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3.瞳の少女を知りたい…2

「な、なにやってるんですか…!」


気が抜けていたところにいきなり胸倉を捕まれる。

服や髪と同じ黒い手袋のそれは、ライラの手だった。

その細い指と腕から想像もつかないような力でしめあげられる。


「あんな事して…! 怪我したらどするんですかっ」


今現在進行で怪我しようとしているんですがそれは…


ライラの手に更に力が入り、俺はそのまま持ち上げられる。

流石に苦しくなり両手でライラの腕を掴むが

それでどうもならない程に彼女の力は強い。


「なんで割って入ったりしたんですか!」

「なんでって…あんな事言われて、平気でいられるわけないだろ…!」


俺が何と言われようがどうでもいいが、

すぐ隣にいたライラに酷い事を言われるのは耐えられなかった。


そこではっと、ライラが俺と似ていると感じた事を思い出す。


「私は大丈夫なのに…慣れっこなのに…」


つまり、ライラも一緒なのだ。

自分がどうなろうと平気だが、俺が危ない目に遭うのは許せない。

なんとも、上手く噛みあわないものである。


ライラが力を緩めて手を離す。

俺は地面に足がつくと、ゲホゲホと少し咳き込み気道を治す。

彼女は俯きながら小さく言う。


「…すいません。ついカッとなって手が出てしまいました」

「俺も、後先考えず飛び込んで悪かったよ」

「じゃあ、お互いさまということで」


ライラがこちらを向き安堵の微笑みを浮かべる。

つられてこちらも少し気持ちが安らぐ。

彼女にはそんな優しい表情がよく似合う。


そんな彼女を辛い日々に置き続けていいはずがない。

何より、俺がそれを許さない。


「で、今日はこれから何をするんですか」

「あぁそうだな。じゃあライラの家にでも行くか」

「わかりました。少し歩きますよ」

「えっ、マジか…」


特に行く場所も考えてなかったので冗談半分でライラの家と言ったら

まさかの即オーケーでそのまま彼女の家に向かう事となった。


正直、ちょっと無警戒すぎやしないだろうか。

あるいはそこまで俺に心を許していてくれているのか。

これをちょろいと言うのなら、正に俺みたいなちょろさだ。



研究区間の方面へまた暫く歩き、

途中でフロレンのところへ向かった際とは別の方向に曲がる。


そこは居住区らしく、大きな石と木の建物が乱立していた。

それはイズモの家のような屋敷というよりも、

アパートや寮といった集団住宅の類に見えた。


俺はライラの後をついていき、ある建物の中に入り階段を上る。

更に廊下を歩いて少し疲れたくらいでライラはやっと止まった。


「ここが私の家ですよ。まぁ両親がいた頃はもっと別のところだったのですが…」


彼女は慣れた手つきで扉をなぞり、

それに反応してカシャン、と開く音がする。


かつてイズモが俺に見せた、異世界での開錠だ。


「人を上げるのは初めてなので散らかってるかもしれませんが…」

「いや多分俺の実家の方が散らかってるから安心してくれ。

 おじゃまします」


ライラの言葉に反して、その家…というより部屋は片付いていた。

大きな棚にはいくつかの資料が保管されており

机やテーブルも一人暮らしなら十分な大きさだと思う。


俺はライラに言われテーブルにつき、ライラが茶を淹れて正面に座る。


「こういう時どういうんでしたっけ…えっと、ソチャですが?」

「そんな畏まらなくても…。まぁ、頂きます」


出されたお茶を一口含む。…し、渋いっ! 苦いっ!

昔のお茶はこんな感じだったのだろうか。

ちょっと二口目は時間を置かないと難しいと思うので

先に用事を済ませよう。


「エル、じゃあ頼んでおいた事やって貰えるか」

『はい、シュン様』


俺はスマホを取り出し、ライラに見せる。

彼女は興味深そうに画面の中の絵文字…エルを観察する。


『初めまして。エルと申します。

 シュン様のスマホをやらせて頂いております』

「わっ、これ喋るんですか…どうなってるんだろう」


それは俺も知りたいかな。

けど多分エルの構造について知ろうとしてもきっと理解できない。

まぁ主に俺が無知なせいなんだが。


『これよりライラさん及びその装備品の魔力反応を調べます。

 ライラさん、宜しいですか?』

「魔力反応? これ、そういう事ができる魔導機械なんですか。

 凄いですね…

 大丈夫ですよ。特に複雑な装置も持ってないので」


そういう事「も」できる機械なんだけどな。

むしろ大体の事はできそうな気がする。


「脱いだ方がいいですか? ならちょっとシュンさんがいると…」

『いえ、そのままで結構ですよ。すぐ終わりますので』


おぉ、凄い…とライラがエルのハイスペックに感心する。

画面のエルはかなりのドヤ顔で、

やはりこいつは褒められると調子に乗るタイプだと俺は確信した。


「けど何で魔力反応なんか調べようと?」

「いや、ちょっと気になった事があってな…」


俺はライラに浴室で起こった事を話すか迷った。

黒い巨人が俺を襲ったなんて言ったらまた心配させてしまうだろう。


風呂で俺を襲った巨人は「あの女に近づくな」と言っていた。

タイミングからしてあれはライーサかライラだと思うのだが、

もしライーサならば俺より長時間いたであろうイズモが襲われているはずだ。

そこからライラに何か手がかりがないかと探しに来たのだが…


『…はい、終わりました。シュン様の予想通りです』

「そうか。まさか本当にあったとはな…」


俺はエルに予め「ライラの周囲に何か怪しい物がないか調べたい」とだけ伝えていた。

我ながら曖昧で言われた方も困るような頼み方だが、

エルは素早くそれをこなしてくれたようだ。


『ライラさんの持っていたポシェットの中身…そこから反応があります』

「私のポシェットですか? 確かに簡単な実験道具とか入ってますが…」

「ライラ、悪いが中を見せて貰えないか」


彼女は言われるがままに黒いポシェットの中身を取り出していく。

俺はここでなんとなく元の世界にいた頃の持ち物検査を思い出し、

ちょっとだけ懐かしくなった。


ライラが何か白くて四角いものを取り出したところで、エルが止める。


『そのカードです。そこから時限性の拡散魔力痕を確認できました』

「…これか。この前博士から貰ったのに似てるな」


大きさや材質はフロレンから貰ったゲストユーザーなんとかのカードと同一に思える。

ライラの物には「ダニエル研・研究員」と書かれている。


「これ、私が所属してる研究室で身分証明するためのものですが…

 そこから何か変な反応でも?」

「ダニエル研って、つまりダニエルって人の研究室なのか?」

「はい。ダニエル・マク・ツーエマ教授、遠隔魔導技術の権威ですよ!」


ダニエル・マク・ツーエマ。彼女の所属する研究室の教授。

見ず知らずの人にこういう事を思うのは悪いかもしれないが、

俺は反射的にダニエルという人を疑わざるをえなかった。

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