36.異形の終焉
「なら、もう一発…!」
俺は反射的に再度トリガーを引く。
しかし、ガチンと鉄を打つ音がなるばかりで弾は出ない。
「くっ、そうか、リロード…!」
『シュン様、対象に高密度のマギア反応を感知! 危険です!』
ハーレティクスの破片が淡い光を持つと同時に、
エルの警告が響き渡る。
今まで散々見た、光線の予兆だ。
「あぁぁぁああああああああ?? ああああぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
魔獣の咆哮が一層激しいものとなる。
普通に避けようとしても間に合わないと感じた俺は、
銃を投げ捨てその反動を活かし飛び込むように回 避する。
そして、
ビィィィ!! ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!
怪物の腹…そこにあるハーレティクスの破片から、
夥しい数の短い光線が雨のように拡散する。
それは俺のすぐ上を通り過ぎると、
後ろの木々や坂を抉るように次々と撃ち抜いていく。
「誰かに当たってたりしないだろうな…!」
呑気な俺はこんな場面でも他の誰かの心配をしてしまう。
しかしこの威力の攻撃を浴びれば
頑丈な異世界の人たちでも一たまりもないだろう。
『この攻撃は内部で錬成されたマナを
乱雑に吐き出しているだけのようです。
残 り十数秒でマナを消費し尽くし一旦停止すると思われます』
エルが魔獣の攻撃について解説してくれているが
それを聞く余裕はちょっとない。
こいつ等に関わると伏せてばかりだな俺、とつくづく思う。
しかし本来ならば死んでておかしくないような相手なのだ。
生きているだけツイてるくらいに考えておこう…
『間もなく攻撃が終了します…3、2、1…0!』
エルのゼロという言葉を聞くと同時に光線がピタリと止まり、
俺は持てる力全てを使い最高速で起き上がる。
そのままエルをタッチし武器を取り出さなければならないのだが、
つい魔獣の攻撃を受けた森に目がいってします。
「……!」
それはあまりに酷い有様だった。
木は焼け地面は抉れ、草は土と混ざり黒いスープ状に溶けている。
なんと恐ろしい攻撃だろうか。
あの中に誰かいたりしたらと、ふと考えてしまう。
そうして視線を逸らした、その一瞬が命取りとなる。
『シュン様! 上です!!』
再びエルの警告が俺の耳から頭までを響かせる。
上から魔獣の巨大な腕が振り下ろされる…!
まずい、これは間に合わな…
「ドォォォォォォリャァァァァァァァァァァ!!!」
ズッシャァァァァアアアアアアアアア!!
絶体絶命のピンチに駆け付けたのは、
とんでもない速さで突貫してきたメイだった。
その巨大包丁を魔獣に突き立てる様は
既にメイドどころか狩人すら超え、生きた一本の刃のようである。
「これで! どうだァァァァ!!」
ザシュゥゥゥゥゥゥウウウウウ!!
バッシャァァァァァァアアアアアアアア!!
メイは包丁を引き抜き更に右方向へ回転し勢いをつけて斬りつけ、
更に上から下へと力いっぱいに叩き切る。
その連続攻撃によりダメージを受けすぎたのか、
魔獣は腕を引っ込め彼女から逃げる。
メイはくるりと回転し、綺麗に着地する。
そのままこちらに駆け寄り、魔獣から守るように俺の前に 立つ。
「ご主人様、大丈夫か!?」
「あぁ、助かった…。有難う」
「そうか…。よかった」
目の前に立つ背中は容姿こそ少女のそれだが
その風格は完全に戦士のものである。
俺は彼女が前に立っている事に男としての情けなさを感じると同時に、
この頼りがいのあえる姿に心強さも抱いていた。
「エル、こいつはECなんとかってのを使わないと倒せないのか?」
『いえ、シュン様。対象は高次元顕現物質を取り込んでいるにすぎませんので、
その部位を破壊すればマナ構成を保てなくなり崩壊します』
つまりあのハーレティクスの破片を取り除けばいいらしい。
段々とエルの言わんとする事もわかってきた。
『こちらが推奨される…』
エルの画面にいくつかのアイコンが表示されると同時に、
魔獣に変化が起こる。
「あぁぁぁあああああああああああ!! あぁぁあああああ??」
露出したハーレティクスの破片。その周囲が次々に隆起する。
それは次第に鋭くなり…
「ご主人様、来るぞ!」
そのまま槍のようにこちらへ突進してくる。
ここにきてまだ新しい攻撃を持っているというのか。
そのサービス精神はちょっと嬉しくない。
メイが巨大包丁を構えそれを払い落とさんとした、その時
バシィィィィン!! ッバァァァァァァアアアン!!
「メイ、人間! 助けに来たぞー!」
「二人とも大丈夫か!」
魔獣の腹を火の玉や稲妻が襲い、発生した槍も明後日の方向へと逸れる。
それは救援に来た異世界の人たちのものであった。
彼らは杖や授受を構え次々に魔法を放ち魔獣を圧倒する。
更に弓や槍による攻撃を受け、魔獣は立ち上がる事もできず
ひたすらに巨大な腕と翼を振り回す。
「みんな…!」
「ご主人様、今だ!」
もうしばらくすると再度あの光線の雨を発射してくるだろう。
そうなれば助けに来てくれた異世界の人々みんなが犠牲になってしまう。
それまでに決着をつけなくてはならない。
俺は細長い三角形のアイコンをタッチする。
同時に、手元に巨大な…ランス、というのだろうか。
銀の光沢を輝かせる、三角錐の鋭い武器が現れる。
「あぁぁぁぁあああああああ!!?? あぁぁぁぁぁあああああ!!」
それに気づいたのか、魔獣はこちらに向かって巨大な腕を振り下ろす。
このままでは押し潰されてしまうだろう。
俺一人ならば。
「メイ、頼んだ!」
「おう! ご主人様!」
メイが跳躍し魔獣の腕に斬りつける。
傷だらけの巨腕はその一撃を受けて大量に出血する。
「ご主 人様の邪魔は! させねェェェェ!!」
更に斜めに一撃、切り上げるように一撃。
その強力な斬撃の前にメイより遥かに巨大な腕は
進むどころか押されるばかりだ。
「いくぞ…ここで終わらせる!」
俺が槍を構え突進し始めると同時に、
魔獣の腹からいくつもの槍が生え、俺に襲い掛かる。
更にハーレティクスの破片がさっきより弱弱しいが、
再び光を帯びて光線を射出する。
『M067マギアスレイヤーType-N。こちらの効果適用が優先されます』
そのすべからくを、銀のランスは弾き飛ばす。
ものの一瞬で魔獣の腹ごとハーレティクスの破片を貫き、粉砕する。
俺は力 の限り押し続け、魔獣の血肉にランスが埋ってもなお貫く。
そして、
ピシィィィィ…パァァン………
魔獣の体の向こうで、何かが砕ける音がした。
滝に打たれるかのように魔獣の血などの体液を浴びる中、
俺はそこに降り注ぐ異世界の人たちによる歓声をうけて
やっと勝利を確信したのだった。




