↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/65

8.霞の少年はそこにいない

「シュン様、ですね。どうぞ」

「あ、はい」


研究所から出た俺はフロレンが用意した馬車に乗る。

イワミたちと一緒に乗ったものよりは小さいものの、

一人二人ならば十分なスペースがあるものだった。


戸を閉めようとした瞬間、冷たい風が吹き抜けた。

季節外れの風に目を瞑ってしまうが、そのまま閉める。


「ふぅ。今日は疲れた…。いや今日も、か」


自分で勝手にやってる事だから仕方ないんだけどな。

しかし体力だけはどうにもならず、よいしょ、と腰かける。


「お兄さん、おじいちゃんみたいだね」


と、不意に正面から声が聞こえる。

聞き覚えのある声だが、流石に誰もいないはずの車内で聞こえるのはおかしい。

そんな不思議な登場の仕方をした声の主に問いかける。


「…フィーア、なんでこんなところに」

「いやぁ。お兄さんがいたからつい、ね」


フィーアはくすくすと笑いながらそう答えた。

フードの下には小柄な顔と、生気の薄い目が覗く。

それはまるで…。いや、これ以上考えるのは止そう。


「それじゃ出発しますね」


馬車を引くケンタウロスの人から声がかけられる。

俺はそれに「はーい」と雑に答え、

同時にガタガタと揺れながら馬車が進みだした。


さっきフィーアは俺がいたからと答えてくれたのだが、

聞きたい事はそういう事じゃないので少し質問を変える。


「じゃあ、どうやってここに?

 確かこの馬車には俺しかいなかったはず」

「あぁ、それね。くすくす」


フィーアは身を乗り出し俺に迫る。

反射的に俺は体を後退させるが後ろは壁(木製)だ。

そのままフィーアは手を伸ばし俺の顔に…


冷たい風が、頬を掠めた。


「…どういう、事だ?」

「オレ、実はね…。幽霊なんだ」


フィーアの手は確かに俺に当たっているが、感触はない。

ただうっすらと冷たい空気がそこにあるかのような…


見えているのにそこにはいない。

錯覚めいていて自分の目が信じられなくなる…


が、ここ数日で人生十回分くらいの経験をした俺はその程度では動じない。


「そうか、幽霊か…なるほど。こっちには幽霊までいるんだな」

「あ、あれ…思ったより驚かないんだね」


俺はここが異世界であるという事を改めて認識した。

翼の少女や単眼の少女がいるなら幽霊がいてもおかしくないだろう。


そもそも魔法とかいうよくわからんものが蔓延っている世界だ、

魂とか精神とかその辺りが勝手に動いても何ら不思議ではない。


なので、俺はフィーアの暴露を素直に受け入れた。


「なんていうか…もっとこう、

 疑ったり怖がったりするものだとばかり…」

「むしろ人間の社会で生きてても幽霊の話は何かと聞くし、

 他のこっちの世界の人たちよりも馴染み深いまである」


怪談とか肝試しは夏の定番だよね。俺はやった事ないけど。

学校の七不思議とかもよくある話だ。うちにはなかったけど。

…俺の人生何もねーな。


「えっ! じゃあ、人間たちの世界にはオレみたいなのはいっぱいいるの!?」

「いや、話として伝わってるだけで実際いるかどうかは…

 けど目の前にいるしもしかしたらいるかもな……」


異世界に来る前の俺なら「幽霊なぞいない」と断言していただろう。

しかしこっちに来てからというもの色々な事を経験し過ぎた。

俺の認識を塗り替えるには十分な程に。


元の世界だって幽霊の一人や二人いてもおかしくないんじゃないか?


「そう…もしいたら、嬉しいかな…」


フィーアは俺を見ているのか、

それとも俺の中に人間たちの世界を見ているのか。



馬車は進み、研究区間を抜けて採集区間に入る。

そこから少し経つと、イワミの屋敷が見えてくる。


「あれが今居候してるイワミって人の屋敷だよ。

 みんないい人ばかりで俺が迷惑ばっかかけても追い出さないんだ」

「へぇ…。くすくす、お兄さんそんなに悪い事してるの?」

「別に悪いことはしてないが…勝手に色々起こるんだよ」


浴室から黒い巨人がでてきたり懐刀が別の主見つけてきたりな。

そうこうしている内に屋敷に到着し、俺は降車する。

数時間ぶりのいつもの屋敷だ。


「あ、そうだフィーアの事をみんなに…あれ?」


振り向き馬車の中を覗くと既に誰もいない。

まぁ幽霊だから姿を消すのもお得意なのだろう。

他の人に会うのは恥ずかしいのか?


走り去る馬車を見送っていると、元気な声をかけられる。

…上から。


「おーい、シュンよ。おかえりなのじゃ!」

「あぁ、ただいま。…ってうわぁお!?」


イズモが屋上からおかえりと言いながら降ってきた。

彼女は空中で綺麗に回転し直立姿勢のままバァァァァーン! と着地する。

人間なら下手すれば即死まであるその行動に

彼女が異世界の人である事を再認識させられる。


「窓から馬車に乗っておるシュンを見かけてのう。

 何やら話しておるようじゃったが、誰じゃ?」

「あぁ。さっき幽霊の奴と話しててな。

 いつの間にかいなくなったけど」


フィーアの事を紹介したかったのだが、彼が見えないので仕方ない。

しかし、そんな俺の言葉を聞いたイズモは素っ頓狂な顔をしていた。


「幽霊…? シュンよ、それはどういう事じゃ」

「え…」


彼女の反応は別に冗談で言っているわけではないようだ。

幽霊という言葉が馴染みのないものだったか…?


「幽霊って、あれだよ。死んだ人が化けてでてきてって奴」

「無論それは知っておる。物語の登場人物としてな…

 しかし、それは空想上の話じゃ。現実のものではない」


なんだ、これは。つまりどういう事だ?

何か誤解があるだけだろう。そうだと言ってくれ。


「もしかすると魔法によって投影された映像を見せられていたか…

 あるいは、何者かによってシュンが幻覚を見せられた可能性もあるのじゃ」

「映像…、幻覚って…」


そんなはずがあるものか。とは断言できない。

俺はあまりに魔法というものを知らなさ過ぎるのだ。

さっきまでくすくすと笑っていたフィーアは映像だったのか?

俺が誰かにかけられた幻覚なのか?


そこでふと、あの馬車に乗っていたもう一人に気がつく。


「エル、俺とフィーアの会話はお前も聞いていただろ?」

『…シュン様』


スマホの画面のエルは、申し訳ないような顔をしていた。

それを見て俺は先に続く言葉をある程度察した。


『馬車の中に、確かにシュン様の行動に呼応する値の揺らぎが御座いました。

 それが魔法により生成された像なのか、幽霊と呼ばれる存在なのか…

 区別をつける事は、わたくしにはではできません』

「…そうか。有難う、エル」


イズモは幽霊なんていないと言い、エルですら判断できない。

フィーア、お前は何なんだ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。