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1.農耕への転換点

「なんだこいつは…。こんな形状の魔獣、初めて見たぞ」


動かなくなった異形の魔獣の周囲に異世界の人たちが集まる。

その謎すぎる正体を前に恐る恐るつついたり覗き込んだり。


一方の俺はあんなとんでもない魔獣と戦い疲れたので、

場所で休ませて貰っている。


「どうしましたご主人様。また大金星を挙げたのに晴れないお顔ですよ」

「そりゃあこんななりじゃあな」


眼鏡を装備しメイドモードに戻ったメイが話しかけてくる。


俺をこまれせているのはその疲れだけじゃなく、

体に深く差し込んだおかげで体中血だらけという事だ。

とりあえず拭いて は貰ったが服全体にしみ込んだ分はどうしようもない。


べっとりとした重さと気持ち悪さが全身にかかって嫌な気分になる。


「これ焼いたら食えると思うか?」

「いやぁ無理だと思うぞ」

「そうか。じゃあ捨てるか…」


豚のお兄さんと猪のお兄さんが魔獣を前にして何か話している。

流石にあの魔獣はどうも食用に適さないみたいだ。

俺も流石にあんな変な生き物は食べたくない…


『…あまりここでのやり方にケチつけるのはよろしくない事を承知で言いま


すが、

 あれを廃棄するのは流石に勿体ないと思います』

「どういうことだ? エル」

『あの魔獣はここで ハーレティクスと呼称されている存在により変質したも


のです。

 その性質変化は恐らく彼らにとって前例のないものであり、

 ハーレティクスの構成物の解明だけでなくその力の一端へ繋げる事も可能


でしょう」

「つまり、ハーレティクスの正体についてわかるかもしれないのか…」


それはかなり魅力的な…いや、千載一遇の機会のように見える。

今まで未知だったハーレティクスに僅かでも近づくことができるのだ。


しかし俺の一存で勝手にあんなでかいゴミ持って帰ると決めていいものなの


か…

そう考えていたところにロバートさんがやってくる。


「やぁ 、シュン。無事でよかったよ」

「ロバートさんもご無事で何よりです」

「しかしまた君に助けられてしまったね」


座り込む俺にロバートさんは膝を折り話しかける。

彼も所々傷があり、完全に無傷とはいかなかったようだ。


「みんなは気づいていないけど、あの大きな斧も君のものだろう?」

「えぇ、まぁ…」


俺というよりはエルのものなのだが。

そうだ、あの魔獣の処遇についてこの機会に聞いてみよう。


「ロバートさん、あの魔獣…? みたいなのってどうなるんですか」

「あれかい? それならあの魔獣を倒したシュンが決めるんだよ」

「俺が…?」

「あぁ。みんなで 倒したならみんなで決めるんだけどね。

 今回はほとんどメイと君で倒したようなものだろう?」


まぁ、確かにそういわれればそうかもしれないが…

最後の場面でみんなの援護によって助けられたため、

堂々と俺が倒したと言えない自分がいる。


「それで、メイは君に一存すると言っているし…そうだね?」

「はい。わたしの全てはご主人様にお任せしております」


メイがこう言うので俺があれをどうするか決めて良い事になったらしい。

なら、特に迷う必要はないか。


「じゃあ…あれ、持ち帰れますか?」

「勿論だ! そのために私たちはいるからね」


ロバートさんが胸 を張り任せてくれと言う。

その答えを聞いて一先ず安心する。


あの奇妙な魔獣の亡骸。それは既に命を失っているのに暖かい。

それが何を生み出すのか、俺は何も知らない。



町に戻った俺たちは後の処理を一旦任せて屋敷に向かう事にした。

俺がいても何もできないだろうし、

そもそも一刻も早く着替えてしまいたかった。


屋敷に戻ると、まずイズモと遭遇した。


「おうシュンよ。戻ったか…うわっ」

「うわってひどくない?」


俺の血みどろ状態を見てイズモがドン引きする。

そんなにひどいか…


「ま、また大変な目に遭ったようじゃの…」< /div>

「まぁな…今回も相当大変だったけど、みんな無事だったよ」

「そうか。それは何よりじゃ」


イズモはにっこりとしながら答えてくれる。

そこにあ、そうじゃそうじゃと続けて、


「今から風呂に行くのじゃろう? その後屋上に来てくれんかの。

 見せたいものがあるのじゃ」


見せたいもの? なんだろう。

きっと彼女の事だ、素晴らしいものに違いない。

通り過ぎるイズモの背中(と尻尾)を見送ると俺は浴室に向かった。



先人がいない事を確認してから素早く体を洗い、

きっちり100秒数えてあがる。

そして再び更衣室に誰もいない事を確認(エルが教えてくれ た)すると

備え付けの服を取り出し着替える。


我ながら完璧な流れだったと思う。


着替え終わるとメイが超高速で風呂の扉を開ける。

ギュインという尋常ではない音が鳴り響き、

俺は何か緊急事態かと心配になるが。


「ま、間に合わなかった…!」

「何を言っているんだお前は」


そう、俺が一瞬の隙もない完璧な流れで風呂に入ったのは

屋敷の誰かと風呂で鉢合わせするようなトラブル防止のためもあるが、

恐らく前の時と同じく突入してくるメイを警戒しての事だった。


「しかし、次は…次こそは…!」

「できれば入ってこないでね。お願いだから…」

女の子と、しかも同年代で相当可愛い子と

一緒に風呂に入るなんて夢のようだと思う人もいるかもしれない。

しかし実際それをやられると嬉しさの数千倍は恥ずかしさとか申し訳なさと


か

負の感情が勝ってしまいのだ。


一応メイに入ってこないよう頼んでみるが、

多分しばらくしたら何か理由つけて入ってきそうだなとは思った。



俺はメイに屋上の行き方を聞き、イズモの元に向かう。

教えられた屋上に入る扉の前にイズモが仁王立ちで待っていた。


「ふふふ、よくぞ参った。シュンよ。

 わらわも飯食って本読んで飯食って寝るだけではないぞ!

 見よ! こ れがわらわのハイパーイズモシステムじゃ!」


イズモがニートのそれではないと意気込んで屋上の扉を開ける…


そこにあったのは、屋上菜園であった。

何種類かの作物が乱雑にだがある程度の間隔をあけて植えられている。

畑としては決して広くはないものの、

家屋の上でやるにしてはかなりの面積である。


「わらわ採集区間の古い資料の中に作物の育て方が載ってあっての。

 そこに資料やエルが教えてくれた植物を持ってきたのじゃ」

「えっ、じゃあこれまさか土から全部持ってきたのか…?」

「おう。流石に一人じゃ無理そうじゃったから色々手伝ってもらったがの」


そこまでする気 合いの入れように感心するが、

何故屋上に作ったのだろう。


「下に作れば楽なのじゃろうけどな。

 万が一荒らされたり盗まれたら多分わらわ相当キレそうじゃし…」

「あっ、なるほど」


誰かによって畑がダメになるという可能性を考えていなかった。

どうもこの町に来てからみんなが優しくてそういった事に疎くなってしまう


。


「あと植物は日光で育つとも聞いたからの。

 太陽に近ければいいというものではないと思うが…

 この辺りに作ってしまうと建物が多くて日陰になりやすい」


「更にここならば水道が繋がっておるから水を撒きやすい。

 シュンよ、 なんと植物は日光と水があれば育つのじゃ!」


流石にそれくらいは知っている、と言いたいがそれを言う程野暮ではない。

何よりイズモが満足そうで、俺もなんだか嬉しくなってくる。



この畑…ハイパーイズモシステムがそう遠くないうちに町を激変させるのは

流石の俺でも容易に想像ができた。

狩猟採集の終わりは、こうして一人の少女によってもたらされたのだ。

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