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33.崩怪の咆哮

「さて、始めますか」


メイが眼鏡を外し精神的なスイッチを切り替える。

巨大蟻の巣で見た、鋭い視線と兎にあるまじき牙の見えるちょっと凶暴なメイになる。

彼女は木の箱…のように見えていた鞘から、大きな刃物を取り出す。


刀や剣というよりはとてつもなくデカい包丁のように見える。

メイはそれを右腕で軽々と担いだ。


やっぱりとんでもなく力持ちだな…


「エル。こっちも何か用意しとこうか」

「はい、シュン様。こちらの装備がリストアップされました」


相変わらずシンプルなシルエットの武器アイコンが並ぶ。

しかし分かりやすいのはいいが最近はちょっと詳細も一緒に載せて欲しかったりする。


…いや、多分難解な単語が並んで見にくくなるだけか。


そこで黒く沈んでいるアイコンがあることに気づく。

中に時計のようなグラフが3割ほど進んでいる状態で示されており、

まるでアプリをインストールしている途中経過のようだ。


「エル、この押せなさそうなアイコンは何なんだ?」

『こちらは現在修理中の装備となっております』


修理中か…。そこでふと、そのアイコンは盾の形をしていて

俺が二度目にハーレティクスと遭遇した時に選択したものと同じことに気づく。

つまりは、あの時破壊されたバリアみたいなものを治している途中らしい。


かなり派手に爆発していた気がするが、治るものなのか…


「あれかなり凄い壊れ方してたけど、治るの?」

『勿論です。最新機種ですからサポートは万全です』


アイコンより手前にいつもの顔文字が現れドヤ顔を披露する。

それじゃ選べないだろと俺はフリックしてその顔を画面の外に投げ飛ばす。


それにしても、あそこまで壊れたものも治せるのか。

俺は勝手にエルをアーマー・ゾーンのような、何でも揃う通販会社から

未知の技術で手元にワープさせてきたと思っていたのだが。

修理もできるとなると、むしろ工場から直接飛ばしてきているのかもしれない。


エルの謎は深まるばかりだ。


おっと、他の皆は準備ができているらしい。

少し選ぶのに時間を取り過ぎているな。

そろそろ俺も行かなくては。


「じゃあ、これで」


俺は何か鋭い針のようなエフェクトのアイコンをタッチした。

どんな武器かはわからないが、魔獣は使い道に溢れた生き物だ。

なるべく少ない損傷で倒した方がよいだろう。

そう考えての選択だったが、


ごとん。


目の前に落ちてきたのは…細長い銃器だった。

無骨な長方形の本体から銃身が伸びており、

上部についたスコープや長い銃身から

遠距離の標的に対し有効なものと思われる。


「…とりあえず持ってみるか」


見た目の割には軽い、かな?

その凄みすらある姿に20kgオーバーも覚悟していたがそれよりは遥かに軽い。

頑張れば普通に持てそうといった重さだ。


俺は横に伸びる肩掛けベルトでその銃を持ち、

第4班のみんなが待つ配置に向かった。




前衛の班が漏らした魔獣を処理するのが俺たちの仕事だ。

魔獣は凶暴だが出会った中では弱いようで、

周りの人たちもサクサク倒していっている。


体感だと小さい方の巨大蟻より強くて猪の魔獣より弱いくらい?

俺はスコープを覗きながらそんな牛と羊を足した魔獣の頭部を狙い撃つ。


ビィィン! …パァァァァァン!


「おぉ、この距離でもあたるのか! 凄いな、人間」

「い、いえ…有難う御座います」


隣ですぐ近くまで来ていた魔獣を引きずって戻ってきた

ミノタウロスのお兄さんに声をかけられる。

一方の俺はエルが細かく指示したしゃがみながら撃つ構えで

少し遠くの魔獣を撃ち抜いていた。


まるで一流スナイパーみたいだが、


「…俺が凄いんじゃなくて武器が凄いんだけどな」

『同じことですよ。シュン様』


この銃、大まかな方向を合わせると銃口が勝手に動く。

更にどこを狙っているかはスコープの中で勝手に表示されるので、

普通にやればまず外さない。

いやほんとこれは誰でもスナイパーになれるよ。


俺はスコープごしに動かなくなった魔獣を見る。


「殆ど傷ついてないけど、あれで倒したのか?」

『はい。マナ集積部位を破壊されておりますので、

 後はマナの拡散を待てば完全に活動を停止します』


最近になってやっとわかってきたが、どうもこのマナという単語は

生命エネルギーとかそういう類のものらしい。

そして魔獣はそれがとても多いからなかなか死なないし強いという事だろう。


その方向に魔獣がいない事を確認すると他の様子も確認する。

一番気になるのはメイだが…


「エンチャント・シャープ! エンチャント・シャープ!」


ズッバァァァァァァアアアア!! ズシャァァァァァァアアアアアア!!


巨大包丁を片手で振り回し魔獣が一瞬で捌かれる。

その側面から別の魔獣が襲い掛かるが、

それも一瞬で首が飛び足が飛び動かなくなった。

悪魔かな?


彼女はずっと右腕だけで戦っている。

さっき何故右腕しか使わないのか、左腕の調子が心配になり聞いてみたのだが


「両腕塞がっていたら、もしもの時咄嗟にご主人様を担げないじゃないか」


と、ちょっと自分が情けなくなる答えが返ってきて僅かに落ち込んだ。

まぁ実際メイが俺を担いだ方がずっと早いのは事実だし仕方ない。


他の様子も見てみよう、そして視線を動かすと…


「ぐああああああああああああ!!!」


突然、悲鳴が聞こえた。

しかも魔獣の群れがいる草原方向ではない。

ずっと後方の森からだ。


「すいません、ここ任せました!」

「あ、人間!!」


ミノタウロスのお兄さんにその場を任せ、俺は声の方向へ走り出す。

恐れている事はハーレティクスの襲来だ。

こんなところであいつらによる犠牲を出すわけにはいかない。

ジークリットの災難は、少なくとも俺の前では起こさせない…!


「ご主人様、ちょっと失礼するぞ」

「あっ、ちょっ」


不意にお腹の辺りに力が加わり体が浮く。

メイが悲鳴を聞いた俺の動きに反応して追い付いてきたのだ。

来るとは思ったが予想以上の速さにちょっと驚く。


「一応武器も担いでるんだけど…重くない?」

「ご主人様軽いからまだまだ余裕かな」


年下か同年齢くらいの女の子に軽いって言われたよ。担がれながら。

もう俺の心の中にある男の誇りみたいなものはボロボロだ。


全速力のメイは一歩一歩が跳躍と呼べる程に長く、そして早い。

その速度はもはやバイクや車すら超えているように思えた。

彼女の足によって、俺は一瞬でその場所にたどり着く。


「あぁあぁあああああぁあぁあ? あぁっぁああああああああ」


「…なんだ、あれ……」


それは正体不明の物質に包まれてはおらず、

少なくともハーレティクスではないように思えた。

しかし、魔獣としても異質すぎる。


「ああああぁぁぁぁぁあああっぁ?  ああああああっぁぁぁ」


大きく変形した右腕と翼の左腕。

大量に生えた足の先端は人のような手を形成している。

顔であろう場所には大量の目玉を持つ肉塊があるばかりで

所々歯や口のような部位が瞬きに似た動作を繰り返す。

そして胴体には、何か大きな腫瘍のような物体。


「こいつは、何なんだ…?」


ハーレティクスのような本能を揺さぶる恐怖ではなく、

おぞましい程の気味の悪さが俺に強い嫌悪感を抱かせた。

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