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「人である事を止めた、というのは誰が決めたのだろう」

 問いかけに対して対する答えはない。「そもそも人であった、という事はあるのだろうか」

 疑問に対しての答えは頭の中にはない。

「だからといって今が人ではない、という事をどうやって証明するのだろうか」幾度となく問いかけたとしても結果は変わらない。

「結局いつも同じ、『自分』が何であるかも『分からない』という回答」

 口に乗せるのが虚しくなるが、其れこそが”そいつ”の答え。

 マイケルは自白に近い言葉を何度となく風に乗って聞いた。

「人としての記憶は存在する」しかし、と口は続ける。「人らしい生活をしたという記憶であり、目的、目標、結果としては結局、神への供物の”繁栄”以外にない」

 違う、とマイケルは駆ける。

 大地に刻まれる衝撃は土を巻き上げ、雑草を根ごと宙へと舞わす。

 疾風と形容される動きに対して、眼前に居るローラだったものは、不動。

 ”A”の音を基本とし喉頭からバイオリンめいた音を出し続け、共鳴場所を探す様にピッチを多少に変更させる不気味な行動をとる。

 メアリーも、ルークも、多くの兵士たちの誰一人も理解できぬローラだったものの行動に、ただ一人、直感的な恐怖を背に受けて動いたのはマイケルだけだ。

 銃弾は届かない。

 見えぬ不可視の翼は、障壁として立ちはだかる。

 銃弾を撃ち込む度に、翼が舞い、世界に満ちた《星》(ステッラ)を巻き上げて、プラネタリウムの様な幻想的な空間を作りだしていた。

 マイケルは、真紅の瞳を滾らせ周囲の者達に警告する。「生き残りたいのなら、さっさと動け!」動く内容を指定せず、願望に似た言葉に、誰も彼もが武器を取る。

 眼前にいる物が何か、と理解する必要なく、《星の娘》(ローラ)へと殺到した。

 彼らの眼前に居るモノは人の姿を最早保っていない。

 金色の頭皮からイソギンチャクの触腕の如く伸びた幾本もの線状の物体は髪の毛が同化し形成された《星の娘》(ローラ)の目だ。

 眼底が一旦露出し、直ぐに分厚い鎧の様な皮膚で覆われ、宝石の様な眼球を外部へと圧出する。転げ落ちたたんぱく質の物体は地面に落ちると、ドロリと液体に変わる。

 首筋から肩にかけて女性的なラインが元々あった場所に、魚の鰓を思わせる様な線状の筋が見受けられ、呼吸で前後する胸に合わせて、パクパクと外気を取り込んでいるのが分かる。

 《星》(ステッラ)を取り込んでいる事は、マイケルには理解できたが、それが《星の娘》(ローラ)の行う食事と同等だとは理解できていない。

 長い腕はより肥大化した指を持ち、しかし、ぐっと延伸され、関節の一節が10センチ程度はある。力の入らなそうな形状であるにも関わらず、右手で捉えたスコップの柄が一掴みで”粉砕”せしめると、戦慄を周囲に与えた。

 全身を覆っていた服装は、肥大化する表皮によって食い破られ、糸くずに変わった。

 死体をより集めて作られた様な醜悪な外見を持つ足は、四つの足が二本にづつ癒着している様に見える程、互い違いに筋張っていた。

「アレは何だ?」

 悲鳴は上がらない。疑問は上がる。何か、と知識が裏打ちしない。

 人が見てた機能的な形状とはかけ離れた形状であるにもかかわらず、背に纏われた七本の翼が視界に入った時、其処にいるすべての人間が理解した。

「あぁ、神よ――」

 それは祈りを求める物ではない。

 つぶやきは、懺悔する物だ。

 マイケルも、動きを止めた。

 縦横無尽に駆け巡り、《星の娘》(ローラ)を切りつける方法を探っていはいたが、隙が無いことを悟る。一発でも手を出せば、約4メートルの範囲に居た場合、死ぬことを理解していたからだ。

 翼の一撃で木っ端みじんになる事は想像できた。

 武力、という物で粉砕する事が可能なのか、マイケルには想像がつかない。

 この相手というのは、”虚”だという事を知る。

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