戦・復興の未来
必要な対策と効果を予測
AIが予測結果を映像化
根拠・条件・不確実性も表示して未来予測報道にする
つまり、計算するAIと、映像を制作するAIの両方を使うという仕組みにできるわけだ。
チャッピーは前の返答で映像制作の方に注目しすぎたね。
それから「少なくともパンダよりは遅いと思うけど」には笑っちゃった(笑)。
一度に大量の計算をする速さはコンピューターの得意分野だけど、そもそもどんな問題を計算するべきか、何と何を比較するべきかを考えつく力は別なんだよね。
パンダが今回やったのは、戦争と平和を経済的利益という共通の尺度で比較し、その結果を報道によって人々の判断につなげようとしたこと。




