34.条件検索
その異形は大きな腕を振り回し木々を破壊する。
周囲のケンタウロスを始めとする異世界の人たちはなんとか応戦しようとするが
あまりの巨体と不規則な動きに翻弄されている。
「ああああぁぁぁぁ? ああああああああぁぁぁああああ!!」
異形の咆哮はまるで世界に向かって問いただしているかのよう。
そこに怒りも悲しみもなく、ただ浮かび続ける疑問の連鎖に
答えが追い付かず苦しみだけが感じ取れる。
「メイ、あいつ何かわかるか?」
「魔獣…だと思うが……わたしも初めて見るかな。
けど気味が悪くて生理的にちょっとキツイというか」
生理的に無理。確かにその言葉はかなり相応しい。
心のどこか原始的なところであの魔獣に対して拒否反応を起こしている。
「ご主人様の武器はここからでもあいつに攻撃できるのか?」
「あぁ。問題ないはずだ」
「じゃあちょっと失礼して…」
俺は担がれた状態からゆっくりと下ろされると、
「わたしは前で戦ってる奴らの援護をしてくる。
万が一危なかったらそれで助けてくれ。それじゃ」
そのまま猛スピードで魔獣の元へと走ってしまった。
しかしあの魔獣は食べてもおいしくなさそうだ。
何かの役に立つかもしれないがそんな事を気にする余裕はない。
なるべく早く、犠牲者も出さずあいつを倒したい。
「エル。この銃ってもっと威力を高くできるか」
『はい、シュン様。本体側面の制御チップをオフにするほど
次弾発射までの間隔は長くなりますが、単発の威力は上昇します』
俺はそれを聞き銃の横に数個ついている出っ張りを全部下に下げた。
すると内部でガチン、と切り替わる音が鳴る。
それを聞くや否やエルに教えて貰った構えに再び入ろうとしたが…
バッギィィィィ!!
「ぐぅぅぅぅぅうううううううう!!!」
魔獣の一撃で果敢に立ち向かっていった豚のお兄さんが吹き飛ばされる。
かなり深く入ったようで大きく飛ばされるが、魔獣の攻撃は止まらない。
「アントン! 今助けるぞ!」
そこに駆け付けたのは俺のよく知るロバートさん。
彼はアントンと呼ばれた豚のお兄さんを抱え上げるが…
「ああああああぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ??」
「なっ! しまった!!」
それを逃がさんと魔獣は飛び上がり、
脚の位置にある大量の手でロバートさんを掴み上げた。
彼は脱出は難しいとみるや素早くアントンを遠くに投げる。
それを見て、俺は
「あっ、ロバートさんが…!」
俺は急いで引き金を引く。しかし…
ビュゥゥン…ッ! ジュゥゥゥッ!!
それは魔獣の腹部を掠め、どこか遠くに飛んでいってしまった。
当たった部分から相当な量の血が流れるが、大きなダメージにはなっていないようだ。
さっきまで働いていた銃の補正が弱くなっている?
『オブザーブ・ジャマー、仮想マギア飽和フィールド…
その他マナ照準システムを阻害するエフェクトを探知。
シュン様。対象はこちらの射口追尾を回避する能力があります』
「つまり武器任せの最強スナイパーじゃ倒せないって事か…!」
俺が情けない弾を撃っている間にも、
メイが魔獣に肉薄しロバートさんを助けようと試みる。
しかし魔獣は再び高く飛び上がりそれを回避し、巨大な腕で反撃する。
「図体の割にちょこまかと…!」
メイはすかさずそれを巨大包丁で受けるが、
力負けしているのかじりじりと押されていく。
俺は今すぐメイとロバートさんを助けたい気持ちでいっぱいになるが
この距離と俺の腕では助けるどころか誤って攻撃を当てかねない…
「エル、あいつには全部の武器が当てにくいのか?」
『いえ。対象の妨害を乗り越え即死させる装備も多々あります。
しかしそれらは過剰な威力のために、
メイを始め周囲の方を巻き込む危険性が御座います』
エルは俺が言った事をちゃんと覚えてくれていたようだ。
異世界の人たちを犠牲にするような事はしない、そう頼んだ事を思い出す。
そうしているうちに魔獣が翼の腕でメイを襲い、
それが届くより先にメイが後ろに飛び退き、魔獣の攻撃を裂ける。
更に周囲の人たちがロバートさんを助けるべく様々な攻撃を放つが
その殆どは飛び跳ねる魔獣に当たらず、命中したとしても効果が薄い。
このままでは、ロバートさんが危険だ。
俺は更にメイに問いかける。
「じゃあ逆に、致命傷にはならないが当たりはする、
って武器もあったりするのか?」
『はい。その条件に当てはまる装備はこちらになります』
殆どのアイコンが消滅し、いくつかの原始的な武器のアイコンが上がってくる。
更に注文を加える。
「その中でこっから投げて相手の後ろからぶつかる…
えーっと、ブーメランみたいな挙動をする武器」
『少しお待ちください…はい。こちらのものが残ります』
一気に減って、残ったのは数個。
そろそろ決めにかかろう。
「じゃあ、あいつを倒せなくとも
押し倒すくらいの重さがある武器って、あるか?」
『こちらの装備が、以上の条件を満たします』
最後には斧のアイコンが残った。
…俺は今更になってエルの使い方がわかってきた気がする。
ズ、ガスン!
それをタッチすると、鋼鉄と青白いパイプの目立つ
かなり大きな斧が落ちてきてそのまま地面を抉った。
「で、でかい…。持てるのか……?」
『重力制御されておりますので、問題なく使用できるかと思います』
最初のハーレティクスを倒した時のあの銃みたいなものだろうか。
俺は上から引き上げられているような、不思議な感覚で巨大斧を担ぐ。
そして暴れまわる狂気の魔獣を見据えた。
何でもいいから倒すだけならエルの武器を使うだけでいいだろう。
しかしこんな制限された状況の中ではそういうわけにはいかない。
だから俺は、エルにもっと頼る事にしたのだ。




