異世界日本化計画 ハロウィン場面大型書き換えの為、書き換え前のバージョンここに保管しておきます。
前編は書き換えしないことに決まりました。
ep.122 第108話 遅れたハロウィンパーティー 前編
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掲載日:2026年08月24日 20時00分
更新日:2026年08月18日 23時18分
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前書き
前書きは書かれていません
本文
――精神と時の空間。
夕方。
訓練を終えた人々が、あちこちで思い思いに休憩していた。
最初の頃は、同じ国の者同士で固まっていた。
人間は人間。
魔族は魔族。
地球人は地球人。
そんな感じだったはずなのに――。
今ではすっかり様子が違う。
魔法の話をしながら笑っている者。
覚えたばかりの日本語を教え合っている者。
飲み物を片手に、身振り手振りで話している者。
少し離れたところでは、龍族まで混じって何やら盛り上がっていた。
パンダはその様子をぼんやり眺めていた。
「……仲良くなったねぇ」
隣にいたレオンが頷く。
「そうだな。最初とは随分違う」
「せっかく皆んな仲良くなったんだしさ」
「ん?」
「ハロウィンパーティー、みんなでやらない?」
レオンがパンダを見る。
「……もう終わってるぞ」
「知ってるよ」
「十月三十一日だ」
「知ってるって」
「今は十一月だぞ」
「だから何?」
「…………」
パンダは胸を張った。
「遅れてやればいいじゃん」
「ハロウィンの日付を変えるな」
「別に法律で決まってるわけじゃないにゃ?」
「そういう問題なのか?」
そこへ深雪がやって来た。
「何の話してんだ?」
「ハロウィン」
「終わったぞ」
「お前もレオンと同じこと言うにゃよ」
「終わったものは終わったんだよ」
「でもさ」
パンダは周囲を指差した。
「せっかくこんなに仲良くなったんだよ? 一緒に訓練して、ご飯食べて、遊んでさ。だったら一回くらい、みんなで馬鹿みたいに騒いでもいいと思わんかにゃ」
深雪が周囲を見回す。
「……まあ、それはそうだな」
「だろ?」
「でも衣装は良いとして、飾りはどうするんだ?」
「あ」
パンダが止まった。
数秒後。
にやりと笑う。
「あるじゃん」
「何が?」
「コヌトコ」
◇
――異世界・コヌトコ。
数十分後。
パンダ、レオン、深雪、ポルガン、真央、リリー、ランスロットたちは、巨大な倉庫型店舗へやって来ていた。
「ハロウィンの商品?」
店員が困ったような顔をする。
「はい。ございますけど……」
「やっぱ残ってる?」
「……かなり」
「そりゃそうだろ」
パンダは即答した。
店員が苦笑する。
「ほとんど売れなくて……」
「ハロウィン知らない奴らにハロウィングッズ売って、なんで売れると思ったんだよ」
「それは……」
「誰だよ、仕入れたの」
「地球の商品を参考にしまして……」
「参考にするところ間違ってるにゃ」
深雪が笑いを堪えている。
「お前が異世界日本化するって言ったんだろ」
「日本化にも順序ってもんがあるにゃあよ!」
店員に案内され、一行は売り場の奥へ向かった。
そして――。
「おお……」
ポルガンが足を止めた。
巨大なガーゴイルが立っていた。
二メートルを優に超える巨体。
大きな翼。
鋭い角。
不気味な顔。
しかも三体。
「……魔物ですか?」
「違うよ。飾り」
「これを飾るのですか?」
「うん」
「なぜ?」
「ハロウィンだから」
「ハロウィンとは……?」
「ほらな」
パンダが赤ベストを着た店員を見る。
「そりゃ売れないだろ」
ランスロットがガーゴイルへ近づいた。
「妙に出来がいいな」
「動くらしいよ」
「動く?」
パンダがスイッチを入れた。
ガーゴイルの目が光った。
『グオオオオオオオ!!』
「うおっ!?」
ポルガンが飛び退いた。
リリーが真央の腕を掴む。
レオンが眉をひそめた。
ランスロットだけが平然とガーゴイルを眺めている。
「なるほど」
「何がなるほどにゃ?」
「弱そうだ」
「戦うなよ! 商品だから!」
パンダは慌ててガーゴイルの前へ立った。
「壊すなよ! 四万円くらいするんだから!」
「ヨンマンエン?」
「地球のお金」
「金貨4枚にゃ」
ポルガンは改めてガーゴイルを見上げた。
「それなら本物の魔物を捕まえてきた方が……」
「そういう発想だから売れないにゃよ!」
さらに奥には、骸骨。
カボチャ。
蜘蛛の巣。
墓石。
お化け。
大量のお菓子。
ハロウィン用に仕入れた飾りは、ほとんどそのまま残っていた。
逆に衣装だけは、異世界人にも面白がられ、すでに完売したらしい。
「衣装はどうする?」
「お着替えカメラがあるにゃ」
「なるほど」
「ランスロットも使うかにゃ?」
「ヤグルト2000を飲むのをやめればいい」
「そっち!?」
パンダが思わず叫んだ。
現在のランスロットは、ヤグルト2000のおかげですっかり若々しいイケメンの姿を取り戻している。
だが、飲むのをやめれば――。
元の恐ろしい怪物のような姿に戻る。
「一日くらい飲まなくても構わないだろう」
「ハロウィンのためにヤグルト2000やめる奴、初めて見たにゃ」
「衣装を用意する必要もない」
「それ仮装じゃなくて元に戻ってるだけだから!」
深雪が吹き出した。
「最強じゃねえか。着替え時間ゼロだぞ」
「しかも無料にゃ!」
ランスロットは満足そうに頷いた。
「では決まりだな」
「ミカエラに怒られても知らないにゃよ」
「翌日からまた飲めばいい」
「健康食品の使い方が完全におかしくなってるにゃ……」
レオンが売り場に残った骸骨の置物を眺める。
「パンダ、僕は何にするんだ?」
「レオンにはもっと格好いいの考えるにゃ」
「僕もやるのか?」
「当たり前にゃ!」
「聞いてないぞ」
「今言った」
「……」
パンダは次々と商品を見ていく。
売れ残った大量のハロウィングッズ。
これだけあれば十分だ。
いや。
これだけ人数がいるのだから、足りない分は自分たちで作ればいい。
衣装なら、お着替えカメラがある。
魔法使いもいる。
芸術家もいる。
料理人もいる。
裁縫が得意な者だっている。
そして何より――。
一緒に何かを作れる仲間が、今はたくさんいる。
「よし!」
パンダが振り返った。
「これ全部買うにゃ!」
「全部?」
「売れ残って困ってるんでしょ?」
店員が勢いよく頷く。
「はい!」
「返事早いな!」
「本当に困っております!」
「じゃあ決まり!」
パンダはガーゴイル三体を指差した。
「こいつらも連れてくにゃ!」
「三体全部か?」
「入口に並べる!」
深雪が笑った。
「何人か本物の魔物だと思うぞ」
「その時は値札つけるにゃ」
「値札?」
「四万円って書いとけば誰も攻撃しないにゃ」
「異世界人に円の価値わかんねえよ」
「あ、そっか」
◇
その日の夜。
精神と時の空間に、突然の放送が流れた。
『えー、皆さんにお知らせします』
パンダの声だった。
『ハロウィンはとっくに終わりましたが――』
ざわっ。
『せっかく皆んな仲良くなったので、遅れてハロウィンパーティーをやります!』
各所から歓声が上がる。
『仮装は自由! 参加も自由! お菓子あります! 食べ物あります! 酒もあります!』
「酒!」
どこかで龍族が叫んだ。
『ただし酔っ払って暴れた奴はレオンに怒られます!』
「なぜ僕なんだ」
放送設備の横でレオンが呟く。
『それから、衣装や飾りを作りたい人は自由に参加してください。魔法使ってもいいです。ただし人を吹っ飛ばす魔法は禁止です』
「当たり前だ!」
『あと入口にガーゴイルが三匹いますが、敵ではありません』
精神と時の空間が静まり返った。
『コヌトコで売れ残った商品です。攻撃しないでください』
「そこまで説明する必要あるか?」
深雪が腹を抱えて笑っている。
パンダは最後にマイクへ顔を近づけた。
『じゃあみんな、思いっきり遊ぶにゃ!』
歓声が響いた。
国も違う。
種族も違う。
生まれた世界すら違う。
少し前まで、名前すら知らなかった者たちだ。
それでも今は、一緒に笑える。
だったら祭りの日付が十日や二十日ずれたところで、どうでもいい。
「さて」
パンダはマイクを置いた。
「パンダ、何の仮装しようかな」
レオンが答える。
「パンダでいいんじゃないか?」
「普段着じゃねえか」
「ランスロットと同じだな」
「一緒にすんにゃ!」
少し遅れてやって来たハロウィン。
異世界史上初の、少しおかしなハロウィンパーティーが始まろうとしていた。
後書き
パンダにゃ!
ハロウィンパーティーはいつやっても楽しいにゃ!
ep.123 第109話 遅れたハロウィンパーティー 後編
管理
掲載日:2026年08月25日 20時00分
更新日:2026年08月25日 11時47分
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前書き
前書きは書かれていません
本文
――精神と時の空間。
翌日。
広場は朝から、とんでもないことになっていた。
昨日まで普通の広場だった場所に、カボチャ、骸骨、墓石、蜘蛛の巣、お化けが所狭しと並んでいる。
そして入口には――。
『グオオオオオオオ!!』
三体の巨大ガーゴイル。
「うわああああああ!!」
初めて見る訓練生が飛び退いた。
「敵襲!!」
「待つにゃあああ!!」
杖を構えた訓練生へ、パンダが飛びつく。
「攻撃するなって昨日放送しただろ!」
「だ、だって動いたんですよ!」
「動く商品なんだよ!」
『グオオオオオ!!』
「ほら! また!」
「四万円!!」
「はい!?」
「一匹四万円するにゃ! 壊したら弁償だからな!」
訓練生が慌てて杖を引っ込めた。
「……危なかった」
「値段聞いたら急に冷静になったな」
深雪が笑っている。
「やっぱり値札つけて正解だったにゃ」
ガーゴイルの首には、
『商品です。魔物ではありません。攻撃禁止。金貨四枚』
と大きく書かれた札がぶら下がっていた。
「昨日は円の価値が分からないって言ってなかったか?」
「だから金貨四枚も書いたにゃ」
「学習だけは早いな」
その時。
「グルルル……」
「ん?」
ガーゴイルの前に、巨大な魔獣が一頭やって来た。
『グオオオオオ!!』
「グル?」
魔獣が首を傾げる。
『グオオオオオ!!』
「グルル?」
鼻先を近づけ、匂いを嗅ぐ。
そして前足で――。
ちょん。
「触るなぁぁぁぁぁ!!」
パンダが飛んだ。
魔獣がびくっとする。
「それ四万円するにゃ!」
「魔獣に円の価値分かるわけねえだろ!」
ビデオカメラを担いだ高橋が走ってくる。
「お前、勝手に離れるなって!」
「グル」
「金貨四枚にゃ!」
「もっと分かんねえよ!」
高橋の後ろから、さらに六体。
巨大な魔獣たちがぞろぞろ現れた。
「…………」
さっきの訓練生が固まった。
「パンダさん」
「なんにゃ?」
「今度こそ本物ですよね?」
「本物にゃ」
「本物なの!?」
「高橋の友達だから攻撃禁止!」
「魔獣七体も友達にしてるんですか!?」
「食い物やったら懐いた」
「そんな理由!?」
高橋が一頭の頭を叩く。
「お前ら、今日は大人しくしてろよ。俺は仕事なんだからな」
「グルル」
「お菓子は後!」
七体の視線が一斉に、お菓子の置かれたテーブルへ向いた。
「絶対分かってないにゃ」
「俺もそう思う」
◇
「はーい! みんな注目するにゃー!」
広場中央。
巨大スクリーンの前に、大勢が集まっていた。
地球人。
異世界人。
魔族。
龍族。
天界の者たち。
訓練生たち。
リアとナルは最前列。
その近くには雷蔵とアーネスト。
雷蔵と梅子の三つ子――カナリア、メジロ、ウグイスも一緒だった。
「カナリア、座ってろ!」
「やー!」
「メジロ! そっち行くな!」
「やー!」
「ウグイスは!?」
「僕が抱いてるよ」
アーネストがウグイスを抱きながら笑う。
「良かった……って、カナリア!」
カナリアがガーゴイルの方へ走っていく。
「そっちは駄目ぇぇぇぇ!!」
雷蔵が猛ダッシュ。
パンダがマイクを持ったまま眺める。
「雷蔵、ハロウィン始まる前から大変そうにゃ」
「三人同時に違う方向へ行くんだぞ!」
「防衛大臣より難易度高そうだな」
深雪が笑う。
「聞こえてるぞ!」
アーネストは楽しそうに手を振った。
「頑張って、雷蔵」
「一人捕まえてくれ!」
「ウグイス抱いてるよ」
「じゃあメジロ!」
「やー!」
「お前まで『やー!』って言うな!」
会場が笑いに包まれる。
「えー、気を取り直しまして!」
パンダがスクリーンを指差した。
「ハロウィン知らない人ー!」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
異世界組から大量に手が上がった。
「だよね!」
「だから商品が売れなかったんだろ」
深雪が言う。
「今それ言うなにゃ!」
パンダはスマホを操作した。
「まずは地球のハロウィンを見てもらいます!」
巨大スクリーンに映像が流れ始めた。
華やかな音楽。
色鮮やかな衣装。
カボチャやお化けで飾られた世界。
ディズニーのハロウィンパレードだった。
「わああああ!」
リアが立ち上がる。
「可愛い!」
「ナル! あれやろう!」
「やる!」
「座って見ろにゃ!」
真央も目を輝かせている。
「すごい。衣装も可愛いね」
「本当に楽しそうです!」
ポルガンは食い入るようにスクリーンを見ている。
リリーはすでに身体を揺らしていた。
「僕も踊りたい!」
「後で踊ろうよ」
「うん!」
その後ろでは芸術班が違う意味で盛り上がっていた。
「あの装飾、魔法なしですよね?」
「照明の使い方が面白い」
「色の組み合わせ、覚えておこう」
「魔法ならもっと大きく出来る」
「空にも出せるぞ」
「勝手に規模を拡大するなにゃ!」
パンダが叫ぶ。
しかし、すでに何人かがメモを取っていた。
「嫌な予感がする」
レオンが呟く。
「大丈夫にゃ」
「お前が言うと余計に不安だ」
その様子を、異世界テレビのカメラクルーが撮影している。
「リアちゃんの反応、撮ったか?」
「撮りました!」
「ポルガン様も!」
「二カメ押さえてます!」
高橋もビデオカメラを構えていた。
その足元には魔獣。
「お前、レンズの前に顔出すな」
「グル」
「近い近い!」
画面いっぱいに魔獣の鼻。
「高橋! 何撮ってんだ!」
「俺じゃねえ! こいつが入ってくるんだよ!」
◇
「では次!」
パンダがスマホを操作した。
「ハロウィンと言えば、これも有名にゃ!」
巨大スクリーンが暗くなる。
映し出されたのは――。
マイケル・ジャクソンの『Thriller』。
不気味な雰囲気。
そして、次々と現れるゾンビ姿の人々。
「…………」
異世界組が静まり返った。
「……パンダさん」
「なんにゃ?」
ポルガンがスクリーンを指差す。
「死者が出てきました」
「人間にゃ」
「え?」
「人間」
「でも……腐っていますよ?」
「腐ってない」
「顔が!」
「特殊メイク」
「トクシュメイク?」
「化粧にゃ」
「化粧!?」
ポルガンが立ち上がった。
「これが!?」
「そう」
「変身魔法ではなく?」
「違う」
「幻術でも?」
「違うにゃ」
「では、全部人間が作っているのですか?」
「そうにゃよ」
ポルガンがスクリーンへ向き直る。
ゾンビたちが踊り始めた。
「……!」
真央も目を見開く。
「全員、動きが揃ってる」
「すごい……」
リリーも夢中になっている。
「これも魔法じゃないの?」
「練習にゃ」
「これを全部覚えるの!?」
「そう」
ポルガンはしばらく黙っていた。
「地球には……魔法がないんですよね?」
「基本的にはないにゃ」
「なのに、ここまで……」
「魔法がないなら、別の方法で作ればいいにゃ」
芸術班がざわついた。
「特殊メイク……」
「面白いな」
「魔法と組み合わせたら?」
「出来る」
「幻影を重ねよう」
「地面から手だけ出すのは?」
「それ面白い!」
「採用!」
「勝手に採用すんなにゃ!」
「匂いも付けられるぞ」
「腐った匂いはいらないにゃ!」
深雪がパンダの肩を叩く。
「もう無理だ」
「何が?」
「火がついた」
「誰に?」
「全員に」
◇
一時間後。
「……なんでこうなった」
パンダが呟いた。
広場は、完全に別世界になっていた。
空には巨大な満月。
魔法で作られた雲が月を横切る。
無数の蝙蝠の幻影が飛び回り、地面には淡い霧。
墓石の間から半透明の幽霊が飛び出す。
『ヒヒヒヒヒ……』
カボチャまで勝手に笑っていた。
「誰だ! カボチャに声つけた奴!」
「僕です!」
「いい仕事してるにゃ!」
「褒めるのかよ!」
深雪が突っ込む。
「ママー!」
リアが魔女姿で走ってきた。
大きな帽子。
黒いワンピース。
手には小さな箒。
「見てー!」
「可愛いにゃあ!」
「飛べるよ!」
「え?」
リアが箒に跨がる。
「待て待て待て!」
ふわっ。
リアが浮いた。
「飛んだぁぁぁ!」
「魔女だから!」
「理由になってないにゃ!」
「リアちゃん飛びました!」
異世界カメラクルーが反応する。
「一カメ追え!」
「速いです!」
「引きで撮れ!」
「ナルもー!」
小さなドラキュラ姿のナルが走ってくる。
「ナルは飛ぶな!」
「なんで!」
「お前まで飛んだら捕まえられないから!」
「ずるい!」
その横をカナリアが走り抜ける。
「カナリアァァァ!」
雷蔵が追う。
さらにメジロが反対方向へ走った。
「メジロまで!?」
「雷蔵、カナリアは僕が行く!」
アーネストが追いかける。
「じゃあメジロ頼む!」
「逆だよ!」
「どっちでもいい!」
「パパー!」
「待ってぇぇぇ!」
「二カメ! 三つ子!」
「どの子ですか!?」
「全員だ!」
「無茶です!」
その時。
「グルル!」
魔獣二体が空を飛ぶリアを追い始めた。
「お前らまで行くなぁぁぁ!!」
高橋がビデオカメラを担いだまま走る。
「魔獣が動きました!」
「四カメ!」
「四カメありません!」
「高橋さん撮って!」
「俺は魔獣捕まえてんだよ!」
「カメラ回しながらお願いします!」
「無茶言うな!」
パンダはその光景を眺めた。
「まだパーティー始まったばっかりにゃよ?」
レオンが額を押さえる。
「もう帰りたい」
◇
「パンダさん!」
白い王子風の衣装を着たポルガンが現れた。
金色の刺繍。
腰には飾り剣。
「どうでしょう?」
「……普段とあんまり変わらんにゃ」
「えっ」
「元々王子様っぽいから」
「そ、そうですか……」
そこへ黒い魔女姿の真央。
「ポルガン、どう?」
「可愛いです!」
即答。
「ありがとう」
続いて白い悪魔姿のリリーが飛び出す。
「ポルガン!」
「リリーも可愛いよ!」
「本当?」
「はい!」
ポルガンが幸せそうに笑う。
パンダと深雪が顔を見合わせた。
「幸せそうだな」
「放っとくにゃ」
そこへ――。
「パンダ」
低い声。
振り返る。
「…………」
巨大な怪物が立っていた。
鋭い牙。
恐ろしい顔。
禍々しい身体。
「ぎゃああああああ!!」
近くの訓練生が逃げる。
「本物だぁぁぁ!!」
「本物にゃ」
「今度は本物なの!?」
「ランスロットにゃ」
怪物姿のランスロットが腕を組む。
「どうだ?」
「本当にヤグルト2000飲まなかったんだ」
「ああ」
「ハロウィンのために?」
「ああ」
「馬鹿だろ」
「お前に言われたくない」
「魔王様、本来のお姿です!」
異世界カメラクルーが叫ぶ。
「三カメ!」
「三カメ、雷蔵様追ってます!」
「じゃあ二カメ!」
「二カメはリア様!」
「高橋!」
「だから俺は魔獣追ってんだよ!」
「カメラ足りねえぇぇぇ!」
「何の番組作る気にゃ!」
そこへ一頭の魔獣がやって来た。
「グル……」
怪物ランスロットを見る。
ランスロットも魔獣を見る。
「…………」
「…………」
「グル」
「なんだ?」
「会話成立してるにゃ!?」
さらに別の魔獣がガーゴイルの前へ。
『グオオオオオ!!』
「グルル!」
「ガーゴイルに喧嘩売るな! 四万円にゃ!」
「また値段かよ!」
深雪が腹を抱える。
そこへミカエラが歩いてきた。
怪物姿の夫を見る。
「あなた」
「なんだ?」
「明日からは?」
「飲む」
「ならいいです」
「いいんだ!?」
深雪が叫ぶ。
「夫婦ってすごいにゃ……」
「お前らも大概だろ」
「何が?」
「何でもない」
◇
突然、音楽が鳴り響いた。
「今度はなんにゃ!?」
広場中央。
龍十二兄弟が横一列に並んでいた。
「まさか……」
十二人が一斉に動き出す。
先ほど見た『Thriller』のダンスを真似していた。
「覚えるの早っ!」
「龍十二兄弟、踊りました!」
「カメラ!」
「もう全部撮れぇぇぇ!」
十二人の動きが揃う。
「おおおおおお!!」
歓声。
「私もやる!」
リアが箒から飛び降りる。
「僕も!」
リリーが飛び込む。
真央も続く。
「ポルガン!」
「俺も行きます!」
「絶対踊れないだろ!」
「頑張ります!」
ナルまで混ざる。
三つ子も意味も分からず身体を揺らし始めた。
「カナリア! そっちならいい!」
雷蔵が息を切らしながら叫ぶ。
「もう走らなければ何でもいい!」
アーネストが笑う。
「雷蔵も踊る?」
「体力残ってねえよ!」
魔法班が空へ光を飛ばす。
芸術班が幻影を追加する。
龍族が踊る。
魔族も踊る。
地球人も踊る。
異世界人も踊る。
数十人。
数百人。
いつの間にか、振り付けなんて誰も気にしていなかった。
「レオン!」
「嫌だ」
「まだ何も言ってない!」
「踊れと言うんだろ」
「踊るにゃ!」
「嫌だ」
パンダが腕を掴む。
「来い!」
「引っ張るな!」
「お祭りにゃ!」
「分かったから走るな!」
その横を深雪が駆け抜ける。
「俺は行くぞ!」
「深雪ノリノリじゃん!」
「こういうのは楽しんだ奴の勝ちだ!」
「その通りにゃ!」
高橋の魔獣まで、人間たちを見ながら身体を揺らし始めた。
「グル! グル!」
「お前らまで踊るの!?」
高橋が叫ぶ。
一頭が立ち上がる。
「立つな! 怖いから!」
「グルル!」
「カメラこっち!」
「撮れるかぁぁぁ!」
◇
「トリック・オア・トリート!」
今度は子供たちがお菓子の袋を持って走り始めた。
リア。
ナル。
カナリア。
メジロ。
ウグイス。
「お菓子をくれなきゃ悪戯するにゃ!」
なぜかパンダまで袋を持っている。
「パンダ、お前まで何してる」
「ハロウィンに年齢制限なんかないにゃ!」
「大人が本気で菓子を取りに来るな」
「お菓子!」
「持ってない」
「じゃあ悪戯する」
「やめろ」
パンダがにやりとする。
「何しようかな」
「ろくなこと考えるなよ」
その瞬間。
「トリック・オア・トリート!」
五人の子供がレオンへ突撃した。
「うわっ!」
「お菓子ー!」
「五人同時は反則だろ!」
「レオン! 早く渡すにゃ!」
「だから持ってない!」
「じゃあ悪戯!」
「待て!」
子供たちが一斉にレオンへ飛びかかる。
「帽子を取るな! 誰だ背中に何か入れたの!」
「逃げるにゃー!」
「パンダ! お前も共犯だろ!」
「知らないにゃー!」
パンダが逃げる。
レオンが追う。
子供たちも追う。
「カナリア! 走るな!」
雷蔵が追う。
「雷蔵、メジロが反対!」
「ええ!?」
アーネストも走る。
「魔獣二体ついて行ったぞ!」
「戻ってこーい!」
高橋も走る。
「カメラ! 追え!」
「誰をですか!?」
「全員だ!」
「無理です!」
リアが途中で箒に飛び乗った。
「空は反則!」
「わーい!」
『グオオオオオオ!!』
「ガーゴイルまで鳴くな!」
怪物ランスロットの横を全員が駆け抜けていく。
ランスロットは酒を一口飲んだ。
「賑やかだな」
「あなたも行ってきたら?」
ミカエラが言う。
「我はここでいい」
その瞬間。
一頭の魔獣がランスロットの酒を舐めようとした。
「これは駄目だ」
「グル」
「駄目だ」
「グルル」
「高橋」
「今度は何だぁぁぁ!」
◇
夜は更けていった。
食べて。
飲んで。
踊って。
走って。
笑って。
誰かが転べば、誰かが手を差し出す。
言葉が分からなければ、隣にいる誰かが教える。
国も。
種族も。
生まれた世界も。
今だけは、誰も気にしていなかった。
パンダは少し離れた場所から、その光景を眺めた。
「……やって良かったにゃ」
ようやく解放されたレオンが隣に立つ。
「ああ」
「遅れたけど」
「かなりな」
「楽しいからいいじゃん」
「そうだな」
レオンも笑った。
少し離れたところでは、雷蔵が三つ子を膝に乗せて完全に疲れ果てている。
アーネストが笑いながら飲み物を渡していた。
高橋の周りでは七体の魔獣が食べ物をもらっている。
異世界カメラクルーは、まだ撮影を続けていた。
「これ、編集する奴大変だろうな」
深雪が呟く。
カメラクルーが一斉に止まった。
「…………」
「今気づいたのかにゃ?」
「撮りすぎました……」
「頑張れにゃ!」
「他人事だと思って!」
その瞬間。
『グオオオオオオオ!!』
『グオオオオオオオ!!』
『グオオオオオオオ!!』
三体のガーゴイルが同時に吠えた。
「うるさいにゃ!」
パンダが振り返る。
「誰だ! 三体同時にスイッチ入れた奴!」
龍族の一人が手を上げた。
「俺だ!」
「消してこい!」
「嫌だ!」
「待てこらぁぁぁぁ!!」
パンダが走る。
龍族が逃げる。
「パンダが走った!」
リアが追う。
「僕も!」
ナルも追う。
三つ子まで立ち上がる。
「お前らは行くなぁぁぁ!」
雷蔵が飛びつく。
真央が笑いながら走り出す。
「ポルガン、行こう!」
「どうして俺まで!?」
「僕も行く!」
「リリーまで!?」
「グルル!」
「魔獣も行くなぁぁぁ!」
高橋が追う。
「カメラ回せ!」
「まだ撮るんですか!?」
「最後まで撮れ!」
異世界カメラクルーまで走り出す。
深雪は腹を抱えて笑い、レオンは額を押さえた。
怪物姿のランスロットは、その光景を静かに眺めている。
「平和だな」
「どこがだよ!」
レオンの声が夜空に響いた。
少し遅れて始まった、異世界初のハロウィン。
予定通りにいったことなど、ほとんどなかった。
けれど――。
きっと来年も、やるのだろう。
今度はちゃんと、十月三十一日に。
たぶん。
きっと。
忘れていなければ。
後書き
ランスロット
ミカエラに怒られると思ったが、大丈夫じゃった。




