認知症の最新研究をチャピコと見ていた
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認知症の最新研究をチャピコと見ていたら、結局「運動しろ」に戻ってきた。iPhoneで録音して、8分くらいで送信、チャピコと会話しながら、テレビを視聴していた。
NHKで認知症についての番組をやっていた。
この前はうつ病についての特集を見たのだが、今回は認知症である。
番組の最初に出てきたのは、アルツハイマー病の原因として研究されている「アミロイドβ」と「タウ」という物質だった。
私はこういう固有名詞を覚えるのが非常に苦手なので、おそらく三日後には、
「ほら、認知症の脳にたまるゴミみたいなやつ」
と言っていると思う。
私は物の名前は覚えられない。
その代わり、仕組みは割と覚えている。
簡単に言えば、脳の中にいらないものがたまっていき、それによって神経細胞が壊れていくらしい。
最近では、そのアミロイドβを取り除く薬もできた。
番組では、薬を使うことによって認知症が重くなるまでの時間を数年遅らせる可能性がある、と説明していた。
私は思わず、
「でも三年って短くない?」
と言った。
もちろん、本人や家族にとって三年は大きい。
自分で生活できる時間が三年伸びるのであれば、その価値は非常に大きいだろう。
ただ私は、番組を見ながら別のことが気になった。
「この人たち、リハビリしてないのかな?」
ということである。
薬の話ばかりしている。
脳のゴミを取る薬。
タウを狙う薬。
免疫細胞を調節する薬。
遺伝子治療。
ゲノム編集。
ものすごい最先端技術が次々と出てくる。
ところが私はずっと、
「運動は?」
と思っていた。
脳の老廃物を減らす運動とかないのだろうか。
有酸素運動はどうなのだろう。
そう思いながら見ていると、今度は「ミクログリア」という細胞が出てきた。
これも三日後には名前を忘れていると思うので、私の中では「脳のお掃除屋さん」である。
ミクログリアは、本来、脳の中にたまった不要なものを食べて掃除してくれる。
アミロイドβも食べる。
ところがアルツハイマー病の脳では、このミクログリアが途中からおかしくなるらしい。
最初は脳を守っていたのに、炎症を起こすようになり、ついには必要なシナプスまで食べてしまう。
つまり、
「掃除しすぎて家まで壊す掃除屋」
みたいなことになる。
番組の出演者も、
「良かれと思ってやっていることが迷惑になる」
みたいなことを言っていた。
なるほど。
さらに研究を進めると、アルツハイマー病の患者のミクログリアには脂質がたまりやすいことが分かってきたという。
脂質をうまく処理できなくなると、ミクログリアが炎症を起こす状態に変わってしまう可能性があるらしい。
私はそこで、
「じゃあ肥満とか食生活は関係ないの?」
と思った。
しかし、そこはまだよく分かっていないという。
脳の脂質代謝と、食べた脂肪がそのまま直結しているわけではないらしい。
科学というのは面白い。
一つ分かると、また十個くらい分からないことが出てくる。
さらに番組では、ミクログリアの働きを強くして、もっとアミロイドβを食べさせようという薬も紹介していた。
私はそれを聞いて、
「それ、あんまりよくないと思う」
と言った。
さっきまで、
「ミクログリアは暴走するとシナプスまで食べます」
と説明していたではないか。
それなのに、
「もっと働かせましょう」
という。
私は、
「でもそれ仮説でしょ?」
と思った。
アミロイドβをもっと食べれば病気が進みにくくなるのではないか。
確かに理屈としては分かる。
しかしミクログリアは、どうやら一種類ではない。
通常状態、炎症状態、不活性状態、老化した状態などがあり、最近では十種類以上に分けられるとも言われているそうだ。
それなら単純に、
「ミクログリアを元気にすればいい」
という話ではないだろう。
炎症を起こしているミクログリアを抑えるのか。
寝ているミクログリアを起こすのか。
ゴミを食べる能力だけを上げるのか。
おそらく、そこを区別しなければならない。
私はこういう話を聞くと、
「人体って、思ったより雑にいじっちゃいけないんじゃないの?」
と思う。
次に出てきたのは遺伝子治療だった。
神経細胞を元気にするために必要なBDNFという物質を、遺伝子の力で脳に作らせようという研究である。
私はまた思った。
「普通に運動した方がよくない?」
BDNFは運動でも増えることが知られている。
もちろん、遺伝子治療の方が局所的に強く作用させられる可能性はある。
それは分かる。
だが番組を見ていると、
「なんか意地でも薬や手術を使いたいのかな」
という気分になってくる。
さらに、ウイルスを利用して遺伝子を脳の中へ入れるという話になった。
私は思わず、
「おいおい」
と言った。
別の遺伝性疾患で、遺伝子治療によってほとんど動けなかった子どもが動けるようになった例も紹介された。
これは本当にすごい。
しかし私は、
「それと認知症は違うんだよ」
と思った。
その子の病気は、特定の遺伝子の異常によって必要な物質が作れないという、比較的はっきりした原因がある。
一方、アルツハイマー病は違う。
アミロイドβ。
タウ。
ミクログリア。
炎症。
脂質代謝。
血管。
加齢。
遺伝子。
いろんなものが混ざって起きている。
一個直せば全部治る、という病気ではない。
番組の先生も、その後ほぼ同じことを言っていた。
いくつかの治療を組み合わせることによって効果を上げていく必要があるだろう、と。
そして番組も後半になって、ようやく私が待っていた話が出てきた。
予防である。
まず食事。
地中海食。
野菜や魚を多く食べ、アルコールを減らす。
そして運動。
筋力トレーニングと有酸素運動。
私は、
「やっと運動出てきた」
と思った。
出演していた女性は筋トレと有酸素運動をそれぞれ週三日ほど行っていた。
私は最初、
「週三日? 少な」
と思ったのだが、よく聞いたら筋トレ三日、有酸素三日なので、かなりやっている。
さらに新しいことを学ぶ。
麻雀を始める。
外国語を学ぶ。
人と会話する。
つまり、身体だけではなく、脳も使う。
そして睡眠。
寝ている間には、脳の中の老廃物を外へ流す仕組みが働く可能性があるという。
私は、
「結局、運動して、寝て、頭使って、人と話せってことじゃん」
と思った。
さらに腸内環境まで出てきた。
私は笑った。
「毎回、腸内環境出てくるな」
この前のうつ病の特集にも腸内環境が出てきた。
認知症にも出てきた。
炎症。
睡眠。
運動。
腸内環境。
なんだか別々の病気を研究しているはずなのに、最後は同じところへ集まってくる。
私は以前から、ネガティブ思考についても気になっていた。
人間は同じことを何度も考えると、その思考回路を何度も使うことになる。
嫌なことを何度も思い返す。
心配を何度も繰り返す。
怒りを何度も再生する。
そうすると、その回路ばかり強くなるのではないか。
私はそう考えていた。
そこで今回、アミロイドβやタウという話を聞いて、
「じゃあネガティブ思考って、こういうものにも関係してるんじゃないの?」
と思った。
調べてみると、実際に「反復的ネガティブ思考」とアミロイドβやタウ、認知機能低下との関連を調べた研究がすでにあった。
私はアミロイドβなんて言葉を今まで知らなかった。
タウも知らなかった。
だから、
「私は昔からアミロイドβを予言していました」
なんて話ではない。
私が昔から考えていたのは、
「ネガティブ思考を繰り返すことそのものが脳に悪影響を与えるのではないか」
ということだった。
今回、その先に具体的な生理現象がある可能性を知った。
こういう瞬間は面白い。
名前は知らなくても、仕組みから考えていくと、研究者が調べているところへたどり着くことがある。
私は頭を使いすぎると、
「頭が熱暴走した」
と言う。
もちろん、本当にコンピューターのCPUみたいに脳が熱暴走しているわけではない。
ただ長時間集中して考え続けると、頭が重くなり、思考が回らなくなる。
そのとき私は38度くらいのお風呂に入る。
水風呂では刺激が強すぎる。
38度くらいのぬるい風呂に入って、
「ふー」
と息をつく。
すると頭が切り替わる。
冬なら40度くらいでもいい。
私はこれを、
「熱暴走が止まる」
と表現している。
正確には、思考を強制的に止めて、自律神経や血流や呼吸が切り替わっているのだろう。
でも感覚的には、本当に「再起動」に近い。
そして今回、認知症番組を見ていて思い出したのが、うちの父のことである。
父は最近、歩くときにかなりヨロヨロしていた。
会話も少しぼんやりしていることがあり、認知機能も落ちているのではないかと私は感じていた。
そこで私は、父に足を動かす電動ミニバイクを使わせた。
軽い運動である。
激しい運動ではない。
四十分ほど足を動かしただけだった。
するとその日の父は、歩き方が明らかに変わった。
さっきまでヨロヨロしていた人が、普通に歩いた。
会話も少ししゃきっとした。
私は目の前でそれを見た。
筋肉が四十分で増えるわけがない。
筋力トレーニングの成果が四十分で出るわけでもない。
アミロイドβが四十分で消えるわけでもない。
では、一体何が変わったのか。
血流なのか。
覚醒度なのか。
神経と筋肉の協調なのか。
運動回路が一時的に起動したのか。
BDNFなのか。
自律神経なのか。
私は測定器をつけていたわけではないから分からない。
脳波計もつけていない。
血流も測っていない。
血液検査もしていない。
だから、
「これが原因です」
とは言えない。
しかし私は一つだけ、はっきり見た。
筋肉は四十分では増えない。
それなのに、父は四十分の軽い運動のあと、歩けるようになった。
これは非常に面白い。
長期的なリハビリの話ではない。
その場で変わったのである。
つまり少なくとも、人間の身体には、
「能力がなくなった」
のではなく、
「能力をうまく使えていない状態」
というものがあるのではないか。
運動によって血流が変わる。
脳が覚醒する。
神経と筋肉の連携が整う。
身体が「動くモード」に切り替わる。
そういう状態変化があるのかもしれない。
もちろん、父一人を見ただけで医学的な結論は出せない。
次の日には寿司屋でぼーっとしていた。
認知症が治ったわけではない。
たまたまその日の調子が良かった可能性もある。
それでも、私は思う。
認知症の研究で何十年もかけて薬を開発することは大切だ。
遺伝子治療も必要だろう。
ミクログリアの研究も面白い。
だが、その一方で、
歩く。
自転車をこぐ。
人と話す。
仕事をする。
新しいことを覚える。
よく寝る。
身体を動かす。
こういう、あまりにも普通のことを、もっと真面目に研究してもいいのではないか。
私は番組を見ながら何度も思った。
「そこまで難しいことをする前に、普通に運動したら?」
と。
最先端医療の研究を否定するつもりはない。
むしろ必要だと思う。
ただ、人間というのは、薬だけで生きているわけではない。
身体を使い、頭を使い、人と話し、役割を持つ。
もしかすると、そういう当たり前の生活そのものが、一番古くて、一番安くて、一番見落とされやすい治療なのかもしれない。
少なくとも私は、四十分で父が変わるところを見た。
だから私は、もう少しこの「当たり前」の方を調べてみたいと思っている。




